第15話 首都高脱出戦線
2011年12月31日
「おい、まだ開かねぇのか!?」
「サッサと晃京から出させろ!」
「防衛省の安全基準の判断まで通行はできません!
許可が下りるまで今しばらくお待ちください!」
数百人もの都民達が集まり、開通を迫っていた。
開始時間に出たいと同じ考えをしていた人も多く、
高速道路検問、パーキングエリアはごった返しで
コンクリート地上を埋め尽くしていた。
到着した自分と郷は阻まれるとばかり最群列の後ろから
ライトに照らされた彼らを見る。
「多いな」
「まだ開いてなかったのか!?」
自分は郷が運転する後部座席に乗りながら
周囲を観て顔が固くなる。
予定だと22時だが、過ぎてもまだ開かなかったので
晃京を出たがる合唱隊に交じるしかなかった。
「ホントに出れんのかよ!?」
「しょうがない、俺達も待つだけだ」
強引に入れるわけがなく、
エンジン音と排気ガスが立ち込める間、
少しばかり遅れて料金所は開いた。
1台ずつ通され、我先に速度を飛ばす塊。
ただ、他県に移動する者ばかりとは限らず。
レース感覚で高速道路をやたらと走り回る連中も
増え始めていた。
「よぉ、オメエらもハシリか!?」
「ちげぇよ、埼王に行くだけだ!」
イベント好きなバイカーもやって来ていた。
連中にとってここはサーキット場とみなして
遊び感覚に
光の当たらぬ箇所から
開放による自由はほんの一時だった。
どこからやって来たのか、地上と空の双方から
紫色のヒョウ型悪魔が後方から走り、
羽が生えたコウモリ型悪魔が滑空してきた。
「ギャアアァ!」
「いひぃえあ゛あ゛!」
輩を狙って襲い掛かる。
ヒョウに噛みつかれて引き裂かれ、
コウモリに体液を浴びせられて溶解。
気が付けば、有機物の塊が散乱。
「おい、アレ!?」
(現れたか・・・)
バイカー達の悲鳴は自己主張の度を超えた声で、
心の中で来るとは思っていたが、望むべくもなく
結晶より来訪者が脱出を阻みにきた。
クラーレを薙ぎ払ってヒョウを後退。
どうにか跳びかかるタイミングを見定めて斬った。
思わず地上ばかりにとらわれたのか、
1体のコウモリ型が寄ってくる。
「この
「前を向いてろ!」
液体を吐きかけられ、車体が揺らいだ。
郷にかまうなと叫ぶ。
コウモリなのか、幸いスピードはバイクの方が速く、
多数に絡まれずに
だが、ヒョウ型は速く追いつかれる程なので、
警戒対象なので変わりなく、
このまま出口まで向かうのは危険と判断。
「郷、まだ埼王料金所に行くな!」
「どっちだ!?」
「下だ、今出口に行っても追いつかれる!
周回しながら対処するぞ!」
上下に分かれた道路の下側を選ぶ。
出口は混んでいると分かっているから、
もう1周しながら引き離す手段を立てた。
深緑の刃で地道に振り続ける。
一方で京香も高速道路にいた。
友人宅に泊まると両親に噓をつき、
バスを利用して晃京脱出を図ろうとする。
しかし、出口付近は混雑状況。
道路後方で異変に気付いた車の群れが渋滞を起こし、
乗り物だらけですし詰め状態。
自分は耐えきれず下車ボタンを連打した。
「ここで降ります、開けて!」
料金分を払ってさっさと降りた。
埼王入口まで500mもない。
車にはねられないよう、端に沿って走る。
後は適当にタクシーをつかまえてホテルで一泊。
店はもう閉まっているはずだから、
翌日から悠々と探せば良い。
きっと大金になる。
もはや、私欲を抑えられなかった。
一定間隔の外灯をいくつ越えたのか、
晃京を抜けて駆けてゆく時だった。
「うっ!?」
脚に何かが刺さる。
よろけて腰がフェンスに勢いよく接し、
軸に上半身が回転して外側に向かう。
そして、万物を従わせる重力によって落下した。
「がふっ!?」
頭を打って転倒。
6m下の地面へ落下してしまう。
京香は横たわり、ピクリとも動かずにいる。
「女が倒れているぞ!」
異変に気付いた自衛隊員が察知して通報、
救急隊員が駆けつけてタンカに乗せ、
すぐに病院へ連れてゆく。
「急患です、交通事故で1名!」
「晃京内の女子高生と確認、リリア准教授!」
「すぐに集中治療室へ!」
リリアを担当医として受け付ける。
彼女は病院の奥へと運ばれていった。
近い位置にいた聖夜と郷は京香の存在に気付かず、
夜道を通り抜けていた。
何匹やったのか、悪魔の姿はもう見えない。
2人は意識していなかったが、
毒剣の効果は生物型に確たるダメージを与えていた。
剣は至近距離で何度も触れられず、
一斬りで体力を弱らせていたので、
道中で力尽きさせる事ができた。
「追手はもう終わりか?」
「みたいだな、出口へ行こう」
自衛隊もすでに散開し、なけなしに悪魔の処理に
移行しているので安全圏を確保できるだろう。
安心して再び発進した時だ。
「ん?」
郷は上部で音を聴いた拍子で不意に上を向く。
何かと、口を開けっ放しでいると。
「がぽっ!?」
郷は喉に違和感を覚える。
口に何かが飛び込んできたようだが、吐き出せない。
「「なんだ・・・体が?」」
まるで自分がそこにいない様に感覚神経が鈍り、
続けて運動神経へ障害をもたらしていった。
なにくそと運転根性で姿勢を保ちながら風を切り、
上手にドリフトをしてカーブを曲が。
「曲がりきれねえええ!」
というわけにいかず、道路端に突っ込む。
時速30kmの塊は慣性の法則に従うままに
ガードレールに向かってゆく。
「うわああああっ!?」
「うおおおおおっ!?」
転倒。
衝突前に、自分と郷は放り出された。
郷はそんなに運転が上手くないのを今更思い出した。
(クソッ、こんな所で・・・)
しかし、自分はACのおかげで無傷で済んだ。
友人と同じ目に
まさにミイラ取りがミイラ取りになりそうに、
包帯代わりのコンクリートで包まれるところだった。
ここは悪魔も住民もいない。
そこから数歩先にいた自分は郷と合流するために
暗い夜道でさっきから相方の返事がない。
「郷、どこだ!?」
「せいや~」
「どうした、ご――!?」
「ヒョウ!?」
そばにいたのはしゃべるヒョウ型だった。
外見は先に遭遇したものと似ているが、何やらおかしい。
マヌケな声からして、敵性のものではなかった。
「待て、オレだよオレ! オレだっての!」
「お前、郷か!?」
いつもの聞き慣れたうるさい声がする。
郷はネコ科の悪魔に変わっていた。
「何が起きたんだ!?」
「なんか、食べたような気もする。
いや、食ったってよりは口に入ったような」
「口に入った!?」
上を向いた時に何か口内に入ったと言う。
悪い物を食べたにしては買い食いなんてする
余裕がなかったはず。
彼女達に相談するしかなく、解決の糸口を頼んだ。
何て説明するのか見当もつかない。
「聞いてくれ、郷がネコみたいになったんだ・・・」
「「なんですって!?」」
「すまん、俺も何て言えばいいのかまったく・・・」
「「ミイラじゃなくてヒョウになったのね、まったく」」
「なんとかしてくれえ!」
「「明日、正倉院神社に来て。
退魔法で何か分かるかもしれない」」
「厘香の家か、分かった」
携帯を切る。
埼王に行く予定を変えて一度帰ろうとした。
1人と1匹は暗い
自衛隊や通行人の目から隠れる。
「なに、この世界!?」
「見舞いどころじゃないな、これは・・・」
このままだと見つかって処分されてしまう。
幸い、足は高速移動のできるコイツに代替。
自分は郷の背中に乗り、
沙苗の待つ駐車場まで移動しようと
人目を忍ぶように首都高速道路から撤退。
明日、厘香の家、正倉院神社へ行くことにした。
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