第14話  紫遊女

2011年12月30日


 時は午後9時過ぎ。

甘谷区のビジネスホテルに女子高生と公務員が一室にいる。

池田いけだ京香きょうかは援交で男と出会い、

色々と交渉するつもりで落ちあっていた。


「うひょひょ、ネエちゃん早く入ってこいよお」

「え、ええ」


男がドアから顔を出して風呂場に入れと催促。

もちろん、脱いでいくわけがない。

体は当人の所へ行くが、易々と懐をせるつもりはなし。

スパークする細長く黒い機械を握りしめて向かっていく。

そして。


「ブロオオグオガゴオモホホブェ!?」


スタンガンで気絶。

隙に財布を漁って現金を引き抜く。

自分はいつもこうやって金を調達している。

相手も人目を忍んでやましい事をしてるから、

警察に相談なんてできやしない。

男女の隙間をくぐり抜けてかてを得てきた。

国の役員と聞いていただけあって中身は上々。

せしめて部屋から出ようとすると、

ソファーの上に黒い袋があった。


「や、なにコレ・・・宝石!?」


紫色の石が20個入っていた。

めっちゃ綺麗。

棚からぼたもちの中にさらに宝石まで手に入れて、

嬉しさで叫びそうになる。

これは高く売れそうとスキップ足でトンズラ。

しかし、最寄りにある宝石店に着くも、

どこも閉店で現金交換ができない。


「買い取りできないじゃん、サイアク!」


どういう訳か、貴金属関係の売買は中止になっていた。

スマホで他に良い所がないか探してみると、都内は全滅。

しかし、都外を検索し直すと。


「ん?」


都の外ならできる店があった。

晃京内では買い取り不可でも他県なら可能。

だが、外周はどこも封鎖されてまともに出られず。

画面をTOPページに戻し、不意に見てみると

近隣一帯についてのニュースがあった。


(首都高速道路出入口、連結補正をかける?)


自衛隊による他県との交通網を再設定するという。

明日の夜間から一部だけ抜けられると知った自分は

袋のひもを強く握って微笑んだ。



 場は移り、聖夜の家こと喫茶店黄昏たそがれ

マナ、厘香、カロリーナ、郷が集まる。

話題は同じ、道路交通についてのものだ。


「一部の交通を解除するって?」

「そ、物資の出入りをスムーズにするために

 高速道路だけ管轄で開けとくって」


同様に情報に通じるカロリーナは聖夜達に伝える。

自衛隊は晃京封鎖を行うも、物資の輸出入に詰まる

事を懸念して一部の道路のみ通行可能エリアを敷く

予定を立てていた。

しかし、交通量がまだ先細りするので、

当然ながら流通センターに余波が起こる。

こっちの懸念としては店の素材も打ち止めを食らうから

姉がため息をつく。


「仕入先のお店からここに来られないって、

 売れ時まで届かなくなっちゃうし・・・」

「閉店するのか?」

「お店閉じたら費用どうするのよ!?

 お年玉抜きで良いの!?」

「しまった」


ここ黄昏も材料にも制限がかかり、経営もできなくなる。

特に集客を狙う年末年始は見込めなかった。

目先は国の話題に切り替わる。

自衛隊のバリケード設置は本当に意味があるのかと

郷が発言した。


「国がやってるのって、本当に効き目あんのかよ?

 バリケードで塞いでも、上がスカスカじゃん」

「あたしは関わってるわけじゃないけど、

 バリケードもACの仕様が入ってると聞いたわ」

「退魔的な素材とか?」

「うん、私の家も厄除やくよけの物があるし。

 御守りの中にACを入れて退けているの」

「そうか」

「・・・・・・」


厘香の家でも悪魔退散用のACがあるという。

それの大掛かりな発展版を防衛装備庁が準備。

大昔から行われているだけあって、

異界への対策はすでに対応できていたのだろう。

郷は静かにして飲み続けていた。

いつもは人一倍にぎやかでうるさい奴なのに、

何か言いたげに、話を切り出した。


「おい、聖夜」

「どうした?」

「実は埼王に知り合いいんだけど、

 そいつが24日の騒ぎで事故っちゃってさ。

 そっちの病院へ運ばれてったんだよ」

「ああ」

「容態はあんま良いとはいえないんだと。

 できれば明日には行きたいんだ」

「ずいぶんと急だな、まさか」

「晃京から出たいんだ、見舞いに行きたくてよ。

 その、ACの力でどうにかできないか?」

「!?」


郷はバイクを持っているので、そこから埼王へ

友人のいる所へ行きたいという。

自分は賛成するのはもちろんだが、

彼女達の意見が介入するのは避けられず。

独自判断で向かうのは許されなかった。


「大丈夫か?」

「昼間はまだ開通しないわ。

 予定では午後10時以降からよ?」

「相手はいつまでもつか分からない。

 できるだけ早く行ってやりたいんだ、頼む」

「本気か・・・?」


想定だと危険度は低いらしい。

陸から上部に位置する高速道路はACが落ちている

可能性も低く、悪魔の出現も少ないとみた。


「一応、都庁から少し離れた道路なら大丈夫だと思うけど、

 自衛隊管轄外で動くのは危ないわ」

「開通直後でトラブルも起こるかもしれないよ。

 行っても良いけど、気を付けてね」

「人入りが多くなる分、るモノもってくるし。

 ミイラ取りがミイラにならないと良いわね」

「ってことは行って良いんだな!?

 よし、行ってくる!」


OKのようだ。

彼女達の了承を得て、郷を他県に送る事にした。

新年は他所よそで迎える。

時は31日の大晦日。

男2人は埼王の病院を目指して

首都高速道路に向かおうと決まった。

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