第7話  手応え

2011年12月26日


 路地裏で起きた事件は悪魔の奇襲として処理された。

俺と郷は恐喝の被害者として、最低限の事情聴取で

事は終わり、銀ナイフは刃の形状から川上の傷口と

異なるために罪状はまぬがれる。

突如現れた謎の人型ロボットは何も分からずに、

人の目から逃れるように都心部を後にした。


 そして自宅に帰り、食事や風呂を済ませてベッドで寝る。

警察は自宅に連絡してこないのは不思議に思ったが、

姉に心配させたくないから黙っている。

疲れているはずなのに、なかなか眠れない。

あんな凶行を受けたから、意識がまだ沈みきっていない。

横のテーブルにACを置いたままカーテン越しに

月のわずかな光に反射して光沢を放つ。

自分も異能をもつセンスがあると突然告げられた。

何故、結晶なのか?

人にとって飾りだとしか思っていなかった物が、

宝石を集める趣味のない自分に接点がつながるとは

世界のルールが曲がっていく様に錯覚しかける。

今の時間帯では都庁から悪魔が現れて人を襲っている。

自分はまだ素人だから現地に行ってはいけない。

浮世うきよ離れした異界の交わりとは何なのだろうか。

さりげに手を伸ばして触れてみる。

“なんとなく”もう少しだけ発動してみようと

午前0時を回って、近所も気が付かないと思い、

寝静まった庭で練習してみようと外に出た。

内の1つ、赤いACのレッドジルコンを左手で握る。

火を放つと念じれば、すんなりと発火できた。

火傷やけどを起こさずに、自分の体と馴染なじむ様な

一体感を覚えつつ“力”として現れる。

ただ、握った部分から前方に飛び出す方法がない。

銀ナイフも短いから、相当近づかなければならず、

腰をかがめて右手を前に振る。

彼女達はそれぞれ飛び道具をもっているそうで、

女性ならではの立ち回りで事に当たっているという。

どうにかして、火くらい飛ばして自分の欠点を

補おうとしたいが、上手く飛ばせなかった。


(もっと、もっとおぉ、ふぅおおおおっ!)

「聖夜?」


姉にアッサリと見つかってしまう。

わずかな音を感づかれて事情を求められた。

手品の練習なんて言い訳はまず通用するはずがなく、

生まれてからウソをつき通せた試しがない。


「・・・という訳なんだ。

 同級生から宝石を借りて、ちょっと」

「・・・なるほど」


ACの事、彼女や組織との件を自白。

協力しろと言われても、助けられたかたわらで

断れるはずがなく、異世界から飛んできた様な

魔法現象の扱いに巻き込まれて離れられる離れわざなど

持ち合わせていなかった。

実際に都庁から悪魔がやって来たから、

少しは飲み込んでくれると思っているのだが。

事情を聞いた姉の反応は。


「まあ、仕方ないわ。

 襲われた時に助けられたお礼もそうだけど、

 全員女の子で男の助けを必要とするのも分かるわ」

「俺はよく分からないんだ。

 適性があると言われて、悪魔を倒せとか」

「適性・・・については何の事かあれだけど、

 才能や感覚的なもので解決できる見込みで

 求められているんでしょ? そうね・・・」

「どの道、都心部で俺や郷も襲われたんだ。

 また、いつ来るかと思うと動かずにはいられない。

 本当にやって良いか?」

「ただし、無茶しすぎるのはダメよ?

 身の危険を感じたら、すぐに逃げなさい」

「わ、分かった」


姉は許可してくれた。

突拍子とっぴょうしもないはずの悪魔を倒そうなんて

普通なら反対されると思ったけど、許してくれた。

条件付き同意の下。

深夜の中で姉とひっそり、約束を交わした。



 翌日、カロリーナから電話がきた。

川上の件について、一応無事に終わったのを伝える。

郷にACを知られてしまったのは予想外だったが、

彼女達にとって予想の範囲内だという。

実はまだ顔を出すべき所もあると言われた。


「俺の武器を?」

「「そう、アンタの今の装備じゃ、これから何が出るか

  分かんないものを相手しなきゃいけないし。

  で、悪魔討伐するには武器がいるんだけど、

  あたしらじゃちゃんとした物を持ってないの。」」

「さらに貸してくれるならありがたい。

 製造場所はどこなんだ?」

「「科警研、ACを加工して別の形にできる人がいて、

  そこでまた色々造ってくれるって」」

「け、警察の機関!?」


公の防衛組織の名をだされて正反対の印象を受ける。

自分の武器製造に関する所は警察機関の一角であった。

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