第8話  命の水

 聖オルガニック病院の裏口に1台の車が停止。

青い杖を付いた白衣を着た老人が関係者専用口へ

ゆっくりとした歩調で入ってゆく。

複数の医者達も気付くや、腰を低くして挨拶あいさつ

内、1人の部下であるリリアが応対しようと

すでに院長室で待機していた。


「お、院長先生!」

「リリア君」


エドワード・エルジェーベト。

聖オルガニックの院長を勤める者。

リリアは聖夜の件について話しをするべく、

抱えていた人体模型を壁にかけ直して、コップに水を注ぐ。

彼が来院した時は必ず1杯差し出すのが通例となる。

ガラスコップに入った水を飲む。


「うむ、いつもののどごしだ」

「今日は私が沸騰ふっとうしたものです。

 ミネラル水は一切使用しておりません」

「教えはきちんと守っているようだな。

 アルコールなどもってのほか

 余分な毒素など管に吸収させてはならん」


院長は市販されている飲料水を飲まない。

療養以外ではほとんど常水のみ利用している。

病院内で違法とされているわけではないものの、

貫禄ある彼の教えに従っているだけであった。

部下の医者達も外では隠れて飲んでいる者も多いが、

水分に関してはどこよりも重んじられている。

日頃から同じく飲まされているだろう、

彼女も例外ではないのだが。


「おかげで、私も80まで生き永らえた。

 負担を与えぬ真水しんすいこそ、

 生命を保つ真髄しんずい

 細胞1つ1つに積み重ねて語りかけるだろう。

 カロリーナは?」

「捜索に出ています、向こうの依頼ですけど

 悪魔討伐のための武器を造るそうで・・・例の子と」


院長にまだ詳細をきちんと伝えていなかった。

いつも出勤していないのだが、今日来た理由は

前もって聞かされた適性者について彼女から

近代文明の象徴である携帯電話に億劫おっくうで、

運転手からわざわざ伝えなければならなかった。

到着時間も予定よりずいぶんと遅く、

誰も高齢の老体を急かす権限をもつ者などいないので、

最も通達役にいたリリアの口から直に伝えてゆくのが

恒例であった。


「期待の星がとうとう見つかりました!

 神来杜聖夜君という子がスゴク適性のある

 性質だって分かったんですよ」

「彼かね?

 ずいぶんとメラニン色素の薄い子だが。

 都庁の発生に起因されたかの様な遭遇だな」

「悪魔の出現と関連があるのかもしれません。

 神と魔王、双璧は常に共に誕生すると」

「ふむ」


エドワードは聖夜がどの程度までACと馴染んでいるのか

知りたかったようだ。

彼女が撮影したレントゲン写真を1秒観て、机に置く。

納得しながら病院の協力者として迎える事を許可した。


「そうだな、彼ならば一転させられるやもしれん。

 わざわいを転じて福と為すこの晃京の救世主となろう」

「あの子にも回収するように言いましたけど、

 やっぱり、青のACは継続ですか?」

「無論、コランダムの理だけではない。

 人と精神、双方とも青は助力してくれる。

 “成功の知恵を得る”、チャクラとしても

 ACの恩恵は増し続けるのだ」

「・・・・・・」

「だがたところ、慣れていないのか

 まだ彼の適性力は完全に発揮していない。

 水、氷の秘術も大きな糧を与えてくれる。

 青玉せいぎょくの回収を続けるように」

おおせのままに」


青のACを収集する理由がこれであった。

くうを遠くまでとどろかせる様な色は

いずれ必ず必要不可欠の代物になるとさとす。

リリアは何も言わずにうなずく。

空になったコップを手に、再びポッドにみ直した。

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