第3話 負け犬騎士

「いくらさんがいれば、なんとかなりそうな気がしてきました!!」

「そ、それは良かった」

 スキップでもしそうに上機嫌な葉月と、その数歩先の草を踏み倒しながら歩くいくらはとにかく森の中を進んでいた。

 あのあとは確認も兼ね、お互いの本名も含め改めて自己紹介を済ませた。積もる話はあったが、何も把握できないままでは夜も明かせないといくらが発言し、葉月はそれに従う形になった。せめてさっきみたいな化け物がいない場所を探して休みたいという気持ちは一緒だったので。そして今は話しながら歩くという体力消費無計画な行動をしている。葉月は道に迷わないように通る道の木に蹴りで足跡をつけることも忘れない。

「でもよく私が葉月だってわかりましたね。顔合わせてないんですよ、私たち……は!! こ、これがまさか愛の力……!?」

「キマシタワー建てようとすな!!」

「それともまさか神絵師の力……!?」

「君の中の絵師のイメージだいぶ偏ってるよね!? 頭おかしいと思われるのは全然いいけど、超能力あると思われるのはのちに困るからやめてください!!」

「頭おかしい自覚はあったんですね」

「声に出てますけど」

 狂気補正が神には必須の状態異常だと思っていた葉月は、困惑したいくらの顔に逆にキョトンとした。盲信。圧倒的盲信であるッ!!

「で、なんで私だってわかったんでしょう」

「ああ……まあ確定じゃなかったんだけど……ほら、前にやった診断メーカーのやつ。スライム召喚したらそれを思い出してさ」

「そういえばそうでしたね診断メーカー……あ! そうか! 電気椅子とスライム召喚!! 覚えがあると思ったらいくらさんの診断結果か!」

「我ながら狂った結果だなと思うわ」

 つい先ほど感じた違和感が消化され、瞬間思わず手を打っていた。いくらは葉月のその動作をどこか虚無顔で見ている。

 素人が作ったジョーク診断アプリの一つに”異世界転生したらどうなる”という内容の作品があった。そこに名前を入力するとランダムな組み合わせで結果が排出される……いわゆるいつどこで誰が何をしたゲームのようなものなのだが、暇つぶしにはなかなか最適で、たびたびお世話になっていた。今回のジョーク診断の結果は、葉月の記憶に残っているもので、死因、転生後の目的、チート能力だった。

「それでもしかしたら葉月ちゃんが一緒に来てるんじゃないか、そうじゃなくても同じような立場の人がいるんじゃないかって思ってさ」

「まじでいくらさんがスライム召喚する能力獲得してるの笑うし、電気椅子で死んでるのも笑う」

「まだ死んだと決まってねぇし(震え声)。私はスライム召喚出来たことに驚いてるし、葉月ちゃんが武道の達人使いこなしてることにも驚いてる。そもはじめの一歩で装備が一つも無くなってることにビックリしてるよ」

「そういやなんで男性になってるんです?」

「さあ……流石に女の姿でスライムに服溶かされたら障りがあると判断されたんじゃないかな……ほら、放送コード的なやつ」

「男の全裸は許されるという風潮」

「大事なとこは隠せるからオッケーです」

 いや、アウトでは? 後ろ姿でサムズアップするいくらの現地民族のような下半身のエコな装備を一瞥してそう思ったが、葉月は口には出さなかった。なにせ神が言うのだから、大丈夫じゃなくてもオッケーなのだ。葉月は狂信者である。白い物も神が言えば黒くなるし僕は惡にだってなってやる。

 そばにいる友人がそんなやばい信仰を抱えているとはつゆ知らず、いくらは辺りを伺いながら前進していく。

「私としてはこっちの方が体力つきそうだからありがたいなと思うわ。男はすぐに筋肉作って言うし、異世界だとしたらこれはお得。これもある意味転生特典かな」

「女子としての自覚はいずこ??」

「長年放置された落ちなら砦に意味などなかった」

「……無課金アバターみたいで素敵ですよいくらさん!!」

「露骨な話のそらせ方~。というかそれが顔の話なのか装備の話なのか……まあよほどアレじゃなかったらいいけど鏡見つけたら確認したいなぁ……しかし森も終わらないし食べ物もないねぇ……」

「そんないくらさんに朗報です」

「ほう、なんでしょう」

「なんか実がなってますよ」

 振り返ると葉月が空を見上げていたので、いくらも上を見る。いくらが両腕を回しでも届きそうにない程度に太い幹気に、赤い実がなっているのが見えた。。

「わぁ、りんごっぽいね……いつから気づいてた??」

「さっき会話の途中から見えてきて、そこから話しかけるタイミングをうかがってました」

「もっとはやく声出してこーぜ!! で、食べれるのかなぁ、あれ」

「とりあえずもぐために薙ぎ倒しますね!」

「ちょ、待っ……たーおれーるぞぉー!!!!」

 轟音を立てながら自分に向かってくる大木を全裸スライディングで避けるいくらを、葉月は穏やかな笑顔で見守っていた。サイコパスかよといくらは思った。


「鳥ってさ、唐辛子を辛く感じないらしいよ」

「そうなんですか?」

「そういう器官だか感覚だかがないんだってさ。だから唐辛子とかが成ってると哺乳類は食べないんだけど鳥は食べて、その種をフンと一緒に遠いとこに運ぶんだって。鳥に食べられて生息地を広げようとするために植物が進化したのか鳥が進化したのかどっちなのかは忘れたけど」

「へー」

 どこで覚えたのかわからないいくらの知識に感心したのか興味がないのか、葉月は気の抜けた声で相槌を打つ。一方いくらは赤く腫れあがった唇を半開きにし、疲れた顔で項垂れた。二人の手には真っ赤な実が握られている。葉月はもりもりとその体積を胃に移しているが、いくらは一口齧っただけですっかり食欲を落としていた。

 それというのも、葉月が見つけて入手した真っ赤な果物……見た目も食感もりんごだったが、唐辛子を彷彿とさせる味だったのだ。

「せめて辛さがまだマシだったなら……!」

「美味しいのに」

「そりゃ君は辛いの好きだもの……そもこれ辛いっていうか痛いし、私はとてもじゃないけど食べられない……いや唐辛子は辛いけど確か栄養価高いしきっとこれもなにか意味があるはず……いや……いやでも食べるけど絶対これ痔悪化するやつ」

 目から光を失くしたいくらがぶつぶつ言いながら果物を眺めているが、なかなか口に運ばない。その横で葉月は薙ぎ倒した木に成っている次の実に手を付ける。何の遠慮もなく成っている身はすべて食べつくす気の葉月は、横の神絵師を見て目を瞬かせる。

「いくらさん痔なんですか」

「いや私次女」

「私長女! 日本語って難しいですねぇ。そうじゃなくてお尻の痛みの話ですよ」

「あらやだ私ったら食事中にすみませんねぇ……いや、ほら診断にもあったじゃん? チート能力の代償って。でもまさかマジで代償発生するとは思わないじゃん?? ノリで召喚しただけだったからそんな覚悟してなかったし……てかこれチート能力か??」

「代償?」

「そそ。ほら私、スライム召喚できる代償に慢性的な痔になるって結果だったし辛い!!」

「そんなんありましたっけ」

「あれ、覚えて辛!! 覚えてない?」

 一口食べるごとにリアクションをするいくらに律儀さを覚えつつ記憶を辿る。ジョーク診断の結果に笑った覚えがある。主にいくらの結果で。なんで服を溶かすスライムを召喚して痔になるんだと思った記憶が蘇った。

「なんでスライム召喚すると痔になるんですか?」

「いや私が聞きたいが辛い!!!! なんでさっきから葉月ちゃんはそんなシャリシャリ食べれるの!? 味覚か!? 味覚が死んだのか?!」

「いや、うまみはある」

「そうなの? 葉月ちゃんの代償って、五感のうちいずれかの消失って聞いてたから、てっきり味覚がなくなったのかと」

「まじ?? そうだっけ??」

 記憶を辿ろうとするが、あまり自分の診断に興味がなかったからか、意識に何のとっかかりもなく早々に諦めた。いくらほど奇抜ではなかったからだろうか。

「てことは徐々に味覚がなくなっていくのかな……? 今も辛いの全然平気そうだから少しは減退してるのかも……辛い!!」

「怖いこと言わないでくださいよ! これもちゃんと美味しいのに……ん?」

実写電気ネズミのようなシワシワした顔で果実を食べ進むいくらの横で、葉月が顔を上げる。葉月が真面目に耳を澄ませているのに気づいたいくらも顔を上げた。

「どうかした?」

「しっ……なんかガサガサする音が……」

「これじゃなくて?」

「いえ、いくらさんのいちじくの葉っぱではなく、もっと遠いとこから……あっちかな」

 股間を指差すいくらをそのままに、葉月は神経を集中する。散策中に気づいたが、武道の達人になるという能力のおかげか、身体能力が以前より上がったのを感じる。視力は裸眼でも遠くまでよく見える上に、嗅覚や触覚も鋭くなっている。気がする。

 その感覚に触れるものがあった。生き物の臭い。不思議なことにこの森には生き物の気配がない。それに気づけたのは警戒していた葉月の意識の内側に、その異物が足を踏み入れたからだ。呼吸、体温、足取り。武道の達人としての感覚がそれらを拾い上げる。

「……いくらさん、なにかあったら逃げますよ」

「えっ、なにかありそうなの?」

「多分。いざとなれば私が抱えていきますから安心してください」

「な、なん……そんなん惚れてまうやろ!!」

「……来ます」

 葉月の手に制され後ろに庇われたまま、いくらは葉月が警戒する茂みに目を向けた。


 そして。



(なにが全てのものを祝福する国だ……! 馬鹿にしやがって……馬鹿にしやがって……!!)

 腰の高さまである草の間を、その影は滑るように駆けていく。男は荒れていた。歯茎を剥き出しにするほど奥歯を強く噛み、喉の奥からは抑えきれない唸り声が漏れた。これが現状を招いた周囲との差異。どれだけ人の中に交わり、理性的に振る舞ったとして、隠しきれなかった獣性だったのだろう。

(呪ってやる……呪ってやる……呪ってやるぞ人間が……!!)

 男には頭の上部に三角の耳がある。裂けるような口には牙が並び、鼻筋は長い。五本の指は先まで毛皮に覆われ、くまなく全身がそうであった。まるで服を着て二本足で歩く獣のようであるが、その黒目がちな瞳には獣にはない知性が宿っている。

 オオカミと呼ばれる獣にひどく似ている彼を……人間とも獣とも言い難いその生き物を、この世界では『獣人』と呼んだ。

(クソッ!! クソ……!!)

 獣人は背中から染み出る血液で体を濡らしている。逃走する上で意識から外していた痛覚は、体外にあふれて冷えた個所からその存在を示し始めた。痛みに肩で浅く呼吸を繰り返すようになってくると、耐えきれずすぐ横の木の幹に体を預けてきた道を見た。

 追っ手はない。それでもこの森に逃げ込むまでは血を落としてきてしまっていたし、途中までは追っ手の存在も感じられた。追いつこうとすればすぐに追いつける距離のはずだったが……この土地に足を踏み入れることへの躊躇いがあるのだろう。  

 ならばより奥へ。追手が踏み込めないほどの奥へと逃げる必要がある。足取りは重かったが、理由のわからない使命感に駆り立てられ、動かない体は無理に動こうとし、痛みにうめき声が漏れた。

(……『始まりと終わりの地』には、何人たりとも侵入するべからず、か……くだらない……)

 神王国の規律が脳裏に浮かんで、喉から溢れる唸りがひときわ大きくなった。信仰心を持っていた己なら遵守しただろうその規律も、今の自分では一笑に付すようなただの縛りのない約束事に過ぎない。

「ぐ……ッ……くそ、出血は止まったが……深いか……どれだけの膂力で振り抜いたというんだあの愚か者どもが……!!」

 痛みが引かない。だがこの痛みを感じなくなるとまずい。感覚として傷が深いことはわかるが、幸い出血はほぼ止まっている。人間よりも頑丈な獣人でなければ死に至ったろう一撃。おそらくは剣を使われた。野盗であれば毒の心配もあったが、使用したのは同僚ともいえる相手達だ。その心配はないだろう……そこまで考え、脳が煮え立つような憎悪の感情が湧き、その衝動に背を押されるようにして、歩一歩足を踏み出す。背中の痛みに意識を向けながら、男の足は森の奥へ向かっている。背中の傷は、男の憎しみの証でもあった。

(生き残ってやる……生き残って、あいつらの喉笛を一人残らず噛みちぎってやる……!!)


 男は絶望の淵にいた。



 フランベルは、大陸で最も大きく幸福な国・神王国セントルーデンの端で、ひっそりと生を受けたオオカミ族の獣人だった。神王国には多くの獣人がいたがオオカミの獣人族は珍しく、その中でもフランベルは一際珍しく吉兆である白銀の毛皮を持って生まれた。

 オオカミの獣人族と言えば、千年前神王国が成立するより以前は神話に残るほどの強大な力を持つ存在であったとされる……すべての生命の上に立つと言われていた竜と比肩するほど千年前は隆盛を誇った一族だったが、神王国が百年ほど前、周辺の小さな国々を吸収したことで、そのうちの一つの小国に属していたオオカミ族はそのまま神王国に従うこととなった。

 無学な者はそれを神王国の威光に平伏した結果などと吹聴したが、オオカミ族の老長たちは先祖が多くの血を流したことに心を痛めて、『命に貴賎なし』を謳う神王国の教えに感化され、自らの意思で神王国の民となることを望んだ。年月が経ってもオオカミ族はその考えを変えず、彼らはひっそりと暮らしている。フランベルは、その中でも変わった存在だったろう。

 神王国には国に属する三つの武力が存在する。国民男子の義務である徴兵で成り立つ『兵団』、専業兵士で運営される『騎士団』。そして騎士団の精鋭で構成される、王室親衛隊『竜騎士隊』。この三種の武力は、創国の歴史と共に千年の時を生きていた。新王国セントルーデンに生きる者で、騎士に……とくに千年前、周辺の強力な竜を駆逐したという竜騎士に憧れない者はいない。フランベルもその一人であった。厳格な、暴力を厭う一族に居ながら、フランベルという、希少な白銀の毛並みを持つ獣人の少年は騎士に憧れ、そう成った。人間よりも優れた身体能力を有していながら、過去に獣人が竜騎士に上り詰めたという記録は残っていない。周囲の反対を押しきり、幼いころから一人血のにじむような研鑽を積み、そうして獣人初の親衛隊騎士となった。騎士としての礼節をわきまえ、その恵まれた身体で繰り出す戦闘は、竜騎士と呼ばれるにふさわしいだけの実力を惜しみなく晒す。獣人であるため前例のない立場であるため常に身だしなみを整え、貴賤の差なく民と関わる彼は、国民からも王家からの信用も篤く、華やかな騎士としても名高かった。


「フランベル様、貴方様こそがこの国の平和の象徴です! 命の柵を取り払う存在を、お祈りさせていただきたい!」

「私たち民を守って下さってありがとうございます、騎士の方」

「貴方様ほどの気高い獣人を見たことがありません! 獣人の誉です! 私も獣人として騎士になって見せます!」

「私は貴方様に憧れ、騎士となりました! フランベル様、どうかご指導を!」

「フランベル、私の騎士。この国が貴方という存在を生んだこと、何よりの幸福です」


 勿体無い言葉です。光栄です。当然のことです。ありがたきお言葉。

 多くの称賛を受けるたび、自分のやることは正しいのだと胸を張れた。そうして絶え間なくすべてを守るために鍛錬を積み、一つでも多くの戦場へ向かった。蔑まれる立場として扱われることのある獣人として。謙虚であれば。努力を惜しまずにいれば。恨まずにいれば。祝福され続ければ。疎まなければ。誠実であれば。

 そうあればいつか報われるのだと信じて。

 だがその努力は実らなかった。

 十五で騎士となり、十七で親衛隊となったフランベルは、妬まれ、疎まれ、獣人であることを蔑まれた。

『命に貴賎はない』

 その教えを信じていたフランベルだったが、遠征訓練の最中に味方であるはずの者たちに命を狙われたことで、いともたやすくその理想は潰えてしまっている。


 国の教えと国民の行動は矛盾した国であった。多くの民は国教に従おうとするが、純粋な人間のみが九割の人口を保ち続けた神王国では、本人たちすら意識しない差別で溢れていた。

 ……神王国は、かつて神が降り立ち、今の王家の始祖に命に貴賎はないと教えたと言う。そうして全ての命を平等に扱うことを誓わせ、力を与えた。竜や魔王との戦いの果てに、今の国と豊かな資源をも神は与えたとされる。しかし千年の時の中でその教えは形骸化してしまっていた。それを良しとする風潮に、己は殺されかけたのだ。

 蔑まれ、疎まれ、呪われても尚、騎士でいようとした己は……。

(復讐してやる……!!)

 陽の光をうけ、きらきらと輝かせた白銀の毛並み。華やかだった見目は血に濡れ、彼を知る者たちを震え上がらせるだろう。怒りに獣としての本能に理性を溶かされたまま、フランベルはかつて神が降りたと言う『始まりと終わりの地』へと侵入した。

 神話に存在が残るその森は、かつて神が降り王家に国を与え、神が去ったという、神聖な土地であった。命ある生き物は足を踏み入れられぬと伝えられるそこを、鎧も剣も持たないまま、獣のフランベルは進む。


 鬱蒼とした草木の間を無遠慮に駆ける。もう神など信じられなかった。忌々しい神がいるとすれば、それは己の、獣人たちの敵でしかない。地を侵した己に神罰を与えるというのなら、それを浴びながら、こう言ってやるつもりだったのだ。


『ではなぜ神は我々の地を侵す者を、王と定めたのか! なぜ我々を創っておきながら、あなたは我々を見離したのか!!』


 ……同輩に裏切られ、国を捨て、信仰を冒涜しようとするフランベルは、未だ神王国の信徒であったろう。神など信じていないと言いながら、その存在を心の片隅でその存在を信じていた。未知の存在が監督し、いつかこの苦労が報われることを願っていた。

 祈るだけでは命は救われないと、戦場で戦ったことのある者なら、誰でも知っていたというのに。

(……! 人の気配……)

 道のない森の中を進むうちに、フランベルの鼻が気配を嗅ぎつけた。獣人の中でも一際優秀である鼻で正面から人間の臭いを嗅ぎつけると、正常な判断力を失ったフランベルはそれを追手と思い込んだ。

 歯に力を込める。唸り声が止められない。

(惨たらしく殺してやる……!)

 地面を蹴り、走り出す。爪を剥いて茂みを裂いた次の瞬間、影が目の前に現れた

(……!? 女……?!)

 鎧を纏っていない女は……葉月は、接近してきていたフランベルの存在を察知し、見敵必殺とばかりに身構えていた。

 いくらに危害を加えられないよう、出てきたら即殺す。後方にいくらを下がらせ、その心構えでいた葉月は、フランベルが出てきた瞬間にその拳を繰り出した。

「っし!!」

「ガッ」

 追手の騎士だと思い込んでいたフランベルが意表を突かれたことが幸運した。

小柄な体から発されたとは思えないような衝撃が、フランベルの鼻っ面に炸裂した。


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