8:魔物について
作品世界内には、魔力と呼ばれる超自然の力が存在します。空気中、地中、生物の体内などに、水や酸素と同じように満ち溢れ、循環し続けています。
この魔力は、自然環境の条件によって、また人間の日々の営みや魔力行使によって、性質を変異させる事があります。『魔力が淀む』『濁る』と呼ばれる現象です。
水質・土壌汚染、山火事や洪水による生物の大量死などでも淀みは生じますが、人類文明の発展に伴い、急速かつ多量の淀みが頻繁に発生するようになりました。
知的生命体である人間の、複雑な感情の発露、特に憎悪や絶望といった負の感情の放出は、魔力を淀ませやすいと
魔力の淀みによって誕生するのが、
水中や地中から湧き出したり、生物の死体に憑依したり、生きた個体を乗っ取る場合もあります。
土や水、空気から突然生まれ出るにもかかわらず、複雑な肉体を持ち、食欲や知能まで有する、確かに生命体と言える魔物は、人類にとって全く謎めいた、脅威の存在です。一説には、異界の完成された生物が魔力の淀みによって召喚されているのではないかとも言われていますが、今の所、魔物の正体や起源について、定説はありません。
魔物の多くは、魔力を宿す知的生命体に対して本能的な敵意を持ち、人間や妖精を積極的に殺害しようとします。淀んだ魔力を欲し、人間を食べる事で、肉体ごと魔力を取り込もうとする種もいます。魔物間でも食物連鎖が存在し、時に同族同士の共食いが発生する事も確認されています。
また、魔力の淀みから生まれ、明確に魔物の定義に当てはまるものの、人間に敵意を抱かない友好的な種族も、ごく稀少ではありますが存在すると言われています。
食用にされる魔物もいますが、食べて美味しいのは大体、元々普通の植物や動物だったものに魔力の淀みが
以下、本編に登場した魔物の紹介です。
◆ゴースト
アンデッド型
死者の遺品や土地・家屋に染みついた生前の思念と、魔力の淀みが融合して発生します。
外見は恐ろしいですが危険性は低く、生前の記憶や願望に従って発生箇所周辺をうろうろするだけの個体がほとんどです。
思念の源となった人物に武術の心得があった場合は、その記憶に沿って通りすがりの人間を襲撃するケースがあるので、注意が必要となります。
◆スケルトン
アンデッド型
ゴーストの近縁種で、思念と魔力の淀み、さらに白骨化した遺体が融合した状態。もう少し遺体の肉づきが良かった場合は、ゾンビと呼ばれます。
エイダンが棒術で互角にやり合えるのはこの辺までが限界です。彼も一応、現実世界で武道系の部活にでも入っていれば、高校の全国大会でいい線に行けるくらいには強いのですが、一人で魔物を倒しきるのはかなり難しい実力です。
全く戦闘の心得のない一般人にとって、魔物は大変な脅威という事になります。
◆レイス
アンデッド型
ゴーストの近縁種ですが、強い淀みと、思念の源となった人物の影響により、言語能力や魔術行使能力を獲得した特殊な魔物です。
生態としては、思念に残留する願望や習慣を機械的に再現するだけなので、言葉は喋れても、対話は成立しないケースがほとんどです。
◆ドラコニク・スロース
鳥獣型
ドラゴンのような翼を持つ大型種で、ナマケモノの一種である普通の動物に淀みが取り憑いて誕生するもの。北の不毛の大陸から飛来する魔物です。
周辺の全ての生物からやる気を吸い取る『怠惰の呪い』の射程範囲は、山一つ分と言われ、極めて厄介です。
射程範囲から出れば、時間はかかるものの自然解呪も可能で、また
◆スカベンジャードラゴン
竜型
北の不毛の大陸には数多く生息すると言われる、ドラゴンの一種。死骸か動きの鈍い動物しか襲わない
ただし、狩猟の際に風の防護壁を発生させる習性があるので、弓矢や初級呪術だけでは討伐しきれません。
◆バロメッツ
植物型
大きな羊に似た外見で、鳥獣型魔物のように見えますが、里芋に近い植物に淀みが取り憑いたタイプです。倒して淀みを払えば食用に出来ます。
集団で暴走状態に入り、布などの繊維を手当り次第に噛みちぎる、非常に迷惑な魔物ですが、食人の習性はなく、初級冒険者でも討伐可能とされています。たまに返り討ちに遭った初心者が、素っ裸で街に帰ってきたりします。
◆コカトリス
鳥獣型
成人の身長程の雄鶏で、尾が大蛇という姿。本編内では骨格標本が登場したのみですが、呪術を行使する危険な魔物です。
雄鶏の口から水属性の毒霧を吐く上、蛇の牙の方には蛇毒があります。また、蹴飛ばされただけでも普通の衣服だと死に至りかねません。
◆ヴラディベア
鳥獣型
ヒグマの二倍近い体格、興奮すると高熱を発する毛皮といった危険な特徴を有しますが、最も厄介なのはその雑食性です。魚、家畜、農作物、人の食べ物、そして人そのものも襲って食べます。しかも翼を持ち飛行能力があるため、魔物に慣れていない辺境や離島の村落にも飛来します。
中堅冒険者や正規軍の部隊がいれば、十分対処可能な魔物ですが、外部に救援を求めづらい集落が襲撃され、深刻な被害をもたらしたケースもあります。
普通のヒグマまたはハイイログマに淀みが憑いて魔物化した種で、食べると美味しいようです。
◆オーク
亜人型
亜人型魔物は人間に近い形態で、言語や文化を持ち、あまり知られていませんが人間との交配も可能です。
人間と交わり、母体から生まれたハーフ・オークは、高い身体能力と知力を備え、更に(オークの感覚で)絶世の美男美女となるケースが多いようです。
また、古木の根から生まれる普通のオークの寿命が大体二十数年なのに対して、五〜六十年程の長寿となります。
作中に登場するディクスドゥ、グェンラーナ兄妹はハーフ・オークです。それぞれ二十五歳と二十四歳で、若々しい外見ですが集落の最古老です(木の根生まれのノッバは七歳です)。
人間の男性をさらってきて強引に事に及び、強靭なハーフ・オークの娘を族長に据える、という風習がかつてのオークにはありましたが、オークとしては穏健派な青麦峠の一族は、何代か前にその風習を廃止しました。
グェンラーナ達の母親は、数代ぶりに両想いの人間男性と結ばれたものの、一族の人間への感情を考えて、周囲には
娘が悲願を叶え、亡き母も喜んでいる事と思われます。
◆ノーザンオーガ
亜人型
北の不毛の大陸生まれの外来種で、シルヴァミストにおいて確認されている個体数はごく少数です。
しかし、遅効性の水属性呪術を使いこなし、オークを上回る肉体強度を誇る上、非常に凶暴で残忍な気性をもつこの種族は、北部地域の生態系の頂点に君臨しています。
特にオーク、ゴブリン、シルヴァミスト原生オーガなどの亜人型魔物を好んで虐げるため、いくつかの部族が北部では壊滅しています。
ただし同族間での殺害も頻発するので大きな軍勢が作れず、二十体を超える群れはまだ確認されていません。世代を超えて持続し、信仰・文化を共有する集団なども存在しないようです。
◆コヨイ・サビナンド
正規軍により指名手配中の、危険度特級
コヨイは個体名称で、種族名はシルヴァミストでは『ウェアウルフ亜種』に推定されていますが、故郷アシハラでは『
十数年前からアシハラで義賊として活躍し始め、悪徳代官を叩きのめしたり、貧しい村を救ったりしていたため、アシハラではアイドルとして大人気になりました。幕府も一応手配をかけているものの、武家にもファンが多く、また基本的に
しかし五年前、突如コヨイは拠点を移し、シルヴァミスト北方の戦線に養父であるヴァンス・ダラと共に出没するようになりました。
シルヴァミストとの正式な国交を結ぼうと交渉していたアシハラ幕府は、まさかの事態に頭を抱えています。
ちなみにコヨイは自称十九歳ですが、ここ十年以上ずっと十九歳だと主張しています。
ホウゲツはコヨイの一代記を絵巻物にするのが夢ですが、武家の人間が堂々とそんな仕事をしたら当然首が飛ぶので、別名義で出版する予定のようです。
◆アジ・ダハーカ
正規軍により指名手配中の、危険度特級
石化呪術と魔力吸収、眷属操作、分身、巨大化など、多様な魔術を使いこなす魔物の呪術士です。
また、眷属だけでなく人間の精神もある程度覗き見る事が出来るらしく、人心を掻き乱し、多くの戦争の火種をラズエイア大陸でばら撒いてきました。
高位の魔物の嗜みとして、人間に変身する能力も持ち合わせているのですが、「手脚が嫌い」という理由で滅多に使いません。それよりは、人間のパートナーを得て意のままに動かす方が好きなようです。人の姿を取ると、北ラズエイア大陸中央地域で見られるようなローブを纏った老人となります。
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