3:軍事と治安について

【正規軍】


 聖シルヴァミスト帝国の軍事・治安維持に関わる職種としては、『正規軍』と『冒険者』、それに『傭兵ようへい』『私設騎士団』などが存在しますが、この中で基礎的な練度が最も高いのは、正規軍です。


 シルヴァミストには正式な法に基づいての徴兵制がなく、対外戦争もまだ総力戦の時代を迎えていません。尉官以上の軍人の多くは、地主や貴族の次男次女らです。彼らは幼少期から既に、上流階級のたしなみとして、剣術や魔術を習っています。

 また、入軍すると軍服は支給されますが、武器については(特に魔道職は)自分の魔力に合う剣や杖を使うのが普通なので、平民はなかなか、気軽に魔道部門の軍人になれません。


 こうしたシルヴァミスト正規軍ですが、この国は不幸にも、魔物モンスターの巣窟となっている『北の不毛の大陸』と海峡を挟んで隣接しており、また、東隣のラズエイア大陸も、数十年に渡り政情不安定な状態が続いています。

 正規軍は、北と東の沿岸部に集中して配備され、あとは各都市部や村落の治安維持に当たっています。集落と集落を繋ぐ街道や、人口も魔物も少ない地域の警備には、手が回らないのが実情です。


 流石に、シルヴァミスト領内に前人未踏の地は残っていないようですが、自然の脅威と強力な魔物に阻まれ、学術調査も開拓も進まない山間部や洞窟、古代遺跡は、各地に点在しています。

 ちなみに、シルヴァミストでの魔物の出没具合を地球で例えると、高尾山や箱根温泉で普通にヒグマと遭遇するような感じです。結構嫌な世界です。


 そこで必要とされるのが、自由な旅人と探求者のための互助組合、『冒険者ギルド』です。



【冒険者】


 冒険者、そして彼らの互助組合『冒険者ギルド』の始まりは、旅商達の自警団に近いものだったと言われています。現在は、正規軍の下部組織として整備されました。


 その構成員は多様で、練度もまちまちですが、やや裕福な平民層や地方の中産階級、あるいは没落貴族の若者が、一攫千金と腕試しのためにギルドに加入するケースが多いようです。平民が正規軍に入隊しても、まず出世は望めませんが、冒険者なら実力次第で英雄や富豪の仲間入りです。

 他に、マディのような元軍人、普通の商人や猟師で多少腕に覚えのある人なども、ギルドに参加しています。近年は、旅の中で正式な身分証が必要になる場面も多いため、ハオマのような旅僧も増えています。


 仕事の現場は原則として街や集落の外、正規軍の手が回らない区域になります。

 ドラゴンの棲まう霊峰の踏破、伝説の秘宝が眠る迷宮探索……といった、ロマン溢れる危険なミッションに挑む冒険者もいますが、一方で、街道の土木工事補佐や、郊外の薪小屋の手入れなど、比較的安全な仕事も数多くあります。



【傭兵】


 傭兵とは、戦闘に特化した出稼ぎの人々です。より小回りの利く冒険者が勢力を伸ばした現代においては、随分とその数を減らしました。


 かつての、シルヴァミスト内乱の時代には、数多い活躍の場がありました。が、最後の大乱となった『妖精大乱』が既に一五〇年前のこと。荒くれ集団として知られ、時に火事場泥棒や略奪を働く者も目立った傭兵たちは、民衆の支持を失い、衰退していきました。

 しかし現在も、伝統と格式のあるいくつかの傭兵団が残っており、彼らの強さは正規軍並みであると言われます。



【私設騎士団】


 最後に『私設騎士団』とは、各地の貴族達が、領土争いをしていた時代に編成された騎士団の名残です。現代は国内がまとまり、財政難の領主も多いため、彼らもその役割を終えつつあります。

 ただ、正規軍の配備が手薄になりがちな西部地方の貴族達は、まだ自分達で領地を守るという意識が強く、いくらかの私兵を継続して雇い、自ら育成したりもしています。


 西部で最も有名な私設騎士団が、シェルリッド伯爵指揮下の『ホワイトフェザー騎士団』です。

 シェルリッドの州都フェザレインは、国際貿易港として栄える一方、「新しい犯罪はまずフェザレインで起きる」と囁かれるほどに、治安維持の難しい都市でもあります。ホワイトフェザー騎士団は、州境や沿岸部の防衛だけでなく、都市部の犯罪の取り締まりにも当たっています。


 彼らの規律正しさと、闘技祭などでの華やかな戦いぶりは、フェザレイン市民に大変人気で、フェザレインの商人と良い取引がしたければ、ホワイトフェザー騎士団に詳しくなれ、などと言われています。

 蒼薊闘技祭そうけいとうぎさいで騎士団が優勝したりすると、市民は沸き立ち、フェザレイン港から海に飛び込む人が続出しますが、それは危ないので止めるよう、シェルリッド伯は呼びかけています。


 また、魔術士だけで構成された騎士団が、アンバーセットのあるケントラン州に存在します。ケントラン公爵サングスター宗家の私設部隊です。

 ケントラン州は冒険者ギルドの動きも活発なので、この私設騎士団はあまり目立たず、魔道研究や治療院支援などの仕事を黙々とこなしています。本編第一部に登場した、正規軍少佐ホワイトリーは、元々はこの部隊の出身で、現在もサングスターの懐刀です。



 この他に、首都ダズリンヒルには『巡察隊』という公的な警備部隊が配備され、複雑化する犯罪に対処しています。

 この部隊は後年、『警察』と呼ばれる組織に改編され、全国の市街に配備される事になります。



【おまけ パーティー内強さランキング・白兵戦】


第一位:マディ

(五年前まで正規軍人、現在も日々鍛錬中)

第二位:ロイシン

(父が凄腕格闘家、天性の才能ではトップ)

第三位:ラメシュ

(片脚は使えないが現役軍人で戦歴も長い)

第四位:フェリックス

(体力モンスター。名士の嗜みとして剣術修行済み)

第五位:エイダン

(勉強と畑仕事の合間に棒術の稽古をしてきた)

第六位:シェーナ

(一応お嬢様学校で細剣と短剣術を修得。あまり披露しない)

第七位:ホウゲツ

(平均的成人男性より運動が苦手なライン)

第八位:ハオマ

(白兵戦は流石に無茶振り。逃げるのは得意)

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