4:信仰と思想について
【世界の信仰】
作品世界内では、ほとんどの文明圏で、地・水・火・風・光の五柱の精霊王のうち、一柱または複数が
「この世界は精霊に加護されている」という基本的な部分では、多くの信仰が共通しており、全く別の宗教観を持つ文明や、唯一神を崇める文明は、現在の所確認されていません。
だから、ユザ教、サヌ教、と作中では表記していますが、実際には『教』というより、『精霊教』内の『サヌ宗』くらいの宗教観差異です。
また、世界中で、サヌは蛇の姿の女性体、カルはウミガメの姿の男性体など、精霊王の姿形に共通項が見られます。
現実世界からすると不可解な状態ですが、これは実際に、『精霊王』の姿と人智を超えた奇跡の目撃例が、世界中で後を絶たないためであると考えられます。
この世界では、長らく神権政治(司祭などの宗教的権威が国家の最高権力を兼ねる政治形態)が続いてきました。
多くの高位司祭・僧侶には、魔術の才能が備わっていますので、宗教的権威者がそのまま武力的な抑止力として機能する国も多く、人々は政体改革をあまり必要としませんでした。
魔術の才能に遺伝要素が強いため、世襲制のまま社会が回っているのも特徴です。
文明の発達具合は、現実世界の歴史で言えば十九世紀相当でありながら、民主主義が未発達で、その他の政治思想はまだ誕生もしていません。魔力の恩恵による各地域の豊かさが、かえって政治思想史の停滞をもたらしているようです。
【五柱の精霊王】
◆サヌ
属性:地
二つ名:
象徴:大地、森、砂、成熟、豊作など
祈りの言葉:「土ある所全て我らが棲家」
信仰形態:
北ラズエイア大陸中央地域や、南ラズエイア大陸に信徒が多い。
サヌ教徒は出家すると、大地の全てを『我が家』と考え、家財を捨て、放浪の旅に出る。行く先々で田畑や河川を浄化したり、病人を癒やしたり、妖精と契約して、彼らと人との間を取り持つなどの仕事を請け負い、食べるのに必要な分だけの謝礼を受け取って生活する。
貧民層や障碍者、傷痍軍人を広く受け入れており、大人数で連れ立って旅をする僧隊も見られる。
旅は厳しいが、サヌの導きに従えば、死後『清浄なる大地』で永遠の安らぎを得られるという。在家信者もそれを信じ、サヌの僧侶が集落を訪れた場合は篤くもてなす。ただし、過度に贅沢な贈り物はかえって失礼になるため、注意が必要。
◆カル
属性:水
二つ名:
顕現した姿:潮の涙を流す海亀。男性体。
象徴:海、雨、河川、慈愛、豊漁など
祈りの言葉:「海の恵みよ、慈涙の
信仰形態:
シルヴァミスト西沿岸部の他、東洋地域や西の大海洋の島々でも信仰されている。
地域によってかなり教義は異なるが、海や雨のもたらす恵みに感謝する風習と、理由のない殺生の忌避、祖霊信仰などが共通する。
世界の果ての海に佇むカルは、全てを見通し、無益な争いを嘆き、あらゆる生命の終わりに慈悲の涙を流す。死者の魂はカルの慈愛によって海に還り、祖霊となって、生者の世界に恵みをもたらす。信徒はそのように考え、祖先と、食物となる生き物全般に敬意を表す。
シルヴァミスト西部では、古くは水葬で死者を弔ったという。
カル教徒は調和を重んじ、戦いを嫌うため、異教徒と争った例は少ないが、一方で保守的で頑固な性質を持ち、極めて古い祭祀形態が残る地域もある。
◆ヴラダ
属性:火
二つ名:
顕現した姿:燃え盛る毛皮を持つ猿。女性体。
象徴:太陽、星、火山、知性、闘争など
祈りの言葉:「智と血に火の加護あれかし」
信仰形態:
主に、北ラズエイア大陸中央地域から、東洋・極東にかけて信仰されている。
知性と自己鍛錬が重んじられ、信徒は様々な戒律を守って生きる。特に、『地を駆けるもの』はヴラダの使いであるとして、獣肉食を禁じる宗派が多い。
名誉と誇りのために戦って死ぬ事を尊ぶ、武闘派の教団で、古くはユザ教と激しく対立した。現代の西洋地域においては、ヴラダ教徒はほとんどが追放され、僅かに辺境の山奥などでひっそりと、戒律と共に暮らしている。
極東・アシハラでも広く信仰されているが、こちらは
◆イーナン
属性:風
二つ名:
顕現した姿:雲をまとう
象徴:空、風、自由、旅、交易など
祈りの言葉:「天上の風来たれ」
信仰形態:
現在では、ヴェネレ
古くは大イドラス帝国はじめ、ラズエイア大陸各地に信者がいた。が、自由と享楽を至上とする教えゆえに大規模な組織化に向かず、ラズエイアでは衰退した。
しかし旅人や商人の守護精霊として、今も細々とではあるが、シルヴァミスト西部などに信仰が残っている。
また、ヴェネレ大陸では、先住民族の間で独自に発祥・発展したイーナン信仰が古来より根づいていた。これが『妖精大乱』ののち、ラズエイアからの移民達の信仰と習合して、新たな宗派となり勢力を伸ばしている。
しかし伝統のイーナン教の葬礼は、鳥葬または風葬であったため、ヴェネレの人口増加に伴い、衛生面での問題が発生している。
◆ユザ
属性:光
二つ名:創造主ユザ
顕現した姿:天秤を掲げた賢者、または形を持たない光そのもの。男性体。
象徴:天秤、パピルス、錫杖、秩序、法律など
祈りの言葉:「秩序と文明を」
信仰形態:
北ラズエイア大陸西部からシルヴァミストにかけて、事実上の国教としている国家が多い。また、ヴェネレ大陸の中上流移民層にも信仰されている。
発祥地は大イドラス帝国とされる。その教えは厳格で、かつてのイドラス領では、ユザ教以外の信仰が迫害された。ラズエイア大陸のヴラダ教徒やサヌ教徒が、しばしばユザ教や西洋人そのものを警戒するのは、こうした歴史のためである。
シルヴァミストはイドラス程の集権国家ではなかったためか、大規模な異教迫害は行われなかったが、都市部の貴族や有力者にはユザ信徒が多く、立法や裁判に強い影響を与えていると言われる。
聖暦一〇〇〇年にシルヴァミストで制定された『児童教育基本法』により、義務教育が始まった。同法に基づき、辺境地域に都市部出身の教師が派遣されたが、その多くはユザ教の宣教師を兼ねており、カルやイーナンを信仰する地元民の猛反発を受けるという事態が、いくつかの地方で見られた。
【異端の思想】
近年になって登場した思想に、『精霊現象説』というものがあります。
精霊やその加護とは、学術的に説明出来る自然現象に過ぎず、精霊もその王も実際には存在しない、少なくとも人格などは持たず、人の祈りに応えるような種族ではない――とする思想です。
シルヴァミストはじめ多くの国で異端視され、社交界あたりで堂々と論じると、白い目で見られてしまう思想ですが、都市部中流層を中心に、支持者を増やしています。
シェーナの母親がこの思想に興味を抱いており、その影響でシェーナ自身も、
ただし、公共浴場に慣れていないなど、身についた習慣にはユザ教の上流階級らしい所があります。
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