13-8
刹風は、朝の新聞配達を終え。
休日の安息を1時間程貪り。
朝食を食べに行くために起き上がると――
そこには、ルームメイトの美鈴が居てこう言った。
「おはようございます西守刹風様。お着替えの準備が整っております」
かしずいたルームメイトの手には着替えが乗っていて。
まるで王様に献上するかのように両手で掲げていた。
「この、おバカ!」
☆ごちん☆
「ぬお~~~~。脳、脳、脳ミソが出てる~~~~」
「まったく、あんたはほんとに懲りないわね!」
「で、ですが刹風様! どうか、どうか、お情けを~~~~~~」
「い~い! 私は刹風! あんたは今までどおり私に接しなさい! 以上!」
「そんなことおっしゃらないでくださいませ~~~」
美鈴は、よよよと泣きまねをしていた。
「は~~~」
ルームメイトだけではなく。
皆の様子がおかしい。
それで、友人とは呼べないが、この寮に置いて比較的友好的な
*
瑞穂の部屋に入ると、同室の者は居なかった。
完全に二人っきりではあるのだが……
刹風が、瑞穂の元へ赴いた事で――廊下では、それなりの騒ぎになっていた。
「思ったより遅かったじゃない」
「もっと早く来ると思ってた?」
「ええ、じゃぁ、手短に終わる、みらいさんの話から話しましょうか」
「ゲ……長い話もあるの?」
「まぁ、聞きなさいって。みらいさんに対して、地位を与えても、喜んでくれない。金はいらないと言われる。物もいらないと言われる。ならば、何が欲しいのかと聞けば、何もいらないから放っておいてくれといわれるしまつ。はっきり言って、それほど不気味なものはない。状況次第では核兵器並みの危険物を所有していると思われてもしかたないのよ。なにせ、この国の通信環境全てがかかっているんだから。だから、なんとかして気を引いて大人しく従わせようと画策するも全ていらないと言われる。本当は、なにか目的があるのでは? そう、勘繰り始めたらきりがない。あげくの果てに、爵位要らないから返すなんて言うから」
「それは、しかたないんじゃないかな。社交界って言ったっけ。あーゆーのに参加するものイヤだって言ってたし。なんか、爵位もらって喜んでるのも、古い使用人だけで、みらい自身は、めんどうが増えるだけだって嫌がってるし」
「は~。ほんと庶民に感化されちゃったお嬢様ってのもこうなるとやっかいよね~」
「しょうがないじゃない。だって、それがみらいだもん」
「そうね、じゃあ本題。あなたの旦那さんの話をしましょうか」
「あんなの旦那じゃないってば!」
「はいはい、言うと思ったけど。とにかく、西守刹風さん。あなたの旦那、西守龍好は、ある意味この国を救ったことになってるの。例えあなた達がそれを否定したとこどで状況は変わらないわ。すでに、そういう方向でシナリオが出されちゃった以上、諦めて受け入れるしかないの。あなたの、旦那。つまり西守龍好は、西守みらいとの婚姻を条件としてバグ・プレイヤーの討伐にあたった。完全ではないが、それに尽力した功績を称え婚姻を許した。と言うのが、私達に流れてきた情報よ。端的に言えば、西守みらいと結婚して西守になりたいから俺にバグ・プレイヤー討伐を申し出た。そして、それに保守派が頷いた。だから、保守派はバグ・プレイヤー討伐に対して特に動かなかった。そして結果は、保守派が男と見込んだだけあって彼は見事にバグ・プレイヤーに土を付けたってなってるんだけど。バグ・プレイヤーがネットで改革派の愚行を晒したから、も~最悪。それでも、しぶとくってねぇ。まだ、起死回生の一手を得ようとして躍起になってるそうよ」
やや、遅れながらもみらいの置かれた立場を知った刹風は、あの日。
本当に、ひっぱたかないで良かったと、改めて胸をなでおろしながら瑞穂の話に耳を傾ける。
「でも、もしそれが叶ったら。龍好君さえ手に入れたなら他の派閥だって逆らえない。だって、そうでしょ。彼がバグ・プレイヤーにとって特別な相手として認識されちゃってる以上この国にとって。ん~ん。世界にとってと言っている者も出始めてるわ。そして、それは改革派も同じ、幸いにも龍好君は西守みらいとの中が深い。ならば、それを足がかりにして、上層部のだれかの家に嫁がせて西守を名乗らせようとしてるの。西守の駒として抱え込み更なる磐石を築こうとしてるってわけ。だからといってそれほど貴重な者となれば相手を適当に決める訳にもいかない。利害が絡んでも~めちゃくちゃ。そんな感じで、牽制し合ったり、内輪もめしたりしてるそうよ。その一方で保守派は、緊急措置として、西守みらいに対し伯爵の地位を与え。結果として西守みらいは伯爵に返り咲き。それらを、いい感じにまとめたシナリオで世間に発表。この戦いは、金と欲にまみれた改革派よりも、愛と勇気を持って戦った者だからこそつかんだ栄冠だといって。改革派をつるし上げるかっこうのドラマとして使われてるのよ」
「なんか、本当に、めんどくさい人達よね……」
「まぁ、そんなかんじで一応は落ち着いた感じになってるけど。それはそれ。婚姻なんて永遠じゃない。愛だの恋だのってのは移ろうもの。ならば、龍好好みの女を用意して抱きかかえようと水面下では激しい攻防が始まってるわ。そして、それはあなた達も同じ。もし、あなた達に気にいれられれば、少なくとも伯爵クラスの西守との関係が築ける。しかも、龍好君の気持ち一つでこの国が動くとしたら……場合によっては、下手な西守に媚を売るより龍好君に取り入ったほうがいいと考える者がでてきて当然」
「げ……」
「そして、それら全てを西守みらいが押し止めちゃったの。ごちゃごちゃ言うなら、『派閥抜けるわよ!』って言い返したら時が凍りついたそうよ。で、あんたたちに対して不用意な行動は慎むようにっておふれがでたの。それが、遠巻きにあなた達を見ているって現象になってるってこと」
「なるほどねぇ……」
「ちなみに、一部では、ただてめーの欲望満たしたいから西守になってハーレムつくっただけじゃん! と言う、意見もあるけど、あなた達にとっては不本意よね?」
「ん~。まぁ言われてみれば、そうかも……」
「そこで。こちらは、全面的に否定して。ただ誰も選べなかった優柔不断な男が招いた結末として上書きしちゃうつもりなんだけど、よろしいかしら?」
「まぁ、どっともどっちって気もするけど。確かに、そのほうがまだましな気がするわ」
「でしょ! そこで、取引しましょう!」
「やっぱ、そうきたか……」
刹風は、苦笑いを浮かべる。
「これにだって尽力してくださる方はいらっしゃいますし。私の、立場を買い取りたいとも思いましてね」
「買い取る?」
「そうよ。私は、顔も名前も両親もかえて西守に取り入るための駒として生きてきたわ。それは、あなたも重々承知なはず」
「うん」
「だから、それらに掛かった費用を返済する代わりに、西守みらいとのパイプを築くって取引を持ちかけたら了解が貰えたのよ」
「げ……」
「でも、あんたたちにとっても悪い話じゃないでしょ。だって、少なくとも味方が一人は増える。私は、もともと外資系に強い西守に取り入ろうとしていたから、それなりの後ろ盾もある。これは伯爵に返り咲いたばかりの西守みらいにとっても悪い話じゃないはず」
「ん~~~~」
「まぁ、そこら辺は分らなくていいわ。私が欲しいのは、あくまでもこの話を私が持ちかけたって事実だけなの。あなたは、私の知り合いがこう言って申し出ていますって西守みらいに取り次いでくれるだけでいいの。それで、話がまとまれば私の功績として晴れて自由の身を手に入れるのよ」
「でもさ、彼はいいの?」
「その逆。他の西守でもいいから嫁げって言われててけっこう厳しいのよ」
「じゃぁ……」
「そう、私。やっぱり彼が好きみたい。あんた達見てたらさ。結婚してから恋愛してもいいのかなって思っちゃってさ」
「そっか。うん。分った、聞いてみる」
電話して確認しようとすると……
かなりごたごたしているらしく、なかなか出てくれない。
瑞穂の話にもあったが……
確かに、ココ最近のみらいはかなり忙しいみたいで顔を見せる事が無い。
栞は何度か会いにいったらしいが、それでも顔を見たのは1分にも満たなかったという。
ちなみに、みらいのエッグはピー助になっちゃってるけど基本的な使い方は変わらない。
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