13-6
本日開催される式典の主役達はリュタリアにいた。
そんな中――
リトライ始まっていらい最大の式典は始まっていた。
それは、いわれもない濡れ衣を着せられて、傷ついてしまった少年の過去から始められ。
いかにもお涙ちょうだい的な音楽に乗せられて司会者は自らも泣いて見せ。
観客達の思いを引き付ける。
ネットで晒されては泣き、恐怖に怯えて引きこもる少年の日々。
そんな形で始まったプロローグは、そんな彼を支えた友人達との友情に発展し。
勇ましい音楽と共に。
少年は、再び立ち上がることを決意する話に変わる。
そして――
友のため、ブルークリスタルで共に戦った仲間のため。
そして、なによりも――
惚れた女のために銀時計となり、再び剣を取って敵を討ったのだと言っては会場を盛り上げていた。
正に、西守お得意の茶番劇であった。
本当にソレをなした一行は全く他の場所にいるというのに。
リトライは、あくまでデジタル世界。
その気になれば整形なんて簡単に出来る。
つまり、替え玉を用意してそれなりに演じているだけに過ぎないのが、本日の式典であった。
その内容は、ブルークリスタルに継いで、ここリトライでもバグ・プレイヤーに土を付けた銀時計には特別な称号が与えられ。
その英雄効果を発揮すれば、バグ・プレイヤーを完膚なきまでに叩きのめせるとうたっているのだ。
つまり、実質的に勝利宣言であり、勝ったも同然なんだからもういいんじゃね?
的なノリで人々の中に根付いていた不安を一掃する目的だったのだ。
ついでに、ワンデイズ・ロストバンク事件において犯人とされていた元犯人も出演し。
自分は銀時計に憧れていた。
だから、彼を守るために自分が偽証したとかなんだとか言って、いい話っぽくまとめ――
それは、涙ながらに銀時計役の少年と握手し役者もそれにこたえて、「ありがとうございました」と、礼まで言って見せては泣いていた。
そんなこんなで式典は佳境に入り。
授章式が終了すると。
放浪する銀時計というカッコ悪い英雄が誕生した。
語呂も悪けりゃ、無駄に長い。
しかし――ブルークリスタルを知る者達にとっては馴染み深く。
その二つ名で英雄の冠を受章てくれた事を嬉しく思う者は多かった。
品も無ければ、バカバカしい。
でも、なにげに親しみ易く、どこか優しい。
そんな呼びづらい名で会場がコールを繰り返す中――
俳優は、声高らかに勝利を誓っていた。
もちろん、本人の許可無く勝手にである。
そして――
栞の代わりにと言わんばかりにやってくれた連中が居た。
本来ならば、国家レベルでの厳格な式典である。
皆きちんと正装で参加しているからといって油断してはならぬ相手だったはず。
なのに――頭の堅いバカな大人には子供の無鉄砲さは理解できなかったらしい。
「俺は、銀十字騎士団大元帥! 麺ツユの騎士である!」
普通では、まず見られないであろう。
国賓すら居る式典において、ネタから入る挨拶なんぞ――
それから始まった式典ジャック。
メンバーが持ち寄ったネタを披露。
笑えるネタから、肌寒いネタ、痛いネタから、苦しいネタ等々……
銀時計役の人も痛々しいネタを披露していた。
流石は役者である。
見事なアドリブだったと後日、騎士団団長は語った。
無駄に暑苦しいネタは、ピアノさえ弾かなければ間違いない。
音姫の清涼かんある独唱で洗い流され。
拍手喝采で幕を降ろした。
それは分かる人にだけ込められたメッセージ。
つらい時も苦しい時も痛い時も笑ってきたから今の。
コレだけ多くの人々に受け入れられた自分達がいるのだと。
やはり素麺だけでは味気ない。
ここリトライにおいて自分達は麺ツユの様な存在になりたいという団長の気持を受け止めた仲間達の心いきでもあった。
その後――
苦笑いで許すしかない国のトップ連中と握手を交わす銀十字騎士団の団員だった。
後に、この映像を見た栞が本気で悔しがったのは言うまでもないだろう。
なにせ、形はどうであれカエシンこと慎吾は、ワールドクラスのアホとして認定されたからである。
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