13-2



 いきなり予想外の展開でとまどう龍好だったが慣れと言うのは怖い物で。

 この程度では、当初の予定を変更することなく進める事ができた。


「ありがとうなぁ、みらい」

「その、いいの? こんな目の見えない人となんて……」

「まぁ、そう言わずこれを受け取ってくれ」


 龍好は、車椅子に座っている、みらいにエッグを手渡す。


「これって、しばらく拉致されていた私の物よね?」

「まぁ、そう怒るなよ。それなりのプレゼントのつもりで用意したんだからさ」

「で、どこまで私のプライベートは守られていたのかしら?」

「まぁ、そう言わず、起動してみてくれって」

「ちなみに、起動キーは、どうなってるのかしら?」 

「安心しろ。きちんと、お前専用に変更してある」

「そ、つまり今ここで口にしろって意味なわけね」

「ああ、そのために用意したネタだからな」

「じゃあキー教えなさいよ」

「さっきも言ったろ。お前専用に変更してあるって」

「わかったわよ教える気がないならせめてヒントくらい教えなさい。じゃないとせっかくのネタが痛んじゃうわよ?」

「ああ、分かってるって。今お前が一番会いたいと思ってるヤツがそのまま機動キーになるように変更してある」


 会いたいヤツ……

 両親にも会いたい、お父さん?

 それともお母さん?

 でもそれと同じくらい今、会いたいモノがいる、でもそんなことありえない。

 それでも、ネタとして笑われても。

 そうであったら嬉しいと願ってしまう。


 だがら――


「エッグ、オン。アテライエル」

「むっぴー!」


 ききなれた鼻息と共に手にしたエッグの重さが消え失せる。

 みらいの体毛全てが煌びやかな鶯色に染まり、瞳孔が浮かび上がる。

 その二つの瞳は、キラキラとエメラルドグリーンに光り、物、者、モノ、全てをとらえる。

 そこには、龍好のホホに頬擦りする小さなドラゴンがいた。


「基本概念は、お前が書いた論文。エッグによる視力補正が元になってる。そこに奇術師の兄ちゃんが独自の理論を追加して技術的な部分っていうか、専門的な事はさっぱり分からんから奇術師の兄ちゃんにまる投げだったんだがな。それで、ピー助のデータをみらいのエッグに送ってもらったってわけさ。 知ってるだろ、エッグの最終形態がマスコット化だってのは、だからこうしてリトライ同様にリアルでもお前の目は見えるようになったってわけさ」


 刹風は、振り上げた手を、みらいの頬に当たる寸前で手を止める。


「今日のところは引っ叩かないであげる! でも、これだけは言わせてもらうから! なんでいつもあんたはそうやってなんでもかんでも自分だけで背負い込もうとするのよ! 私達は何? 何のためにいるの? 仲間じゃないの? 友達じゃないの? それとも、そう思っていたのは私達だけ? 自分なんて居なくなっても誰も悲しまないとか思ってたわけ?」

「だって……」

「だって何よ!?」

「だって! 友達がこんなにあたたかいって知らなかったんだもん! こんなにもかけがいがなくて! 一緒に居るだけで嬉しくて! 楽しくて……死んでも守ってあげたいって思っちゃったんだもん! だから、らから、だかぁらぁ……ごめんら、さ~い。うわ~~~~~~ん……」


 みらいは泣きじゃくっていた。

 涙を堪える術を知らない幼子の様に。

 溢れ続ける涙と鼻水。

 ゆるんだ口からは涎がだらだらと止め処なく流れ出る。

 そこには、西守の者として生まれ育った威厳も見栄も恥じもなかった。

 ただただ、14歳の女の子が居るだけだった。


 自分で、ぐしゃぐしゃになった顔を拭うことの出来ないみらいに代わり龍好が白地のタオルで拭ってあげる。

 これは、おばはんメイドが用意したものだった。

 にこにこと含み笑いをたずさえて差し出されたソレは明らかに時限性の起爆装置にしか思えなかった。

 だからと言って、このままみらいを放置するのはあまりにも可哀想というもの。


「その……ありがと」

「礼は、いらねぇ~よ。別にお前の為にしたんじゃねぇし」

「むっぴ~」


 龍好の肩で首を振って肯定するアテライエルがそこに居る。


 みらいの中になんともやるせない気持ちがつのってっくる。


「だって、俺達は仲間の為にやったことだし」

「むぴむぴ」

「それに、本来礼を言うとしたら、こいつの方だ」

「むぴむぴむぴ」

「ほれ、ピー助だって、お前に礼が言いたいっていってるじゃねか」


 みらいは、思考回路がいかれていて答えが導き出せない。


「おやおや、優等生もこうなるとかたなしだなぁ」


 紅も笑みを浮かべてからかう。


「俺達がしたのはリアル世界にピー助を具現化させることなんだぜ。知ってんだろ、賢者の石には死んだ者を蘇らせる力があるってこと」

「もしかして、手に入れたの?」

「うんにゃ、さすがにソレは無理だ」

「じゃぁ……」

「まぁ言ってみれば。俺達は、ある意味この国対して恩を売った。それと同時に、バグ・プレイヤー討伐に尽力したことに対する功績もある。それらの報酬として石の欠片を手に入れた。そして仲間をこのリアルに招待したってわけさ」

「むぴむぴ」


 みらいは、ぽか~んといしている。


「だが、勘違いすんなよ。ピー助は、あくまでマスコット的な存在でしかない。サイズもこのまま、特殊能力の類いも一切使えない。あくまで、エッグが最終進化した形態としてこの世に止まっているだけなんだからな」

「おいおい優等生。現実は素直に受け止めろよ。つまり、リトライでお前さんの視覚回路を食っちまったこいつが近くに居る限りお前さんはモノを捉える事が出来るってことだ」

「と、ゆー訳だ」

「ううう~」


 みらいは拗ねたような甘えたようなくやしいような、でもうれしいようなうめきをもらし。


 龍好を見据える。


「一生呪ってやるからね!」

「ああ、好きにしろ」


 ☆パン☆パン☆パン☆


 またしても無数のクラッカーが鳴り響く。


「おめでとうございますお嬢様」

「おめでとうございます龍好様」

「只今より、お嬢様及び龍好様の結婚披露パーティを開始させて頂きます」


 まるで司会進行は私に任せろと言わんばかりに小春がマイクを握りしめている。


「やたぁ~! みらいちゃん、たっくん結婚おめでとうやぁ~!」


 栞は、はしゃぎ。

 紅は、やや呆れた表情を浮かべている。


「いやはや、予定通りとはいえ、ここまで上手くはまると、かえって不気味だなぁおい」


 みらいは、硬直していた。

 龍好も予想の遥か斜め上を行く構成にソウルブレイクしていた。

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