12-10


 執事長に車で送ってもらうと――

 やはり、みんなきていた。

 龍好は、開口一番土下座して詫びを入れた。


「スマン、みんな。俺、負けちまったみたいだ」


 それに対し便利屋のおっさん――銀龍が言う。


「なぜ俺らがここに集まっていると思う。次の闘いに向けて士気を高めるためだ!」

「つぎ?」

「キサマは違うのか!? よもやこれで終わりと思っているのではなかろうな?」

「え?」


 不思議そうな顔する龍好に向かって慎吾が胸を張って堂々と言う。


「いいか龍好。確かにこの国のネット回線は死んだかもしれねー。でも、世界全てが死んだわけじゃねーんだ。相手が海外で暴れるなら俺達も海外で暴れる! 衛星回線でもなんでも使ってヤツを倒す! 俺達は、ブルークリスタルで敗れた。リトライでも敗れた。だが! 勝つまでヤツを……俺達のブルークリスタルを崩壊させたヤツを倒すまで俺達は止まらねー! 龍好! お前はどうする!? 俺達と来るか? それともまた、真剣狩る☆しおん♪でやるのか?」

「お、おれは……」

「うむ、丁度いい。龍好殿よ。今度立つ時は選んでから立ち上がれ。銀時計として立つのか? 龍好として立つのか? それともこのままおめおめ引き下がるか? 全ては、キサマ次第。例えどの様な答えを出そうと俺らは、お主を責めるつもりは毛頭無い」


 龍好は、特に悩んだ風も無く直ぐに立ち上がる。


「ほう、思ったより決心が早く付いたな。で、どうする銀時計として俺らと共に戦うか? それとも龍好として戦うか?」

「俺は、全部で俺だと思う。龍好として、銀時計として。闘う。もし、また、たった一人になったとしても最後の最後まで足掻いて戦い抜く! そして、今度こそバグ・プレイヤーを倒す!」

「うむ。よいこたえだ!」

「さすがっす銀時計の旦那!」


 極上銀貨が龍好を褒めたたえると――

 人気ひとけの少ないネットカフェの入り口で拍手喝采が起こっていた。


 そんな中――


 全員のエッグが一斉に甲高い警告音を鳴り響かせた!

 失われたはずの通信回線が、とつじょ復旧して勝手にエッグを起動させメール受信の画面までご丁寧に立ち上げていた。

 こんな芸当が出来るヤツは世界広しとえど限られている。


 もしかして――!?


 皆の思いはメールの件名で肯定された。


 開口一番、極上銀貨が叫ぶ!


「ごくじょーっすよ! 銀時計の旦那!」


 そのメールの件名にはこう書かれていた。


 バグ・プレイヤーより執行猶予のお知らせ。


『先ず、結果から言おう。詳しいことは後に通達する。我と銀時計の最終決戦において引き分けとなった。本来なら我を討ち滅ぼす事が条件であった以上、こうして回線を復旧させる必要は無いのだが。ハッキリ言ってあのような形での決着では我が納得できん。故にしばらくの間、現状維持とする。以上』


 銀盤の乙姫が言う。


「これって……」


 双翼の銀狼が続く。


「ああ、海外移住は延期になったって事だな」


 銀龍が否定する。


「俺は、もともと海外なんぞに行くつもりなかったぞ」


 銀水晶がどこかで聞いたような声で続く。


「あたいも海外はいけねーなぁ、ってゆーかこれじゃ今日の仕事休みになんねーじゃんかよぁ」


 龍好が?マークを出していると。


 慎吾が得意げに言う。


「そういえば、お前しらなかたっけ。月のっち、栞ちゃんが好きな詩音ちゃんの声あててるんだぜ!」

「って、もしかして声優さん!?」

「あぁ、リトライじゃ声と口調代えてるから分かんなかったかもしれんがな」


 みんなが盛り上がったところで極上銀貨が提案する。


「あれ、やりましょーよリーダー!」

「そうだな。んじゃいくぜ!」

「おー!」


 銀十字騎士団の面々が声を張り上げる。


「我は、汝の盾と成り、汝に降り掛かる災いを、この身をもって、受ける事を誓おう!」

「ならば我は、汝の剣と成り、汝に降り掛かる災いを、この身を持って、薙ぎ払うことを誓おう!」


 近所迷惑も気にせず騒いでいる。


 そして、銀竜が言う。


「龍好殿よ」

「はい」

「よくやった、一度ならず二度までも俺らの居た世界を守ってくれたお主に心から感謝する」

「ちょ、ちょっとよしてくださいよ!」

「なにいってんすか! ごくじょーっすよ! 銀時計の旦那!」

「そうだぞ龍好! 英雄ってのは、良くも悪くも全て引き受けるもんだ! 諦めろ!」





 龍好が帰ると――栞は、すっかり目を覚ましてしまっていた。

 まぁ、エッグがいきなり鳴り出したんだから起きててとうぜんだ。


「ただいま」


 と声をかけて見つめる。


「おかえりや、たっくん。さすがうちが惚れた男だけのことはあるなぁ」


 少なくとも、この少女の期待だけは裏切らなくて済んでよかったと――安堵の息を吐く龍好だった。

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