12-8

「うわ~~~~!」


 龍好は、飛び起きた。

 薄暗いオレンジ色の淡い光りに照らされた見知った自室。

 慌てて、エッグを手に取り声をかける。


「エッグ・オン! ネットに接続してくれ!」


 絶望の始まりがソコニあった……

 電源が入っているのに通信回線が死んでいる。

 龍好は焦燥感に、おしせまられるまま階段を駆け下りテレビを点ける。

 どのチャンネルも放映を中止していた。

 正確には、放映が出来ない状況になっていた。

 例え深夜でも、文字放送等は必ずどこかのチャンネルで見れるはずなのに、それらすら一切無い。

 他に何か無いかと見回すと、据え置きの電話が目に入った。

 受話器を取れば、液晶が光り通電していることは瞬時に確信持てた。


 でも、使えなかった。

 龍好は、そのまま膝から崩れ落ちた。

 別に自分だけのせいではない……それを、頭では分っている。

 でも、もしも、


「俺が最初から銀時計を名乗っていたら……」


 あの、お姉さん達や、爺さんも処分を受けずに済んだはず。

 そして銀十字騎士団に入りまともにレベルを上げてバグ・プレイヤー討伐に全てを賭けていたなら。

 結果は変わっていたかもしれない。

 一類の望みを賭けてもう一度見たエッグの画面は、やはり通信不能状態だった。


『ったく。後悔なんてしねーっつーの!』

「だれだよ、後悔しねぇってって言ったのは……」


 どん、と音を立てて床に八つ当たりをした。

 拳が痛む……

 もう、夢の世界ではないらしい。

 認めるしかないらしい。

 負けを。

 自分の情けなさを。

 愚かさを。 


 ――あやまろう。


 せめて、自分を信じてくれたあいつらにだけでも。

 龍好は、立ち上がってゆっくりと外出の支度を整えた。

 寝息をたてる栞に、小さくいってきますと言って――部屋を、家を出た。


 きっとあそこに行けば皆いる気がしたから。


 いつか決起集会をしたネットカフェに。





 家を出ると、みらいのところの執事長が車で迎えに来ていた。

 そこで、言われるがまま車に乗り。

 みらいの家へ向かった。

 そして、暑いくらいに温められた、みらいの部屋へと通された。


「安心して下さいませ こうなる事に備えて、あらかじめ準備しておりましたので命に別状はありません。ただ、両目の視力を失っただけにございます」


 ただ、ではすまない。

 目が見えなくなってしまったことになるのだから。


「そんな……」

「貴方が銀時計として当初より尽力なさってくださっていればこのような事態は回避できたかと思われますが……」

「俺の、せい……」

「そのように聞こえてしまってもいたしかたないとのでしょうが。真に反省すべきは、己のふがいなさ。私の方こそ貴方をおとしいれられなかった事実は否めません。もし私にも妻のような周到さがあったならと悔やんでなりません。全ては私の不徳のいたすところと、猛省もうせいしております 。医者の話しですと早ければ明日。遅くとも数日で意識が戻るとの話しです。別に婚姻してずっと寄り添って欲しいというわけではありません。だだ、今までのように接して欲しいのです。ですから、どうかこれからもお嬢様をよろしくお願いいたします」

「じゃぁ、あんときの鼻眼鏡の爺さんは、あんただったのか?」

「はい。まことに申し訳ございませんでした」

「いや、あんたはよくやってくれたよ。むしろ謝るのは俺の方だ」

「このようになってしまったがため。責任を感じておられるのかもしれませんが。どうか、ご自分を責めるのはおやめくださいませ」


 とてもじゃないが、今すぐに頭を切り替えろと言われても無理な話だった。


「謝りついでで悪いんだが、知り合いのネットカフェまで車で送ってもらってもいいかな?」

「はい。ご用命のままに」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る