12-7
現状で龍好に打つ手は無いに等しかった。
いくら栞の防御力が高いとはいえ、何度もあの剣げきに耐えられるとは思えない。
というか、そもそも通常攻撃が当たるようなヤツじゃやない。
しかし、残されたメンバーで倒さなければ――無茶をしたみらいに顔向けが出来ない!
「ほな、たっくん。うちはここでログアウトするよ~」
「なっ! なに勝手なこといってんだよ!?」
「勝手? なら言わしてもらうけんど勝手に人に頼ってるんはどっちなん? 女盾にして後ろでコソコソしとるだけの人には言われとぅないなぁ」
「なっ!」
栞の事だからなにか意味があっての事なんだろうが、いくらなんでも唐突過ぎる。
焦る龍好に、にっこりと笑みを浮かべて見せる栞。
「せやったら、一人でもきちんとやれるトコ見せてなぁ。うちが惚れた男なんやから、幻滅させんといてなぁ」
「あぁ、わかったよ!」
「ほな、赤飯炊いて待っとるさかい、がんばってなぁ」
そう言って、栞は本当にログアウトしてしまった。
『いいか英雄ってもんはな! 妬みも嫉みも恨みも全部セットで付いて来るもんなんだよ! んなことにいちいち気にしてたらホントの英雄になんてなれねぇ! だから俺達は、ここでも銀十字騎士団掲げてんだよ! んで、俺達をバカにしたやつら全員に魅せ付けてやるのさ! 俺達が、ブルークリスタルを守るために闘ったのは嘘じゃねー! 俺達のリトライを守るために闘ってるのも嘘じゃねー! 俺達銀十字騎士団をみくびってんじゃねーってな!』
慎吾のヤツに電話した際に言われた言葉が龍好の頭を駆け巡る。
バカだと思った。
とびっきりのバカだと思った。
救いようのないくらい突き抜けたバカだと思った。
でも、カッコいいと思ってしまうくらい輝いていると感じた。
『お前はどうなんだよ龍好!?』
「俺は……俺は……」
龍好は、壊れた銀時計を手にして叫ぶ!
「ならば我は、汝の剣と成り、汝に降り掛かる災いを、この身を持って、薙ぎ払う事を誓おう!」
銀時計が輝きだし時を刻み始めると龍好の体も輝き始める。
そして――
あの日見た装備を身にまとっていた。
煌びやかな羽飾りの付いたフルメイル。
名無しの聖剣。
煌びやかな宝飾と派手にでかい柄。
鞘から抜いたそれは、重さを感じないほどに軽かった。
まるで、最近振り回していた木刀と同じ位の重さしか感じないのだ。
『しるばーくろっくないつって。なんか、かっこえぇよなぁ』
龍好の胸に、いつか言った栞の言葉が蘇り。
心でそれに『ああ、そうだな』と、こたえる。
「シルバークロックナイツ見参!」
雄叫びを上げてバグ・プレイヤーに切り掛かる。
それを、バグ・プレイヤーは、かわす事なくその身に纏った鎧で受ける。
がきんと金属同士が派手にぶつかる音が虚しく響く。
「あははは、いいぞ銀時計! 残った時間せいぜい足掻け! それっ!」
技でも体術でもなんでもない。
ただ横に振り払っただけの剣撃で龍好は吹き飛ばされる。
「ぐはっ――」
派手に地面を転がりもんどりうつ。
起き上がると同時に回復薬で体力を回復する。
「あっははははは! そうか、リバイバル・ブレイカーか! それしかないものな! いいだろう、来い! 銀時計。お前が殴った分だけ、こちらもお前を殴ってやる!」
「うを~~~!」
龍好は、気合を込めて剣を打ち込む!
先程同様にバグ・プレイヤーは、そのまま剣戟を受け、同じ様に剣を横に薙ぐ。
それを龍好は、なんとか弾き返そうと剣で受けるが――やはり先程同様に弾き飛ばされる。
「っくしょ――」
ハッキリ言って体力、持久力共に不足している。
短期決戦のみが唯一の勝機だと思った。
しかし、いったい何回殴られればヤツに致命傷を与えるだけのダメージを蓄積できるのか?
ナイトが初級レベルから使える技の一つ、リバイバル・ブレイカー。
それは、受けたダメージを乗算して相手に叩きこむ技である。
「うりゃ~~~~!」
龍好は、斬りかかり続けた。
最初の勢いは3分ともたなかった。
それでも、斬りかかった。
無様に吹き飛ばされ。
「あはははははは! いいそいいそ銀時計! もっと俺を楽しませろ!」
バグ・プレイヤーは、悦に浸っていた。
「瞬間移動石は使ってみたか?」
龍好は、こたえる事なく斬りかかる。
情けない金属音は悲しいほど力弱く響いていた。
「あはははは、あれはお前に我と同じ目に遭わせるために用意したものだ! 覚えているか? ブルークリスタルでキサマがワープストーンを使って我を飛ばし捲くったのを! おかげで、我は一月の間生死の境を彷徨った」
龍好は、へろへろになりがらも斬りかかる。
鈍い金属音の後。
弾き飛ばされる。
回避なんて出来ない。
だた飛ばされるままにダメージを受け蓄積していくしかない。
なるべくギリギリ死なない程度のダメージを受けながら回復薬で体力を回復しては斬りかかるの繰り返し。
「どうだった、苦しかったろ。だが我はその何倍も苦しんだ! あはははははは、だがもうそんな事はどうでもいい。なんだその情けない面は! バカ正直に斬りかかるだけの打撃しかできんうすのろは! これが、世界を救った英雄様の真の姿か。あっははははははは、愉快だ、愉快だぞ銀時計!」
時間は進んでいく。
もともとあった残り時間は10分。
それは、半分以上無くなり。
終了間際を知らせるアナウンスが流れた。
「あと3分で、このフィールドは、崩壊します」
それは、現状の空気を全く読まない平然としたものだった。
嘆きも悲しみも、期待もない。
その代わりとばかりにバグ・プレイヤーが高らかに笑う。
「あはははははは、もしキサマが最初からナイトに。銀時計を名乗っていたなら勝てた勝負だったのになぁ。残念だよなぁ。悔しいよなぁ。あの、執拗なまでにお前にナイトになる事を勧めた奴等を覚えているか? キサマを銀時計に出来なかった責任を取らされるだろう。あははははは、分るか? キサマのせいだ! キサマが釣り師などといった戯けた職を選び腑抜けた戦いを繰り返した結果がこれだ!」
龍好は――もう、何度目か分らないほど吹き飛ばされ。
目がうつろになりながらも。
それでも、一類の望みを信じた瞳の奥は、可能性を信じ生きていた。
「あははははは、聞け銀時計! キサマが負ければ、この国は死滅するやもしれん! 全てのネット環境は破壊する。今度は一日ではなく永遠に銀行は消滅する! エターナル・ロストバンクとでも名付けてみるか? 全てキサマのせいだ! ロストサーバーから無理やりアテライエルを召喚した仲間はリアルで死んでるやもしれん。キサマのせいだ! キサマが素直に銀時計を名乗って我に挑まなかったからだ!」
龍好は、バグ・プレイヤーの言ってることの半分も聞いていなかった。
それでも、
『では、どうか後々悔い無き道をお進み下さいませ』
ここ、リトライに来た日に言われた通りだった。
後悔なんて生易しいものじゃない。
勝手に期待してたヤツなんて知らない。
でも、自分のせいで苦しむ人がいる。
失うかもしれない友がいる。
自分を捨ててでも、なりふり構わず銀時計を名乗っていたなら――バグ・プレイヤーの言うとおり、こんな一方的で惨めな闘いにならなかった。
元々、ブルークリスタルにおいて一度は勝ったとされる相手。
それゆえ銀時計には、バグ・プレイヤーを圧倒する技がいくつも用意されていた。
それは、銀時計になってから改めて痛感させられた。
レベルをきちんと上げて使いこなせるようになっていれば友を失うかもしれない危険な戦いなんてしなくてずんだ。
「あと2分で、このフィールドは、崩壊します」
「あはっははは、聞いてるか銀時計よ! この国も友の命も、あと二分だそうだ! もう諦めろ! もっとも、その震えた体でリバイバル・ブレイカーが使えたらの話だがな。あはははははははは!」
龍好は、ふらふらと歩み寄りながらも剣をぶつける。
「あははははは。悲しいな~。銀時計よ! それっ! っとわるいわるい、少しばかり力が入り過ぎた! お~い! 銀時計動けるかぁ?」
「う……ぐぅ……」
なんとか気合をいれて立ち上がり体力を回復するが、完全にガス欠状態だった。
いくら体力を回復したところで気力もスタミナも回復はしない。
あくまで、ヒットポイントとしての数値が回復するだけ。
「あと1分で、このフィールドは、崩壊します」
「あははははははは! 諦めたか銀時計! いいぞ! それもいい! 来ないなら来ないで、このままキサマらが苦渋の日々を送る記念に今のキサマをネットで晒してから破棄しよう!」
バグ・プレイヤーが悦に浸り、酔いしれている間。
龍好は最後の一撃のための気合を入れなおしていた。
どうせ後一撃が限界。
むしろすでに限界を超えている。
それでも、ぎりぎりまで回復につとめ、最後の一撃に全てを賭ける。
最初にバグ・プレイヤーが言った通りソレしか討つ手がないと思われているならなおさらだった。
「あと30秒で、このフィールドは、崩壊します」
龍好は、まだ動かない。
「あはははははは、愉快だ! 愉快だぞ銀時計! これでもうこの国には、興味がない! 次の国で暴れまわるとしよう! あはははははははははは!」
龍好は、ゆっくりと目を開ける。
いける気はしなかった。
でも――
いくしかない!
やるしかない!
「うを~~~~~!」
龍好は、ゆっくりとバグ・プレイヤー目掛けて加速していく。
「あはははははは、来るか! 届くのか銀時計! もう時間は無いぞ! あはははははは! 我は、ここだ! あはははははははは」
バグ・プレイヤーは、剣を捨て両手を広げて招いている。
討てるものなら討ってみろと。
思った以上に体が重く進んでくれない。
進むのは心ばかり。
バグ・プレイヤーとの距離は、なかなかちぢまらない。
時間は――もう無い!
「リバイバル・ブレイカー!」
と、叫びながらも心の中では、もう一つの技の名前を叫ぶ。
(日陰流妙技!
これしかないと思い、ありったけの力を込めて切先をバグ・プレイヤーの顔目掛けて投げつけた。
その剣がバグ・プレイヤーに届いたのかも分らない。
地面にダイビングするよりも早くログアウト処理が始まり龍好は、リアルに帰還させられてしまったから。
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