12-5
岩で出来た城もどきの中に入って奥へ進むと予想通り、巨大なオオトカゲもどきが居た。
大きな顎。
グルグル唸るような低い声と、臭い息。
対魔法防御に特化した大蛇の皮で身を包んでいるというのも絵本の通りだった。
おそらく総力戦で挑めば勝てるだろう。
だが、そこまで。
バグ・プレイヤーを倒すための力は残されていないだろう。
だからこそ、じゃまなこいつを葬る必要がある。
「栞、ありがとう。もういいわ」
「みらいちゃん、あんな――」
「いつだったか言ってくれたわよね。骨拾ってくれるって」
「分かった。みらいちゃんが本気でやるってゆーなら。もう、うちはとめへん」
「ありがとう、栞。それからいくわよアテライエル! もう一度力を貸して!」
「キュイー!」
ピー助は、悲しみのこもった声で鳴きながらもうなずいた。
「深緑の魔王アテライエルよ。我が右目を餌とし、その力を示せ!」
ピー助が、みらいの光を飲み込み、己の力を発動させる条件を整える。
その瞬間みらいの見る世界は断絶され、規定よるペナルティ。
許容範囲外の技の行使が発生し強制ログアウトされ。
特殊スキル、戦友の灯火が発動する。
死亡扱いとなっているはずの、みらいの口が動く。
「時の反逆者アテライエルよ。我らが道ちに立ち塞がりモノを時の牢獄に幽閉せよ。グリーン・レクイエム」
「キュイー!」
名前も知らない、巨大なモンスターが薄い緑色の霧に包まれ――エメラルドのかたまりに閉じ込められていた。
「ほな、いくよー!」
栞は、気合を入れる。
白い装飾された金槌が、傘になぞって肩でくるくる回る。
激しい琴と三味線のBGMに斜めから当たるスポットライト。
光に照らされた栞の背景には――ゆらりゆらりと紫色の花びらが舞い散っている。
「幾千の骸を踏みしめて。幾万の屍を積み上げて。育って咲くは
音速を超えた一撃が超巨大モンスターを吹き飛ばす。
その凄まじい衝撃により天井は吹き飛び青空を覗かせ。
地面は融解し燃えている。
大気はうねり、轟音を響かせ、ピー助をも吹き飛ばす。
奥に居たラスボスも、おもいっきり余波を食らっていた。
レベルを上げた栞の破壊力は、今までにないくらいに凄かった。
メガトン級の爆弾が爆散したみたいに辺り一面を吹き飛ばす。
ある程度、距離を取っていたはずの龍好達も、周りの木々もろとも思いっきり吹き飛ばされていた。
*
「美しい」
バグ・プレイヤーは、立ち往生しながら消えゆくみらいを見て言葉をこぼした。
己が死に至る事に対して悦に浸る自己犠牲ではない。
純粋に戦友を信じた上での行動だったからだ。
いつか自分にも死は訪れるのだろう。
もし、そんな時が来たならば、自分もかくありたいと願わずにいられない程に――
みらいの逝き様は美しかった。
それに対しバグ・プレイヤーの身体は、全身が焦げていた。
栞の放った技の余波をかわし切れなかったからである。
それ以外は、奇術師が言っていた通りだった。
「あんたが、バグ・プレイヤーはんなん?」
「あぁ、いかにも、我は、そう呼ばれている」
「残念やけんど、うちはあんたと戦うには役者不足や。外で本命が待っとるから付いてきてなぁ」
「ふっ。いいだろう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます