12-4

 敵を倒すうえで問題が起こっていた。

 時也の強すぎる炎が周りの木々までも燃やしてしまい。

 視界が悪化していることだった。

 そこは、青の賢者。

 楓が消火してくれたが下手に火事を発生させるのは避けるべきと判断され。

 今は、通常攻撃だけである。

 同じ理由で、奇術師も強力な攻撃は出来なくなっていた。

 となれば、当然ペースは落ちるし、銀十字騎士団の負担が増える一方だった。

 それでも、誰一人文句を言う物はおらず。

 むしろ、意気揚々として先に進んでいた。

 ここまで、まったくと言っていいほど良いところなしの龍好は、申し訳なさそうに慎吾に声をかけた。


「なんか、ありがとうな慎吾……」

「ふっ。気にすんな。たまたま行き先が同じだけだっただけの話だ」

「まぁ、そうかもしれんが、それでもな……感謝してる」

「そういうことは、勝ってから言ってくれ」

「それもそうだな、期待してるぜ!」

「おうっ! まかせとけ!」


 それからも絶え間なく魔物は湧き続け。

 次々に襲い掛かって来た。

 その大半を銀十字騎士団の面々が倒し。

 残りは、青の賢者と、白の賢者が主に倒していた。


 そして――


 ついに少し開けた場所に出た。

 明らかに手入れがされていて、邪魔な木なども生えていない。

 大きな岩をくりぬいたお城もどきがあった。

 出来栄えは、あまりよろしくないが、絵本に出て来たものよりも大きかったし。

 奥行きもありそうだった。


「おそらく、この中にバグ・プレイヤーがいるわ」

「あぁ、いかにもそんな感じだな。約束通り一番槍は任せる。好きにしてくれ」


 みらいの言葉に、慎吾が予定通りの言葉で返していた。


「ありがとう」

「いいってことよ」

「ついでにもう一つお願いしてもいいかしら?」

「あぁ、いいぜ」

「大将の首は任せるわ」

「えっ?」

「おそらくだけど、バグ・プレイヤー以外にも厄介なモノが居るわ。それを片付けるから。その後、突入してもらえるかしら?」

「わかった」


 慎吾を含め銀十字騎士団の人達は納得してくれたが、


「ちょっと待ってくれみらい!」


 龍好と刹風が納得しなかった。


「そうよ! どういうこと!?」

「どうもこうもないわ。栞の必殺技を使う以上。近くに居られてもじゃまなだけだもの」

「なによそれ!」

 

 不機嫌を、あらわにする刹風とは違い、龍好と奇術師は、みらいが何をするのか察してしまう。


「待ってくれ、みらい! 他に手はないのか?」

「そうですよ、みらい君。なにも貴女が全て背負うようなことをしなくてもいいはずです!」

「残念ながら、時間的に考えても他に手は思いつかないわ」

「ですが、それが……すみません。分かって言ってるんですよね……」

「えぇ、理解してもらえて幸いだわ。それから龍好じゃまするって言うなら押し通してもらうわ」

「なんだよそれ!」

「栞っ!」

「はいな! かんにんな、たっくん」


 龍好は、栞の不意打ちをもろに食らう形になり、森へ向かって一直線。


「って! うわ~~~~~~!」 

「ちょ! 栞、なにしてんのよ!?」

「せっちゃん、くろにゃん。カエシン達も、たっくんのことよろしくなぁ」

「よろしくって! あんたねぇ!」 


 刹風は、どうするべきか悩むが――

 森の中に単身で吹き飛ばされて行った龍好も気になる。

 今も、断続的にモンスターが湧いている状態だからだ。


「いい! みらい! なにするか知らないけど! 無茶な事だけはするんじゃないわよ!」

「えぇ、分かってるわ」


 刹風は、その――みらいの言葉を信じ、森の中に向かって走る。

 

「じゃぁ、栞。おんぶしてちょうだい」

「はいなぁ」

「いくわよ! アテライエル!」

「キュイー!」


 アテライエルと呼ばれたピー助は、気合の入った顔つきで鳴く。

 まるで龍好の隣に居るのが当たり前だったピー助が、みらいのもとへ駆け寄る。


「栞! 全速力でお願い!」

「了解や! いくよ~。ぴーちゃん!」

「キュイー!」


 ピー助は、喜んで付いて行くといった感じではない。

 まるで、何かを背負う覚悟をした走りに見えた。





「ちょっと龍好! 大丈夫!?」

 

 突然、栞に突き飛ばされた龍好のもとに駆け寄った刹風。


「いって~~~~! って! それどころじゃねぇ! みらいのやつ、また無茶するつもりだ!」

「えっ!? でも、さっき無茶なことはしないって……」

「それは、ウソだ! たぶん俺らには言えねぇ理由があるんだろうけど、そんなものかんけぇねぇ! 止めに行くぞ刹風!」

「わかったわ! ……って言いたいところだけど」


 周りを、どでかいムカデとカマキリの大群に囲まれていた。

 とてもじゃないが素通りなんてさせてもらえそうにない。


「炎月鈴!」


 巨大モンスターの群れを、時也と奇術師が蹴散らし始める。


「もう、先は見えてるんだ、燃やしたってかまわねぇだろう!?」

「そうですね、ギガサンダー!」


 それに続くかたちで銀十字騎士団の面々も戦闘に加わったのだった。

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