12-3
薄明かりの中――
みらいは、何度も読み返した絵本に触れる。
両親が帰ってこれなくなった理由は――やはりリトライが関係しているのだと強く感じた。
絵本のラストでも、リュタリアで最後を締めくくるからだ。
そして、それをなぞる形での宣戦布告。
明らかにバグ・プレイヤーは、英雄王を演じているのだと感じた。
絵本の中でも実に厄介な相手として描かれている。
だが、全てが絵本の通りと言うわけにはいかないだろう……
アテライエルの存在である。
もしも、バグ・プレイヤーにグリーン・レクイエムが有効だとしたら――その時点でこちらの勝が決まってしまう。
そんなぬるい展開なんてありえないと思った。
となれば、当然なんらかの手をうってあるに違いない。
こちらの技を無効化する手立てが整ったからこその宣戦布告だった可能性もある。
そうなると、勝利への道筋は見えない。
唯一の可能性があるとしたら、捨て石になる事くらいだった。
*
開戦は、夜の10時。
まるで、特定の誰かを待ち望むかの様な時間帯。
真剣狩る☆しおん♪の近くには銀十字騎士団と神々の頂がひかえている。
作戦は、出たとこ勝負。
と言うことになってはいるが、みらいだけはそういうわけにはいかなかった。
バグ・プレイヤー討伐に対し、相応の功績を残す必要があったからだ。
とは、いうものの。
どんな状況になるのかまったく分からないし、その他大勢の動きなんて感知しきれるはずはない。
言ってみれば、大将の居ない戦争である。
個人、もしくはギルド単位での作戦はあるだろうが、全体的に統率をとれる者が居ない。
仮にそれを出来るとしたら賢者の面々なのだが。
戦力として外すわけにはいかないので、後方で指揮をとってもらうわけにもいかないし。
そもそも、作戦をまとめるだけの時間なんてなかった。
大手のギルドなんかは、偉そうに俺達の邪魔だけはするなと言わんばかりのオーラを出しているが……
みらいからしたら、こっちこそ余計なことはしてほしくないと思っている。
まさにバグ・プレイヤーの手のひらの上で踊らされていると言ったところだった。
時間になると、薄い膜の様な壁が消え――
モンスターが、あちらこちらから大量に、湧いてきた。
まともにクエストをこなしていない真剣狩る☆しおん♪のメンバーからしたらほとんどが初見の相手。
二の足を踏んでいると、
「うを~~!」
と言う掛け声と共にいくつかのギルドがモンスターの群れに突撃していた。
形はどうであれ、時間稼ぎくらいにはなるだろう。
みらいは、覚悟を決めて声を張り上げる。
「敵は、おそらく森の中よ! そこまでの援護よろしく!」
「了解だ!」
銀十字騎士団の団長が声を張り上げると仲間が続く。
銀盤の音姫が固有スキルを発動させる。
「銀盤の旋律発動!」
これにより、仲間の素早さが上昇する。
銀十字騎士団全員がキラキラしはじめる。
次に月の銀水晶が固有スキルを発動させた。
「月の加護発動!」
これにより、仲間の魔法防御力を上昇させる。
今度は、薄く輝く防壁みたいな物に包まれている。
次に極上銀貨が固有スキルを発動。
「極上硬化発動!」
これにより、仲間の物理防御力が絶大に上がる。
見た目の変化はないが、効果は絶大である。
みらい達の前に沸いたのは、巨大アリの大群だった。
一匹が2メートル以上あり、その数は軽く100を超えていた。
双翼の銀狼が叫ぶ!
「
背中から羽が生えたかと思うと、大鷲のごとく羽ばたき、一瞬で距離をつめる。
両手に持った、大き目の長剣を振るってアリの大半を滅していた。
残った、アリも瞬く間に蹴散らされていく。
すると、あからさまに大きさの違う超巨大アリが現れる。
軽く5メートル以上はありそうだ。
そこに向かって銀龍が跳ぶ。
「
両手剣を使った重々しい一撃で粉砕。
ボスは、あっさりと霧散していった。
「やれやれ、うかうかしていると我々、神々の頂の出番がなくなりそうですねぇ」
あまりにも見事な連係プレーに奇術師は、とても嬉しそうだ。
「んなこと言ってねぇで俺らも、なんかするべきじゃねぇのか!?」
赤の賢者。
時也が奇術師に食ってかかる。
「いえいえ、ここは彼らに任せ、予想外の事態に備えるのが得策でしょう」
まさに奇術師の言った通りだった。
今度は、巨大ネズミと蛇の大群だったからだ。
ネズミの方は、銀十字騎士団が殲滅し。
蛇の方は、賢者達の出番だった。
「ギガ・サンダー!」
奇術師は、賢者の杖を使い。
本気の範囲攻撃で大半の蛇を炭化させていた。
うち漏らした蛇達は、時也の、
「炎月鈴!」
により、やはり炭にされていた。
最初の出だしとしては悪くない展開だ。
*
真剣狩る☆しおん♪のメンバーは、なにもしないまま順調に中央突破をしていた。
巨大なクモだったり、巨大なカニだったりが出現しながらも銀十字騎士団と賢者の皆様の敵ではなく。
ことごとく、ぶちのめされていた。
それを面白くないと思ったのか、単なる偶然なのか、いつぞやの水系のモンスターが大量発生した。
時也の炎月鈴でも、蒸発させる事はできるが、効率が悪い。
っていうか、出現と同時に水鉄砲を乱射してきやがったので楓が水の壁を作って防戦してるだけになってしまっている。
これでは、足止めされたも同然である。
そこに、金色の鎧をまとった白髪の女剣士が割って入って来た。
「
猫屋の仕入れ部隊隊長――
「ここは、私がもらってもよろしいかしら?」
みらい達からしたら本番は、森に入ってからである。
こんな平原で時間を取られるわけにはいかない。
むしろ、ありがたい申し入れだった。
「では、お願いします!」
「それでは、今後も猫屋をよろしくおねがいします」
そう言って、雪白は水の魚を次々と氷漬けにしては砕いていた。
それを尻目に、龍好がつぶやく。
「やっぱり、水には氷が良いんだな……」
「そうみたいやねぇ」
あの日の苦労はいったいなんだたのだろう……
そう、思えるくらい雪白は圧倒的だった。
次に出くわしたのは、岩石系モンスター。
「双翼双刃双滅斬!」
「逆鱗!」
それなりにレベルは高いはずなのに、まるで豆腐でも切り刻むみたいに銀十字騎士団の連中は倒していってしまう。
「やっぱり、カエシン達はすごいなぁ」
「あぁ、さすがにこれは認めるしかねぇな」
栞のつぶやきに、龍好は呆れ半分でこたえていた。
むしろ、このまま最後まで行けるんじゃないかと思えるくらい順調だ。
やがて森に入ると――
ほぼ同時に、どでかい熊の群れが襲ってきた。
半分は、銀十字騎士団が倒し。
残りは、賢者達が倒していた。
やはり、平原と違い、戦いづらさが見て取れるようになってきた。
次々に湧いてくる魔物の群れ。
手数が足りないと見るや、みらいも攻撃に参加するようになり。
それに続く形で栞と刹風も前に出て戦い始め。
龍好は、ニードル・ショットでの後方支援にてっしていた。
目的地の方向が合っているのかなんて分からない。
それでもみらいは、絵本の内容を信じて北へ向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます