12-2


 銀十字騎士団の面々は、早々に宿場町リュタリアへと向かっていた。

 ようやくブルークリスタルでの雪辱が叶うと意気込んでいる。

 基本的にリーダーの決めた事には従う方向でやってきたが……

 やはり、気になる事があり音姫は問いかけた。


「ねぇ、しんちゃん。本当に作戦通りにやるの?」

「あぁ、俺達はガーディアンだからな。首を取りてぇってヤツが居るならそいつに譲るさ」


 やはりリーダーは、引き付け役を買ってでるようだ。

 どんなモンスターがどれだけ湧くかさっぱり分からない以上――ただの消耗戦になってしまう可能性もある。

 それでも、リーダーは、みらいからの要請を二つ返事で了承していた。

 そんなもの言いたげな、瞳に団長は優しい声でこたえる。


「それにな、姫りん。俺達が頼まれたのは一番槍を譲ってほしいって事であって、バグ・プレイヤーを倒しちゃいけねぇとは言われてねぇ。第一目的は、護衛。そして、第二目的はバグ・プレイヤーの討伐だ」

「そ、そうだよね! 倒しちゃいけないってことはないんだもんね!」

「あぁ! みんな期待してるぜ!」

「おぉ~!」


 仲間達の声が高らかに響く。





 ファールドライドから南にある目的地に向かう飛行艇の中――


 相変わらず奇術師は新聞を書いていた。  

 その表情を見て栞が話しかける。

 

「なんや、くろにゃん嬉しそうやねぇ?」

「えぇ、ボクの目的は、この世界の核に近づくことですからね」

「それと、この戦いが関係あるん?」

「はい。ボクは、バグ・プレイヤーこそがこの世界の根底ではないかと仮説を立てているのですよ」

「ほな、バグ・プレイヤーはん倒してまったら、この世界はなくなるん?」

「そうですね。ボクは、そう考えています」


 奇術師の話を聞いていた刹風が口をはさむ。


「ちょっと、まってよ! それじゃ、勝っても負けてもこの世界は終わりって事!?」

「あくまでも、ボクの推測が正しかったらの話ですよ」

「でも、可能性はあるってことよね!?」

「はい。あくまでも可能性ですけどね」

「でも、負けたら完全にお終いなんやから勝つしかないんやない?」

「ですね。勝って結果を見て見ようと言うのがボクの考えです」

「つまり勝算はあるってこと?」

「さぁ……ボク自身一度も戦った事のない相手ですからね。噂レベルの話しか知らないんですよ」

「ちなみに、その噂っちゅーのは、どないなもんがあるん?」

「そうですね、2メートルを超える大男で、黒い大剣を持っていて、こちらの攻撃はまるで当たらないのに、相手の攻撃ばかりが必中する。しかも全てが一撃必殺というとんでもない内容ですね」

「なっ! それって、バグかなんかじゃないの!?」

「伊達や酔狂で、バグ・プレイヤーとは呼ばれないでしょうからね。おそらくそれにもなんらかの秘密というか攻略法は、あるとは思うんですけど……」

「現時点では、ムダ死に覚悟の突撃しかないってこと?」

「まぁ、そうなりますねぇ。もっとも、それだってバグ・プレイヤーと戦うことができたらの話ですしね」

「そっか……どんなモンスターが出てくるのかも分かんないんだもんね」

「そうなんですよねぇ。相手がどこに居るのかも分からない。それに加えておそらくバグ・プレイヤーはモンスターを思い通りに増やすことが出来る」

「はぁ! なにそれ!?」

「実際に刹風君もバグとしか思えない状況を見てきたじゃないですか。おそらく、あれは予行練習みたいなものだったのでしょう」


 刹風の脳裏には、何度となく異常発生するモンスターの群れを見てきた記憶が鮮明に映し出されていた。


 その一方で、みらいは自分がどう動くべきか真剣に考えていた。

 決戦の場所から考えても相手が岩山をくりぬいたお城もどきで待ち構えている可能性は高い。

 となると、問題は他にもある。

 バグ・プレイヤーが次男を演じているとなると――その兄にあたる存在が居る可能性まであるのだ。

 魔法攻撃に対する鉄壁の防御を持つ知能の低い暴れ者。

 状況次第では、バグ・プレイヤーよりも厄介かもしれない。

 練習して上げた命中精度も火力を上げた杖も無効化されてしまうかもしれないからだ。

 そんな者とまともにやりあっていたらタイムオーバーになりかねない。

 なにか、画期的な打開策が欲しいところだった。





 龍好は、目的地のリュタリアよりも少し離れた広野に飛行艇を着陸させた。

 それほど広い町ではないため、町の外に着陸した方がいいと言われたからだ。

 そこから見る景色は、明らかに歪んでいた。

 町に入る分には問題がないのだが、森のある方へ行こうとすると薄い膜の様な壁にさえぎられていて進めないようになっているのだ。

 奇術師が見据える先には広大な森。


「どうやら。ゴールは、あの森の奥のようですね」

「あぁ……」


 言葉少なに答える龍好。

 とてもじゃないが、あの中に飛び込んでバグプレイヤーを探せと言われても無理な気がした。

 それでも、時間がこれば戦闘は開始され――

 時間内にバグ・プレイヤーを倒せなければゲームオーバーになってしまう。

 焦るなと言う方が無理だった。

 しかも森の中で戦うとなると障害物が多すぎて自由に戦えない。

 平原の内は戦力になるだろうが……

 森の中に入った瞬間――戦力外通告をされそうな気がしたからだ。

 真剣狩る☆しおん♪のメンバーは、各自不安を抱えたままログアウトして開戦に備えたのだった。

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