決戦は突然に

12-1


 それは、運営ではなく個人が開催するイベントとして大々的に取り上げられていた。

 開催日は明後日で、目的はバグ・プレイヤーと呼ばれる者との勝負。

 もっとも、ただ勝負するだけではなく、そこにいたる道が険しかった。

 モンスターが無数に湧くとされていたからだ。

 それは、ゲームに直接関与できる存在だからこそ出来るイベントといえた。

 一般人からしたら、完全にスルー対象の話のはずなのだが……

 黙って見過ごすわけにはいかないペナルティが提示されていた。


 ――もし、バグ・プレイヤーを討伐できなければ、国内の通信回線が死滅するという内容だったからだ。


 分かる者には一発で分かる内容。

 これは運営がどうこうではなく、バグ・プレイヤーが個人的に宣戦布告してきたのだ――

 だが、それが分からない者の多くは混乱した。


 ――もしかして、ワンデイズ・ロストバンク事件の再来なのか?


 もし、本当に通信回線が死滅したらとんでもない事態におちいってしまう。

 情報をつかんだ者は、銀行にある金を引き出しはじめ、取引のある企業も大慌てで対処を始めていた。 

 まさに大混乱である。


 そしてそれは、リトライをプレイするプレイヤー達も、おおむね同じだった。

 明後日を最後にプレイ出来なくなるかもしれない。

 想い人に逢えなくなるかもしれない。

 夢が終わってしまうかもしれない。

 思いは、それぞれなれど大混乱だった。


 そんな中――


 比較的腕に自信のあるプレイヤー達は、続々と決戦の地。

 リュタリアに向かい始めていた。


 この完全に想定外の事態に西守も混乱していた。

 改革派の作戦。

 みらいを使って闇討ちする作戦が、とつじょ使えなくなってしまったからである。

 本来なら、指定された期限までは――まだ時間があるはずだった。

 それが、いきなり予定を前倒ししてきたのだから混乱するなと言っても無理な話だろう。

 中立派は、どこまでも静観をきめこみ。

 保守派は、この状況下でもバグ・プレイヤーとの共存を捨てきれないでいる。

 それほどまでにリトライの影響力は大きくなり過ぎていた。

 西守を統べる者は国のトップであり。

 その西守が運営しているゲームである以上――

 国家プロジェクトと言っても過言ではない。

 多くの問題を抱えながらも、相応の功績も残してきた事実。

 かと言って、サービス終了することも出来ない。

 バグ・プレイヤーからされた宣戦布告の内容には、逃げる事は許されないと記されていたからである。





 夏休みに仕上げた論文もそれなりに評価され。

 マジックポイントの大幅な上乗せができたみらい。

 それでも、まだまだバグ・プレイヤー討伐には届かないと思っていた矢先に――相手からの宣戦布告。

 何らかの理由で期限を前倒ししてきたのは分かるが、理由も不明なら上層部からの指示もない。

 今ある駒だけで勝負するしかない状況に追い込まれていた。

 幸いなことに、銀十字騎士団の目的はバグ・プレイヤー討伐のため協力を申し出るまでもなく話は、まとまり。

 奇術師を中心とする神々の頂きも参戦してくれることになるだろう。

 問題は、果たして今いるメンバーだけでバグ・プレイヤーに届くのか?

 それが、まったくにもって分からなかった。

 不確定要素でもある、その他大勢の参加もあるみたいだが……

 それら、未知数の人達をどこまであてにしていいのやら見当がつかない。

 統率のとれていない戦力なんてあてにしない方がいいかもしれない。

 そう決め込んだみらいは、久しぶりに母親の描いた絵本を枕元に置いてから――

 リトライにINしたのだった。





 リトライの世界もリアルと同じ現象が発生していた。


 ゲーム内通貨として使われているキャッシュは、簡単に現金化できるため――

 多くの者が現金化して銀行やATMで現金を引き出すという流れが特に目立った。

 その中でも、商売をやっていた連中の投げ売りが少なからず人を引き寄せている。

 この世界が無くなってしまうのなら――少しでも多くの商品をさばき現金化することを優先したからである。

 そして、その投げ売りに真剣狩る☆しおん♪一行も加わっていた。

 主な目的は、回復薬である。

 信じられないことに、最低価格の1キャッシュで大量に課金アイテムが売られていたからだ。


「本当に、これって1キャッシュでいいんですか!?」


 早々に、出来る範囲で現金化を終えた刹風が猫屋の店員さんに聞く。


「いいも悪いも、本当にこの世界が終わってしまったら商売どころじゃないですからね」

「それは、まぁ。そうだとは思いますけど……」

「買っていかれる方も本格派の方ばかりですし。万が一にでも、この世界が存続したら――その時は、その時で儲けさせてもらいますので」

「私としては、存続してもらいたいので頑張ってくる予定です!」

「でしたら、えんりょなく、買ってっちゃってくださいね」

「はい。ありがとうございます!」

「そんじゃ、俺らもえんりょなく買わせてもらおうぜ」


 刹風に続き龍好も回復薬に手を伸ばすとそれに栞とみらいも続いた。


「せやな、うちの本気見せたるよ~」

「では、私もえんりょなく」

「それから、私たちの中からも仕入れ部隊が参戦する予定なので。見かけたらよろしくです」

「分かりました。実力の程。拝見させてもらいます」


 と、社交辞令で言ってみたはいいが……

 どこまで頼っていいのかさっぱりわからないみらいだった。

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