11-3
みらいは、リビングに戻り栞に結果報告する。
「龍好に濡らされたわ」
「みらいちゃん、うち若いうちから、下ネタに走るんはよくないと思うよ」
栞がむくれている。
この物言いではせっかくのネタが生きないらしい。
リテイクが出てしまった。
「は~、龍好に女を濡らす技を見せ付けられてきたわ」
「そっか~。たっくんも上達してきたんやね~」
今度は合格だったらしく喜んでいる。
果たしてどのくらいの評価をえているのかさっぱりわからない。
それなりに付き合いは長いのに、いまだ栞の基準がよく分らなかった。
「まぁ、そういうことで着替えてくるわ……」
艶に乏しい銀髪も見慣れてくると違和感もなくなり。
今では特に気にならなくなっている。
病的なほどに白い肌と黒いワンピースのコントラストは鮮やかに夏を演出していた。
首の後ろを紐で止めるタイプのノースリーブワンピース。
胸元とスカートの裾にる白いレースのフリルが段状に添えられて愛らしさを演出している。
それに対し背中は腰元まで大きく切り取られ丈も短め。
太股を大胆に露出したソレはみらいが着ているから可愛らしく見れるが、刹風が同じものを着たらかなりの攻撃力を発揮するに違いない。
ある意味、とても危険な性能を秘めていた。
夏の暑さが、濡れた場所を乾かしていく。
水が乾く時。
付近の熱も一緒に奪っていく。
その発生した気化熱は、わずかでも。
体は、それに乗じて更に冷やそうと勝手に動き出す。
時折こうして制御不能になり暴走する力が疎ましく感じると同時に少しでも安心を得ようと龍好の部屋に逃げ込んだ。
部屋に入ると同時に首の後ろの紐を引っ張り濡れた服を脱ぎ散らかし――そのまま龍好のベットに飛び込む。
夏の暑さに温められた布団は、温かく自分を包んでくれた。
龍好の匂いがあの日のくれた安心を再び与えてくれる。
心にゆとりが出来ると暴走していた力はあっさりと自分の下に平伏す。
分ってはいる、あの日の恐怖が自分を追い込んでいる事を……
肌寒さが落ち着くと途端に襲ってくる熱い夏。
今まで、自分の体温を調整して快適な夏を過ごしてきたみらいにとって、今年の夏は茹だるくらい暑苦しかった。
布団からはい出ても。
「あついわ……」
正直、許されるものなら服なんて着たくなかった。
もっとも、裸でいたところで龍好が興味を示してくれるわけではなし。
みらいは、いつぞやから置きっぱなしになっている危険物の入ったバックを開いてみた。
ソコには、適当に押し込めた怪しい物体がそのまま眠っていた。
どうやら、これに対し栞は一切手を付けていないようだ。
もし、彼女ならこれだけぐちゃぐちゃに詰め込んだ中身を見たら綺麗に畳み直しているからである。
そして、その中から気になっていたモノを取り出す。
基本的に小春がネタとして仕込んだのは間違いないが、コレが自分と龍好との距離を縮めるアイテムなのだという認識の下に選ばれたモノであるのも事実なのである。
「む~~~~」
この、すけすけした洋服は本当に龍好の好みなのだろうか?
唸ってみても答えは出てこない。
人の気持ちは数学みたいにパズル解くみたいには分らない。
それを、もっとも簡単に理解する方法として適切なのは実験である。
リトライでも、新たな自分を発見するためか、ただ単にそういった物が好きなのか?
リアルでは滅多にお目に掛かれない、猫やら狐やらの耳や尻尾を付けた人達が普通に居た。
栞は、それらが気に入ったらしく狐さんごっこを楽しんでいる。
それを見た龍好は微笑ましく見詰めるばかりか、
『おお~! すっげー! これって感覚あんのかよ!』
耳を触ったり尻尾を触ったりして楽しんでいた。
常識や普通は相対数で変化する事がある。
そしてそれは、みんなやってるから大丈夫に変換されてしまう。
だからみらいも自分が以前否定したものを平然と手にしてしまっているのだ。
「これくらいなら……」
呟いて、狐耳を付けてみる。
姿見が無いため似合っているのかさっぱり分からないが、それでも。
これを付けて彼が喜んでくれるのなら。
こういうのもアリ、なのかな?
次に、鈴の付いた首輪をしてみる。
これと、同様の物もリトライで良く見かけた。
チョーカーの一種らしく、装飾品を扱う店で普通に置いてあった。
栞が歩く度にもりんりんと音を鳴らして可愛らしかった。
だから真似して首に付けた鈴を鳴らしてみる。
りんりんという涼やかな音は風鈴みたいでちょっぴり楽しい。
「うん。これは悪くないわね……」
そんな感じが楽しくて、リトライで新たな自分発見を楽しんでるみたいで嬉しくって。
みらいは悪乗りしてしまっていた。
どうせ、栞は問題集と格闘中……最短でも30分以上は、ココに来る事は無い。
龍好も同じ。
ペットボトルに水でも入れなおしたら。
きっと、あの不気味なカニ歩きを再開するに決まってる。
「ぷっ」
思い出し、ついふきだす。
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