10-4
目的地には、
一見すると、かなり古い家屋で……明り取り用の窓には、ガラスすらない。
本当に、こんなところに凄い人が居るんだろうか?
まるで戦国時代の鍛冶屋さんに来てしまったみたいである。
ややたてつけの悪い引き戸を奇術師が開けると、中には金髪の兄ちゃんが一人でぼーっとしていた。
そして、奇術師を見るなり表情が変わる。
「おぉ! やっときてくれたか! おかげさんで待ちくたびれちまったぜ!」
「すみません。こちらには、こちらの事情がありまして」
「で、妖精の羽は何枚持ってきてくれたんだい?」
「刹風君。彼に取って来た妖精の羽を渡してやってください」
「分かりました。えと……咲夜さんでいいんですよね?」
「あぁ、よろしく頼む」
「はい、では送りましたので確認してみてください」
「は? ……せん、ひゃく、さんじゅう、ごまいですと……」
「あの~。足りなかったのでしょうか?」
「いやいやいや、こんだけ集めるの相当苦労しただろ!?」
「はい。三日もかかりました」
「はぁ……この枚数をたった三日でだと……?」
咲夜は、事の真意を確かめるべく奇術師に顔を向ける。
「ちなみに、ここにいる刹風君一人で集めたので勘違いしないでくださいね」
「マジか!?」
「はい。彼女、素早さに特化した戦闘スタイルですので、できればそれを活かす方向での武器が欲しいのですが。物々交換でなんとかなりませんかね?」
「あぁ、これだけの量を集めてくれたんだ。これで弟子達にもじゅうぶん練習させてやることが出来るってもんだ。いいぜ、作ってやるよ、ちなみにどんなのがいいんだい?」
「ほら、ほら、刹風君。貴女の理想を言ってみてください。きっと黄色君が叶えてくれますから」
刹風は、少し考えた後――
出来るものなら作ってみてくれって感じで言ってみた。
「じゃぁ、いまよりも素早く動けるようになる短剣が欲しいです」
「了解だ」
まさかの即答だった。
「えっ! 本当にそんなの出来るんですか!?」
「あぁ、黄色の賢者の名は伊達じゃないからな! ってと、とりあえず今使ってる武器見せてくれ」
「はい、これですけど……」
猫屋で買った安物を、咲夜に手渡す。
ボロボロとまではいかないが、かなり使い込まれた感が出ていた。
「ん~。さすがにこれじゃ、素材にしかならんが、溶かしちまってもいいかい?」
「え……」
刹風は、どうしようと悩み、奇術師に目で助けを求める。
「大丈夫ですよ刹風君。以前よりも使いやすくなって戻ってきますから気にせずお任せコースでお願いしちゃって下さい」
「わかりました。では、咲夜さん。お願いします」
「あぁ、了解だ!」
咲夜は、早速とばかりに刹風の短剣を灼熱の炉に入れると――
さらに追加で、複数の金属らしきものを炉に入れる。
そして、溶けかけてきた頃を見計らって平ツカミを使って取り出し、金床の上に置くと金槌で打ち付け形を整えていく。
その速さは、尋常じゃなかった。
刹風以外に、彼が何をやっているのか見きる事は出来ないほどの早さだった。
ゲームである以上、ある程度の簡略化はされているとはいえ。
それでも、一流の職人が刀を作っているかの様な光景だった。
出来上がった短剣は、以前よりも長く鋭かった。
柄の部分には持ちやすさを考慮した物が巻かれていない完全金属製。
「さてと、とりあえず形だけは出来た。んでこれからが本番だ!」
咲夜は、妖精の羽を8枚取り出し――その短剣の上に置く。
部屋の空気がピリピリし始める。
明らかに、彼が集中しているのが手に取るようにわかる。
「能力付与術式。雷!」
まるで短剣に雷が落ちたのかと思うくらい
妖精の羽が、少しずつ形を変えて短剣と一体化していく。
それは、強すぎても荒すぎても失敗してしまう。
とても繊細な技術が織りなす技だった。
「おっしゃー! 完璧!」
先ほどまでとは雲泥の差。
キラキラと輝いている短剣は、なにか全く別物の様だった。
「すっげー」
「ほんまに、なんやようわからんけんど、見事なもんやなぁ」
素直に感想をもらす龍好と栞。
みらいだけは、冷静にその性能を分析していた。
もともと安物を使っていたのだから当然と言えば当然なのだが――
性能が桁違いになっているだけでなく、特殊効果付きアイテムになっていた。
さらに、修理可能な武具として昇華されているだけでなく。
その、耐久力も、とんでもないものだった。
そして――
これは、おまけ的な要素だが、作った人の名前が刻まれていた。
(なるほど、特定の人が作った物は名が刻まれるのね)
「ほれよ、刹風って言ったよな。こいつに名前を付けてやってくれ」
「名前ですか?」
「あぁ、俺の作った武具は、かなり長い付き合いになるはずだ。だからこそ相棒だと思って名前を付けてもらってるのさ」
刹風は少し考えた後――
「じゃぁ、跳び燕で!」
いかにも刹風らしい名前を付けていた。
「うん。いい響きだ。いかにも天高く舞って行きそうな感じで良いじゃないか」
「そう……ですかね」
刹風は、すこしばかり照れていた。
こうして素直に褒められることが珍しいからだ。
「さてと、次は、魔法使いの嬢ちゃんの番だな」
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