9-4


 今日も大量大量と満足げに山賊達を追い剥ぐ魔女の笑い声に黒い男が声をかける。


「今日も派手にいじめちゃったみたいですね~」


 女は振り返ることも戦闘の準備をする事もなく、


「いいじゃない、これもでも正式に管理者から依頼されてる仕事なんですから」


 平然と、こたえたのだった。


「まぁ、確かにボクも同じ穴のムジナですからね~。非難はしませんけど……」

「なに?」

「あまり派手にやっちゃってると……第三勢力が減っちゃってるんですよねぇ」

「いいことじゃない 悪人がこの世から消えれば警察だってその価値はミジンコ並みになるわ。そもそも、犯罪が起こってから動くって考え方が甘いのよ。起こす前に、もしくは派手に何かする前にこうしてプチプチやってけば警察の仕事は落し物の管理や交通事故処理。人探しに木から下りれなくなった子猫の救出とかっていう比較的平和なモノが中心になるでしょうに。だいたい待ってるだけじゃなくて、日々の巡回をもっと強化すべきだと思うわ」

「まぁ、貴女のそーゆー考え方は好きなんですけどねぇ」

「で、何の用なの?」


 相変わらず女は端末を使って物色しているだけで男の方を振り向きもしない。


「実は、新しい賢者が仲間入りしそうなので、その報告に参った次第なのですよ」

「あら、新たに賢者になれる方法が判明したの? それは興味あるわね」

「いえ、実は、方法は不明なんです」

「なによ、期待させといて! 噂とか都市伝説の類は好きじゃないの知ってるでしょ?」


 女は期待を裏切られ、やや苛立ちをぶつけてくるが――黒い男は、相変わらずの口調で続ける。


「まぁ、なんといいますか。彼女の場合そういった条件を無視して賢者になってしまいそうなんですよね~」

「あら、それが本当なら確かに興味あるわね。どんな人なのかしら?」

「職業は貴女と同じメイジ系だと思うのですが……?」

「なぜ、そこで疑問系なの?」

「どうも、釈然としないものがあるんですよねぇ」

「へ~。あなたに分らない事がある方が私的には驚きですけれど」

「まぁ、実際にその釈然としない部分を並べてみて意見を聞きたいってのもあって来たわけですよ」

「ふ~ん。まぁ、言ってみなさいよ あんたが分らない事で私が分る事があるとは思えませんけどね」

「そうでもないですよ~。やはり、視点をかえて見ないと気付かない事も多いですからね~。日々、探求と勉強は怠らない主義ですから」

「で、どんな人なのよ?」

「先ずは、非常うに稀というか……おそらくリトライにおいて1体しか居ないと思われる鶯色うぐいすいろのドラゴンを連れています」

「へー。魔物使いか竜使いってところかしら?」

「残念ながら、通常モードで確認できる記載データには、魔法使い見習いと書かれているんですよねぇ」

「はぁ? あんた、この世界の理――無視してモノ言ってもネタにしかならないわよ」

「ええですから、こうしてネタを提供してるじゃありませんか」

「なるほど、ホントみたいね」

 

 ようやく蒼い女は満足できる物が調達出来たらしく追い剥いだ者達のログアウト許可申請を出した。

 モンスターと違って自動でアイテムやキャッシュの拾得が出来ないため。

 基本的にログアウトの許可は追い剥いだ者が行うことになっていた。

 その手には、銀色の宝飾剣が握られ、とても満足げな笑みを浮かべている。

 内心、


(うふふ これは高く売れそうね~♪)


 なんて思っているのだ。


「では、それ以外の情報をお聞かせ願えるかしら?」

「はい。次に気になっているのは異常なほどの成長の遅さなんです」

「つまり、特異な職を選んでいる、もしくは極端に不向きな職を選んでいるってことね?」

「はい、戦闘適正から見てどちらかというとメイジ系の適正はベストマッチみたいなので。おそらくは前者なのですが……」

「ひっかかる言いようね」

「すみません。実は彼女、炎系統の攻撃魔法しか使わないのですよ」

「それが、なにか? だって、炎系統はもっともポピュラーでしょ。攻撃力に対する扱い安さでいったらそれしか使わないっていわれても 当然だとしか思えないわ」


 むしろそれが普通に使える者が羨ましいと蒼い女は言う。


「氷系統の適正値がAAでもですか?」

「はい!? なに、そのバカな魔法使い! なんで氷系統使わないのよ! どう考えたって無理して炎系の魔法使ってるだけじゃない! って、ゆーか、そこまで開きがあったらむしろ炎系はマイナス数値が発生してるんじゃないの?」

「はい、全くにもっておっしゃるとおりなんですよねぇ」

「なに、それ、ばっかじゃないの?」

「はい、普通ならそうなのでしょうが……」

「ふっ、まさかそのマイナスポイント分差っ引いても炎の魔法攻撃だけでソロ出来ちゃうくらい立ち回りが上手いとかゆーわけ?」

「まぁ、その可能性すら感じさせますねぇ……」

「……信じられない実力者が居たものよね~」

「はい、正直あれほど器用な炎使いは珍しいですよ」

「それって、もしかして、リアルで炎の魔女やってる西守 紅だったって落ちはないでしょうね?」

「残念ながら、もし彼女だとしたら炎の適正値はSSSになってるはずなのでそれはありえませんし、それに氷系統に敵性数値が割り振られる可能性があるとも思えません」

「まぁ、そうでしょうけど……でも、それって可能なのかしら?」

「不可能ではないと思いますよ。例え適正値が極端に低くても、文字通り死ぬ気になって磨けば光る石もありますからねぇ」

「つまり、そこまでして炎を極めたい何かがその人にはあるって事なのね?」

「はぁ、……まぁそうなんでしょうねぇ」

「正直、あんたにそんな溜め息吐かせる人ならぜひ会ってみたいものだわ」

「ええ、ですからこうして挨拶がてら来たわけですよ」

「まぁ、それはもういいわ。肝心のドラゴンの話を聞かせて」

「はい、ではピー助君……ちなみに、この名は飼い主以外が付けています」

「は? ナニまたバカなこと言ってるのよ! 飼い主、もしくは所有者以外が名前付けれないの忘れた訳……じゃないのね……」

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