8-6
数日後の自由時間。
ここ数日募っていた物足りなさを確かめるために彼らに出会った場所におもむいたみらい。
しかし、そこには、だれも居なかった。
先日歩いた坂を一人登ってみる。
少しだけ楽しく感じた。
そして、途端に襲う孤独感は――
「やっと見つけたぜみらい、おまえがこねーとはじまらねーんだよ!」
男の子に手を引かれ吹き飛んだ。
「でも……」
今日は、お金がないのですとは言えなかった。
あの日お金をもっていたのはたまたま。
今日は、無一文なのだ。
普段からお金なんて持ったことも使ったこともないみらいにとって当然のことだった。
しかし、連れて行かれた先は龍好の家だった。
そこで、刹風の母に「これがこのまえ話した友達」だといって紹介された。
『ともだち?』
みらいは予想外の言葉に耳を疑った。
生まれてから、そしてこれからもそんな者が自分に出来ると思ってもいなかったし。
そう紹介されるとしたら社交界での社交辞令くらいのものだと思っていたからだ。
しかし――
刹風の母は硬直する。
その、オーダーメイドでしかありえない洋装に。
嫌なほど見覚えのある格好と気品は、まごうことなく西守の者だけがもつものだったからだ。
冷や汗が全身に浮かび何度も感じた悪寒にさいなまれる。
貧民にとって絶対服従が常識であったものが目の前にいる。
きちんと、『そんなことをしてはいけません』と、注意するから呼んできなさいと言った者が居る。
躾けるつもりだった者は西守だった。
逃げ場はない、ここに彼女が居る事がなによりの証拠。
『もしかしなくとも貴女は、私のした事に文句を仰っているのですよね?』
そういわれたなら土下座では許されないだろう。
最悪、このつつましやかな生活すら奪われる。
もう、やけだった。
例え何が遭っても子供達は守らなくてはならない。
だからこれは自分がした事。
ほかには迷惑は掛けない。
もうめちゃくちゃだった。
刹風の母は、まともな思考が出来なくなっていた。
そこで、当初の予定通りみらいをたしなめた。
「お金で、人の心を買う様な真似をしてはいけません」
と――
それを、龍好は、
「西守なんだからしょうがないだろ! でも、こいつと友達になりたかったから受け取ったんだ!」
悪いのは、俺だと言いはじめ。
それに、栞と刹風が続いた。
切っ掛けが欲しかったのだと訴えた。
みらいは、この情景が夢のようだった。
ただの駒でしかない自分を友達といい。
決して逆らうことの出来ない者にすら意見する、その潔い姿勢に驚いた。
彼女の表情を見れば分る。
自分が西守と知って恐れ恐怖していたというのに。
その思いの丈で自身を見事に貫いて見せたのだから。
みらいは始めて人に頭を下げた。
人として思える者達に。
社交のためでもなく、通過儀礼でもなく。
純粋に申し訳ありませんでした二度とこの様な無粋なまねはいたしませんと――
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