8-5


 そこには、100円均一ショップと駄菓子屋が並んでいた。


「一人100円までな!」


 と言って、みらいを駄菓子の置かれたスペースへ向かって手を引いていく龍好。


 100円それは1万円の100分の1の金額。


 そんなもので買える商品がこの世に存在したことに――そして、それらの商品にみらいは驚く。


 まず目に付いて好奇心から手に取った物は箱のデザインが可愛らしいと思ったから。

 それはカラフルな楕円形のチョコが描かれた箱だった。

 そこに記載されていた元素記号と色素番号に度肝を抜かれる。


(これは、本当に食べ物なのかしら?)


 みらいの頭の中では、絵の具に砂糖と化学合成された香料を混ぜ込んだチョコレートのまがい物が出来上がっていく。

 それを見た龍好が、


「いや、それは値段の割りに中身が少ないからこっちがいい」


 と言って、5円が大きく描かれているチョコを手渡してきた。

 裏面には、さきほどと同じで、明らかに食品と思えない文字が書き連ねられていた。


 そして、近くの公園で、それらを食べ始める。


 栞が、お勧めだと言った明太味のスティック状のスナックを一かじりして盛大にむせるみらい。

 恨みのこもった目で栞を睨むが――彼女は平然と、というよりも嬉しそうにほうばっていた。

 龍好に、


「大丈夫か?」


 ときかれ「大丈夫です」とこたえてみたが……疑念は、つもるばかり。

 本当は、自分だけ危険なモノを食べさせられているのではないのだろうか?

 だって、コレは、口に入れた途端びりびりした。 

 ふだん管理されたまともなものしか食べていないみらいにとって、化学合成された食品は舌が受け付けなかったのだ。

 そんな、なか。

 龍好が、


「まぁ、くいなれねぇから無理もねーが、これが俺達の楽しみ方だからな」


 と言いそれをみらいは、勘違いして受け取る。

 昨年年末に行われたホームパーティにて行われた余興に似たようなものがあったからだ。

 それは、有名処のパティシエを呼びつけてシュークリームを作らせ、その中に一つだけカラシ入りがあるというものだった。

 なんでも、使用人の一人がテレビで見てやってみたくなったからと提案したもので。

 当たり? なのか外れを引いた男性は涙を流しながら完食し皆からの拍手喝采を受けていた。

 それは、みらいも同じで。

 後でどれほどのものか試したい人ように作られたモノを少し分けてもらってあまりの辛さにびっくりしたのだった。

 そして心からアレを完食した男性を褒め称えたのだった。


 そう、これは我慢大会の一種なのだ!

 我慢しているのは自分だけじゃない!


 舌が痺れむせ返りそうなのをポーカーフェイスで乗り切るゲームなのだと。


 みらいは、見ていなさいよ、といわんばかりに栞を睨みつけて、もう一とかじり。


(どう、今度は、むせなかったわよ)


 とガンを飛ばすが、


「あはは~。明太味美味しいやろ~」


 と笑顔で返してきた。

 ここで負けたら西守の名が泣くとばかりに。

 みらいは、口腔内で暴れる科学合成物質を飲み込むと、


「ええ、おいしいですわ」


 精一杯のつくり笑いでこたえたのだった。


 そして栞が二本目にかじりつくと、負けじとみらいも追従する。

 そこで感じた不可思議な気持ち。

 味は不明、味覚がイカレ、舌はびりびりしているのに。

 なぜか、ソレが……思ったほど不味まずいと感じないのだ。

 結局、もともと体に合わないものをむりやり押し込んでいただけのみらいは、二本目を完食したところで撃沈。

 完敗していた。

 内心『今度は負けませんわ』と言いたい所だったが、今度があるとは思えなかった。


 龍好が卵型の形態端末で件名のみのメールを送ると。

 しばらくして小春が迎えに現れた。

 龍好がアイコンタクトで小春に伝えると、


(なぁ、こんなんでよかったのか?)

(ええ、じゅうぶんですよ。うふふ)


 おばはんメイドもそれにこたえる。

 そう、今日、この出会いは小春が龍好に頼んで仕込んだ小芝居だったのである。

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