7-17
数週間後――
奇術師経由で時也は、みらいと連絡を取り。
リアルで会う事となったのである。
場所は、岩曽流道場。
客間に通されて話が始まった。
「申し訳ありません。呼び出す形になってしまいまして……」
違和感しかない話し方だが時也である。
リトライの時とは、えらい違いだ。
見た目も、普通の好青年で、トゲトゲした感じは全くないし髪も短い。
「本当に、何と言ってお礼を言えばいいか……」
眼鏡をかけた鈴凛は、黒髪になっている以外、リトライの時とほぼ同じだった。
「いえいえ。その後、目の調子はいかがでしょうか?」
「おかげさまで、0・1にまで回復しました」
ほぼ盲目に近かった者が視力検査できるレベルに回復するなんて話は、そうそう聞かないだろう。
しかし、事実なのだ。
「そうですか、それは良かったですね」
「いえいえ。全ては、みらいさんのおかげです。感謝してもしきれません。それでこちらをご用意させて頂きましたのでお受け取り下さい」
札束だった。
一束100万とすると400万である。
「わかりました受け取らせて頂きます」
そう言ってみらいは、ちゅうちょなく受け取っていた。
そして、一人100万ずつとばかりに配る。
すると龍好が、栞に渡す。
「家の家計は栞任せだからな、お前に任せる」
「ほな、せっちゃんに貸してもえぇ?」
「あぁ、好きにしてくれ」
「じゃぁ、はいせっちゃん」
ぽんっと200万を刹風に手渡す栞。
それに続くようにみらいも100万を、その上に置く。
「説明の必要は、ないと思うけれど。貸すだけだからね」
「えと、いいのみんな?」
「良いも悪いもあるかよ。貸すだけだ貸すだけ。きっちり利子付けて返せよな」
「せやなぁ。楽しみにしとるよ~」
龍好も栞も、まるでそうするのが当然だとばかりに言っている。
ここで断ったりするのは、相手の好意に対して失礼になってしまう。
だから刹風は、笑みで受け取った。
「ありがとうみんな。時間はかかるけど絶対に返すから!」
「ってと、これでうちらの
「えぇと、それは、どういった意味でしょうか?」
時也は、栞の言っている意味が分からず困惑している。
「なに言うとるん? そんなんプロポーズに決まっとるやないか!」
「なっ!?」
時也は自分の心情を見透かされていたと知って激しく動揺していた。
鈴凛は、時也を黙って見つめ、その言葉を待っている。
時也は真剣狩る☆しおん♪のメンバーが帰った後でプロポーズするつもりだっただけに言葉につまる。
精一杯考えたプロポーズの言葉だって、
『自分と結婚して下さい』
それを死に物狂いで言おうとしていただけだった。
鈴凛は、例えどの様な言葉でも。
たどただしくてもいい かっこわるくてもいい。
かもうが、声が裏返ろうが、意味不明だろうが、拡大解釈してソレと受け取れたなら何でもいいと思って構えていたのに……
「かーっと! かっとや、かっとー!」
栞監督にリテイクを出されてしまった。
「ん~。なんかイメージ違うんよ~な……あー! あれや! 男優さんが口調変えとるからあかんのや~。っとゆー訳やから男優はん。リトライん時の口調と態度でお願いなぁ~。はい! すたーと~!」
無駄に上げられたハードル。
最低レベルの高さですらやっとの思いで超えらるぎりぎりの高さだったというのに――時也にとって最大の試練到来だった。
さっきから何もいってくれない時也に対して鈴凛は、助け舟を出す。
「カッコいい言葉も、気取った言い回しも不要です。あなたが思ったことを言ってくれればそれでいいのです。今後のための余興と思ってもらってもかまいません。ですから、気楽に言ってみてください……ね?」
それからも、鈴凛は、色々と言ってみるが時也は何も言ってくれない。
鈴凛の目から涙が零れ落ちる。
それは、悲しみを意味していた。
信じていたものに裏切られたつらさが溢れていた。
自分で自分に言い聞かせるように言ってみたはずなのに。
例え嘘でも彼に結婚してほしいと言ってほしかったと……
その思いが胸を刺し――鈍痛が強くなり、息苦しくなる。
その様子を見て時也は、さらに追い込まれる。
追い込まれて追い込まれ……
プチンと何かが切れた感覚がした。
そして、時也の中で何かがはちきれた!
「始めは、ただただ見とれていました。凛とする佇まいが、一挙一動すべてがカッコいいと思い、憧れを抱くようになりました。自分もかくありたいと思い、日々その背を追いかけて鍛錬を重ねました。師匠が視力を失ってどこか喜んでいる自分が嫌で医者に八つ当たりして咎められました。高木が岩曽流の跡継になると聞いて一瞬心が浮かれた自分が嫌で喚き散らしたあげく、自分を痛めつけました。自分は、そんな男です。師匠の目が見えなくなれば、岩曽流を継がなくてよくなるかもしれない。それが叶えば、師匠を自分の物に出来るかもしれない。口では、なんだかんだいっても結局は同じ。俺は、そんな卑しい男なんです」
時也は自嘲気味に笑う。
そして、その瞳に力が宿る。
「でも……それでも俺は、お前が欲しい! だから、おまえ、俺の女になれ!」
「はい」
静かな客間に、溢れた嬉しさが夕日を反射し、きらきらと輝いていた。
頬を伝い床に落ちていく。
二人の想いも重なり。
互いの唇が徐々にその距離を縮めて行き――重なる。
そして――
「はい! かっと~! いや~。おふたりさん、なかなかいいもんもっとるやん! まさか、こないに良い絵が撮れるとは思わんかったわ~」
栞監督のOKがでた。
録画モードになったエッグがきちんと高画質で録画し、しっかりとデジタル保存されていた。
抱き合った、時也と鈴凛は、はっと我に帰り、離れてみるも既に後の祭り。
☆パン☆パン☆パン☆パン☆
クラッカーが音を奏で。
火薬の匂いが香る中。
真剣狩る☆しおん♪は、主演男優と主演女優に惜しみない拍手を送るのだった。
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