7-16


 それは朝起きてすぐの事だった。

 ドアを叩く音がする。


「師匠! 師匠! 起きてますか! 師匠!」


 鈴凛の部屋に時也が押しかけていた。


「はい。起きていますよ」

「目は! 目は! どうですか!?」


 ほとんど何も感じなくなっていたはずの目は――

 明らかに光の明暗を区別できるまでには回復していた。

 あまりの嬉しさに、声が出てくれない。


「師匠!? どうですか!? 目は、見えるようになりそうですか!?」


 まだ、なんとも言えなかった。

 それでも、時也のあまりの剣幕に驚いた鈴凛の両親がやってきて鈴凛の目を見て驚いた。

 曇っていたはずの瞳がキラキラと輝いていたからだ。


「か、かぁさん医者だ! 医者!」

「そうね、お父さん! 車出して、車!」

「そ、そうだな!」


 とっくにさじを投げたはずの医者は、困った顔でこう言った。


「正直なところ、まだ、なんとも言えませんが。御嬢さんの目が少なからず見えるようになる可能性はあります」


 その、言葉に両親も時也も大喜びだった。

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