7-12
その一方で、龍好が見た景色は――
部屋の空気は明らかに澱み。
ピンク色と紫が混在していた。
色の付いた空気は濃い霧に等しい。
こんなもの見たこと無かった。
それでも似た様なもので何かないか?
過去の記憶をたどれば――みらいの使っていた香水だった。
魚の生臭さがイヤで臭い消し代わりに使っていた香水がこんな感じに色の付いた空気だった気がする。
そこに意味があるとすれば!
ここまで来るのに散々嗅がされたキツイ臭い。
途中にあった、清涼感ある空気と窓から見える青空は、それをリセットする役目。
一転して、甘い誘い。
バニラの香りが好きで、つい喜んで吸い込み過ぎていた。
人には嫌な思いを払拭させるために逆の事をそれ以上して帳消しにしようとする習性がある。
もし大量に、ここの香りを吸わせるのが目的だったとしたら――
それこそが、この塔の罠だとしたら――
みらいの香水に寄って来た蝶。
はからずとも匂いで誘惑し自分の元へ引き寄せていた事実。
正解は、プレイヤーを騙し惑わす事!
つまり夢、
そして、それこそがこの塔の真髄。
明かされていない運営がつけた別名。
【幻惑塔】
異常に低い本物のボスとの遭遇率はコレが原因だった。
「刹風! この部屋の空気を吸うな! 幻覚効果付きの可能性がある!」
「はぁ!? って分ったわよ! いっとくけど3分位が限界だからね!」
人並み外れた肺活量を持っている刹風ならではの発言だった。
全力疾走の後ですらこの余裕。
日々の鍛錬……というか新聞配達は、刹風にリアル以上の肺活量をプレゼントしてくれていた。
「まったく、とんでもない化け物よね~」
「せやなぁ、3分とか息止めれるお人は、そうそうおらんと思うよ~」
刹風は、部屋に入る直前で、白い賢者から貰った回復薬を一気に飲み込む。
レモン風味でとっても美味しかった。
不味い安物とは大違いである。
そして、大きく息を吸い込むと同時に終了までのアナウンスが流れる。
「このラビリンスは後5分で崩壊します」
そのまま、右手に表示した画面で龍好の場所を確認して走りこむ刹風。
さっきまでの会話の内容から、複数の部屋が存在しているからその確認作業だと思った。
そして、龍好の所に来て、パシンと頭を叩いて!
手をクロス。
×を指し示す!
岩壁の向こうを見つめても壁以外に何もなかったからだ。
「なにも、見えないんだな!」
刹風が頷くと、龍好が二人に指示を飛ばす!
「いいか、今の見えてるものは全て幻覚の可能性がある! 栞は、あの二人にエッグの会話機能をONにするように伝えてくれ! みらいはそのまま待機!」
「了解や~!」
「了解!」
「刹風、天井を見てくれ!」
左右にステップして、石柱の間から垣間見た天井は、どこも、ただの岩盤だった。
またしても、手をクロス。
「みらい、天井もフェイク!」
「了解!」
「床の中心付近に匂いの根源と思われる濃い場所がある! そこに向けて魔法攻撃が出来たら頼む! 目くら撃ちでいいから思いっきり撃ってくれ!」
「了解!」
みらいの手がキーボードを叩くと。
おぼえたての無詠唱魔法が炸裂弾みたいに床を赤々と照らし始める。
連発花火みたいに、
☆ドン☆ドン☆ドン☆
と炸裂音が部屋に木霊して部屋と偽ボスを赤く照らす。
刹風は、部屋を見渡し――龍好の予測を肯定する!
「みらいの攻撃してる場所で正解! 同じ座標位置に隠し階段か何かあるみたい!」
「ですが! そこにはボスモドキがいますよ!」
白い賢者の指摘が飛び込んできた!
「それは、幻覚だ! もっとも痛い幻覚なんだろうが! とにかく時間がねー! 俺達が時間を稼ぐから突っ込め!」
「ですが! そ――」
鈴稟のセリフを龍好がぶった斬る!
「うっせー! ぐだぐだ言ってんなら俺達だけでいくぞ!」
「分りました! 行きますよ時也!」
「んああ! なんか、わからんがソコに本当のボスが居るんだな!?」
「んなもん、てめーらの目で確かめてこい!」
「了解しました! 援護願います!」
「任せろ! ピー助! バーさんい向かってドラゴンヘッドアタック!」
「むっぴー!」
ピー助がおばばに向かって全力疾走!
大きな氷の玉にぶつかって凍り漬けの完了だった。
間髪入れずに、高速詠唱した炎が追撃してくる。
「ラインシールド!」
魔法強化糸とシャインロッドだからこそ出来る技。
高速回転させた糸を盾のように使うことで、相手の魔法を吸収することができるのだ。
もっとも幻覚だかなんだか分らないままだが……
敵の魔法攻撃は、基本的に二回がセット。
次は一定間隔をおいてからの発動だった。
時間にして数秒だが――
賢者らよりも疾くそこに着いていた刹風が道を開く!
みんなが敵と判断している存在が全く見えない以上――怯えも戸惑いもないのだから。
バーさんを素通りして!
床と岩柱を蹴り飛ばして高く跳躍!
得意の三角飛びから!
「斬岩剣一の太刀! 燕落とし!」
逆手に持った短剣で床にしか見えない岩盤を砕く!
それは刹風が思った以上にあっさりと砕けた。
みらいの魔法攻撃で、すでに脆くなっていたからである。
「って! えええ~~~!!」
身体ごと床に吸い込まれていった。
そこに、赤の賢者と白の賢者が追従。
階段ではなく、ただの縦穴だった。
暗くて先は見えない――
深さも分らない、今後の展開も予測不能。
でも、行くしかない!
やるしかない!
「げ! 敵が消えた!?」
「私も見えなくなったわ」
「うちもやぁ~」
「むぴゃ!?」
ぼく氷漬けになってたよね?
と、ピー助も不思議そうだ。
甘ったるい香りも消えて、先程まで見えていたはずの隠し部屋は全て岩壁だったり岩の天井になっていた。
「とにかく、ここは騙し部屋だ! 次ぎ行くぞ!」
「了解や~!」
「了解!」
「むっぴー!」
次々に先の見えない黒い空間に飛び込んでいく!
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