7-13

 深く見えたのは、入り口だけ。

 足の痛みを覚悟して飛び込んだはずの高さは30センチくらいで着地していた。

 まるで、暗闇の中。

 もう一段階段があると思って足を踏み出したら既にソコは床だった時みたいな感じだ。

 落ちてきた感覚といちじるしく違う――天井は思った以上に高い!

 ゆうに、20メートルほどはある!

 しかし、部屋はそれほど広くない!

 せいぜいバスケットのコート一つ分。

 こちらを自陣とするなら、敵陣のゴール付近に赤紫色の炎が四つ燃えていて。

 ゾーンディフェンスでもしてるみたいだ。

 そして、その中心に臭いの元が凝縮していく様が見える。 


「おい! なんにもねーじゃねーか!」


 龍好達が降り立つと開口一番、赤の賢者がつっかかってきた!


「いや! 敵は居る! いいからだまってろ!」


 その気迫に時也と鈴凛は息を飲んだ、白い賢者は何とか耐えたが、赤い方は足がすくんで動けなくなってしまった。

 匂いが無くなり――

 一箇所に収束しているのだから!

 アレが、ここのボスと判断して間違いない!


「みらい! 俺の攻撃したところに絨毯爆撃!」

「了解よっ!」


 紫とピンクが混ざった中心に紅一点。

 アレが弱点の可能性は大きかった!

 龍好は、ショートロッドのまま、


「ニードルスピアに換装!」


 軽く竿を振り上げると同時に少しラインを伸ばす。

 ニードルスピアがキュンキュンと高速で旋回し始めて攻撃力を増大していく。


「パラライズ・ニードル!」


 ギュン!

 っと、空を切り裂いてニードルスピアが赤い点を打ち抜くと!


 ☆バギャン☆


 金属とガラスが砕ける音が木霊して敵本体が姿を現す!

 先程見たばーさんの小型版。

 せいぜい2メートルほどしかない体躯は弱々しい。

 騙し討ちしてくるようなボスは、貧弱という定番設定だった。 

 そこに、みらいの火炎弾が降り注ぐ!


「敵のレベル及び状態確認! クイーンクラス! レベル58! メイジ系! 最大ヒットポイント8500万! ヒットポイント減少確認! アレが本体で間違いないわ!」

「俺が敵の動きを止める! 刹風!」

「口開いてる時間あったら敵を止めてなさい!」


 既に刹風は羽根を生やして敵の脳天目掛けて走り始めていた!


「虚空脚!」


 一足飛びに階段を駆け上がるように天井目掛けて駆け上がる!


「なっ!?」


 白の賢者が驚くのも無理は無い。

 ただ使って見せるのではなく!

 既に自分の技として身に付けていなければ出来ない動きだったからだ!

 しかも自分よりも高度なバランス感覚がなければなしえない程に魔法球が小さい!


「あんたらも、つっ立てないで攻撃し! 時間ないんよ!」

「そっ! そうですよねっ!」

「お、おうっ! うをーりゃー!」


 赤い賢者はそのままの位置から思いっきり剣を振り回し大きな炎の玉をぶつけまくる!

 白い賢者は刹風と同じ軌跡をなぞる様に「虚空脚!」走り出す!

 そこに、何か意味があるなら真似て結果を得るまでだからだ!


「百火一輪!」


 みらいのオリジナル魔法が敵の額を貫く!

 見事に額にある的の中心を射抜いていた。


「パラライズ・ニードル」


 ソコに攻撃力を増大させた龍好のニードルスピアが突き刺さる!

 止めれる時間は、3秒!

 でも、それでじゅうぶんなヤツラが降って来る!

 天井を足場にして思いっきり蹴っ飛ばして真っ逆さまに急降下!


「斬岩剣一の太刀! 燕落とし!」


 逆手に持った短剣がボスモンスターの頭頂部に突き刺さる。

 刹風が技を決めて着地を決めると!

 間髪入れずに! 


「岩曽流剣術奥儀! 霞落とし!」


 同じ軌跡で天井を蹴っ飛ばした白い賢者は、空中でくるりと反転。

 剣に灯した光を増大。

 本来斬っても斬れない霧ですら、ぶった斬る豪の剣!

 それが刹風の真似して重力加速を上乗せし!

 脳天の中心から股にかけて敵をぶった斬る!

 二人合わせて800万ポイント越え。

 ごっそりとボスのヒットポイントを削るが――それでも時間的に厳しい!

 って、ゆーか無理だと、みらいは判断!


「龍好! いくら相手が木偶の坊でも、今のままじゃタイムオーバーよ!」


 動きが遅いどころか魔法を詠唱する気配すらない。

 仕掛けを見破った者に対するご褒美的な存在の可能性が大きい。

 つまり、8500万という数値を相手に与えればそれで終わりなのだろう。

 時間内に確実に倒す方法は、ある。

 栞の必殺技だ!


 しかし――


 前提条件が厳し過ぎる。

 一億分の一に賭けるのは無謀。

 手を模索する中。


『つかみは、ばっちりやね~』


 栞の言葉と、女神の像に巻きついた炎竜が龍好の脳裏に浮かんだ!


「刹風と鈴凛は退避! 頼む! 炎竜! ヤツに絡み付いて拘束してくれ!」

「ってめー! なにかっ」


 ばきっと、ぐーパンチが赤い賢者の頬にめり込み――殴り飛ばしていた!


「いい加減にしなさい! 時間がないんだから! とっとと炎竜さんに願いなさい!」


 白い賢者が、睨み下している。 

 しかし、既に男には口をひくひく動かすだけの存在になり下がっていて、口を利くのは無理だった。


「いや、鈴凛殿よ。我ら兄弟は、こやつより。お主に惚れておる! ゆえに鈴凛殿が願えば直に従おう」


 主の命令完全無視で炎竜がこたえていた。


「では、彼の言う通り。敵を拘束して下さい!」

「うむ。了解仕った! いくぞ弟!」

「任せろ鈴凛殿! 我らが本気見せてくれようぞ!」


 炎竜が、左右からぐるりと巻きつ付くと――ボスは、すっかり炎に包み込まれてしまい。 

 絵図ら的には、打倒おばばではなく――炎竜VS栞みたいになっていた。


「栞! 頼む!」

「あいなぁ! 任せとき! ほな、しっかりと耳押さえとってなぁ!」


 一瞬で――空気が変わる。 

 時間は、無いはずなのに――


「後、1分でこのラビリンスは崩壊します」


 それでも、安心感すら感じる。

 凛と落ち着いた佇まい。

 白い狐の手には、不釣合なほどに大きく。

 白い装飾された金槌が、傘になぞって肩でくるくる回るは三回転。

 激しい琴と三味線のBGMに斜めから当たるスポットライト。 

 光に照らされた栞の背景には――ひらひらと、小さくも可愛らしい白い花弁が舞い散っている――

 声は♭。

 任侠者の女将さんみたいに切れのある言い回し。 


「己が信念紅蓮に変えて、願う想いは誰のため。募る想いは白き鈴蘭。花が咲かぬと嘆くなら。咲かせて見せるが乙女の粋よ! 一撃撲殺!」


 無垢なる破壊神の最大攻撃力が開放され!

 さらに力ある言葉と共に1万倍化される! 


「アルティメット・フォルテッシモー!」


 音速を超えた白い閃光!

 正に一撃撲殺!

 そのポイントは現在この世界に存在する最大数値10億ポイントを超えている!

 途轍もない轟音が部屋に木霊して!

 部屋どころかラビリンスごと揺るがし始める!

 何が起こるか分っていなかった賢者の二人は――そのまま目を白黒させていた。

 もっとも、赤い方は少し前からだが……

 有り余った破壊力が部屋そのモノを吹き飛ばし始めても!

 ボスの居たであろう足元。

 栞の所だけは僅かに平穏を保っていた。

 技を成功させた者に対する、恩恵である。

 そこに固定式のオレンジ色した箱が出現。

 それを発見した栞が、抱きしめる様に飛びつく!

 崩壊の渦に巻き込まれる前に――箱を開けて中身をつかむ!


 ――そこで、タイムオーバーだった。


 ある意味、破壊神の脅威を体感する前に終わって助かったと言った方がいいのかもしれない。

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