7-11
龍好達が走り込んだ部屋は、すっげー広かった。
完全に外観無視の構造だと思った。
学校の広い体育館と同じ位あり、その気になればサッカーすら出来そうだ。
全体的に赤紫がかった薄暗い部屋は、わずかながら心拍を早めていく。
床は木ではなく紫色の岩盤に変わり。
所々ごつごつしていて、鍾乳洞みたいに石柱があり視界をふさいでいる。
塔の最上階なのに――地下世界みたいだった。
臭い匂いは、甘ったるい香りに変わっている。
吸い込めば吸い込むほど……つい、嗅ぎたくなってしまうバニラの香り。
つらい時間を耐えたご褒美とばかりに――その者が最も好む香りをプレゼントしてくれていた。
「刹風、そっちの状況はどうだ!?」
この最後の部屋と赤い賢者が上ってきた塔。
果たしてどちらが正解までの道なのか判断出来ずに二分化した隊。
2分と経たずに弱音を吐いたのは龍好の方だった。
「ったく! 問題ないっての! ばか!」
それ以上、何も言うつもりはないと刹風は何も言わずに下り続ける。
ある意味、時間指定はありがたかった。
もし無制限で使い続けたら確実にマジックポイントが枯渇していたからだ。
回復薬はあれど、出来れば使いたくない。
せっかくもらった課金アイテムだったからだ。
「龍好! 天井に違和感発見! なにかあるわ!」
「こっちも! 壁が崩れたよ~!」
「はぁ~! 俺も壁に穴あいたぞ! 小さいが、部屋も見える!」
「うちも、ちっちゃいけんど、隠し部屋みたいなん見えるよ!~」
「すまん! 刹風! 問題なければ緊急回帰!」
「ばか! もう引き返してるっての! っと! 確認できたのは20で何も無し!」
「いや、どうもこっちが正解だったみたいだ! どこが正解か全く見当がつかん! お前の目が必要だ!」
「あんたの探査じゃ無理なわけ!?」
「いや、あれは本気だすとヤツラに迷惑かけるかもしれん!」
「たっくん! 今、赤い方痺れて動けんみたいやから問題ないよ~!」
「分った! 全開でいくっ!」
その瞬間赤い賢者の身体が震えた。
冷や汗が背筋を伝う感覚。
まるで、心の隅々まで見透かされるような違和感は、恐怖にすら匹敵した。
白い賢者も本気の父親と対峙した時を彷彿させる感覚を強く感じ取っていた。
正確には、父親以上だろう。
相手を目前にせずともこの感じ……
先程白い服着た回復魔法使いもどきが壁を叩きながら横に移動していたのは見えた。
ボスからは離れているため全く攻撃はされていなかったが。
彼らには自分達にない考えがあるのだと感じた。
それと、この感覚との関わりがあるのか?
それとも他に何か居てそいつが現れたのだろうか?
ただ、その感覚に身を委ねて垣間見た情景は――濃い霧を透かし、その向こうに居るボスさえも透かしていた。
そして、それは赤い賢者も同じ。
「これは……もしかして、騙し手だったのですか!?」
「……た、ぶ、ん」
相方が言わんとする事は自分と同じだった。
きっと彼らが何かボスへと続く何かをしているのだ。
アレが本体でない以上。
どこかに居るはず!
時間は、ほとんどない!
でも!
今日まで、紆余曲折ありながらも、例え間違いながらでも信念を貫いてきた弟子の気持ちを――共に叶えたい!
「いきますよ!」
「……お……」
痺れて口すら回らない男にゆっくりと回復薬を飲ませ始める。
一飲み毎に男の口が動くようになりごくごくと飲み干して行く。
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