7-10

「っくしょー! なんで、攻撃がきかねーんだよ!」

「どうやら、またしても無敵状態のボスだったみたいですわね!」


 赤い賢者も白い賢者も全力で技を駆使するも全くダメージが与えられていなかった。

 敵は、紫色のだるまが服を着てるみたいに太った、しわしわのバーさん。

 両手に持った、巨大な水晶玉は、時間と共に色を代え――無慈悲な魔法攻撃をぶっ放してくる。

 それは、氷の固まりだったり、炎だったり、稲妻だったりとランダムで、手当たり次第だった。

 狙いが荒いというのは、かわしづらさになる時もある。

 全く攻撃の軌跡が読めないからだ。

 しかも広範囲攻撃が主なため――赤い賢者は、使役した二体の炎竜を盾代わりにして防ぐしかなく。

 白い賢者は、得意の空中に逃げ延びる。

 そこにも、意味不明な意国語もどき。

 やたらと早い詠唱の文句が聞こえてくる。

 敵の攻撃は、霧だった。

 視界が遮られるだけでなく、触れれば身体が痺れる。

 何度も戦っているので、対処法も熟知しているが――知っているだけに厄介だった。

 これは、一旦使われると、ボスの周りを結界として包み込む。

 その時間も5分と長め! 

 遠距離で有効な攻撃は、赤い賢者にしかないからだ。

 その間、白い賢者は見ているしかない。


「ぬお~~!!」


 距離を取った赤い賢者が太目の長剣を振り回す!

 その一振り毎に大きな火炎が玉となって敵が居ると思われる場所に打ち込まれていく。

 振るスピードがそのまま攻撃力に上乗せされる魔法剣撃の一つ。

 炎月鈴えんげつりん

 空を切る音が唸りをあげれば相応の炎が生まれる。

 赤い賢者の得意技だった。

 さらに、防御を捨てて炎竜に命じる!


「いけ! お前達!」

「では、参るぞ! 弟よ!」

「了解した! 兄じゃよ!」


 どっちが兄でどっちが弟かと問われたら、兄のほうが、ちょっぴり髭が長いというくらいしか判別がつかない双子の炎竜は声も同じ。

 知らない人が見たら、まずその違いに気付かないだろう。

 その一対の竜は高レベルの火炎すら凌駕する攻撃力を持ち。

 一度噛み付けば敵を溶かして飲み込む。

 いくら相手が大きくとも、食い千切られれば、その戦闘力は激減していく――

 さらに、先程の様に盾としても優秀だった。

 魔法攻撃に特化した防御性能をもっているため。

 並みの魔法攻撃では、先ずその身体を貫く前に吸収される。

 そこを、狙いすましたかの様な一撃が降り注いだ!

 相手が、防御を捨てたと感じたわけではない。


 偶然の産物。


 たまたま稲妻を撃ちたい気になった、だるまもどきばーさんが、両手の水晶で両方とも稲妻を迸らせたのだ!

 白い賢者は、なんとか距離をとってかわしたが……赤い賢者は、その一撃を食らってしまった。

 高性能な防御性能を有している防具のためダメージは、それほどでもないが……この稲妻も厄介だった。

 先程の霧同様に時間稼ぎの魔法攻撃なのだ。

 身体が痺れるだけでなく口が上手く動かなくなるためしばらくは指示も出せない。

 つまり、炎竜を呼び戻して、防御を願えないのだ。

 前回までだったら、とっくに呼び戻しているが、もう時間が無い。 

 その、焦燥感から、なんとか体術だけでかわそうと無理した結果だった。

 間髪入れずに今度は大きな氷の玉が飛んでくる。

 あれを食らったら完全にこちらの負けが確定すると感じた白い賢者が赤い賢者を担いで跳躍。

 何とかかわしたが、更に稲妻の追撃!

 もう、後方に引いて相方が回復するのを待つしかなかった。

 痺れを癒す薬はあれど……それを飲む口が上手く動かないのでは意味が無い。

 例え数分ではあるが待つしかなかった。

 一定以上の距離を取れば相手が攻撃してこなくなるのもいつも通り。

 そこに、ガンガン、ドンドンという壁と天井を叩く音が聞こえてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る