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 双子塔に入る条件。


 パーティーメンバーが6人であることが前提条件であり。

 それは、ボスの居る部屋の扉を開けるまで誰一人として欠けてはならない事となっていた。

 なんらかの理由で、一人が離脱、もしくは敵に倒された瞬間にボスへの道は閉ざされる。 

 最上階にいるボスに辿り着くための条件は、左右の塔にあるレバーを同時に操作すること。

 これは、エッグの対話機能を使えば簡単に出来るが――

 そこに辿り着くまでの道が厳しかった。 

 通常なら問題は無いのだが、彼らが失敗に失敗を重ねたためクリア条件がかなり厳しくなっていたのだ。

 最上階にいるボスを時間内に倒せなかった場合に発生するペナルティ。

 レバーのある最上階に辿り着くまでの部屋数が一部屋ずつ増えていくのだ。

 結果的に、難易度は上がり続け、二人だけでクリアするには、ぎりぎりの時間になってしまっていた。

 それなりの実力者を雇って手伝ってもらえば、まだまだ行けるが。


 赤の賢者がダメだった。


 口の悪さが災いして、報酬を上乗せしても手伝ってくれる者が居なくなってしまっていたのだ。

 実力者ともなれば、相応に口を挟んでくる。 

 年配者の気配りや、助言に全く耳を貸さず、塔に入る条件のためだけに扱われて面白いヤツなんてそうそういない。

 下手にモンスターを叩けば非難が飛んでくる。

 うっかり死なれたら困るからだ。 

 だからといって、腰巾着みたいに付いて行くだけじゃ、経験値は殆ど入って来ない。

 アルバイト的なものと割り切れば効率は良いが。

 はっきり言って、頭ごなしに色々言われたあげく。

 明日も頼むと言われたって、『はいこちらこそ』、なんて言いたくもなくなるってもんだった。

 それでも、白い賢者の美貌が男を引きつけてきたが、それを良く思わない赤い賢者。

 結局、そういった連中は、切り捨てられ、ホントにもう頼める者がいなかったのだ。


 やがて塔の入り口にたどり着く。


 塔は、焦げ茶色のレンガ作り。

 渡り廊下は、ない。

 一対の塔。

 一見すると高さ30メートルくらいだった。

 塔と塔の間隔は10メートルほど離れている。


「じゃ、いつも通りで」


 と言って男は右の塔に入っていってしまう。

 いつものことだった。

 男が右、女が左。

 見た目の高さ以上に、実際の道のりはかなり長い。


「では、我々もいきましょうか」


 凛とした、大人の女性らしい優しくも強い声だった。

 ついて来たのが男だったら。

 それらは、赤の賢者について行かされ。

 女だったら、今回の様に白の賢者のオマケとして付いて行かせる。

 いつもの事。

 特に貧弱な女にしか見えない龍好は、赤の賢者の中で完全に女扱い。

 しかも釣り師なんていうふざけた職業。

 完全に戦力外扱いだった。

 赤の賢者は炎を纏った剣技を乱発して次々にモンスターを燃やし尽くしながら上っていく。

 白の賢者は聖なる光を剣に纏わせて次々にモンスターを霧散させていくのが通例だった。

 右の塔は、昆虫系統のモンスター。

 左の塔は、回復魔法使いが使う聖なる光属性を苦手とするアンデット形モンスターがひしめいている。

 白の賢者、鈴凛すずりが古めかしい大きな木の扉を引き開けると!


 むわ~~~ん。


 瞬間的に逃げ出したくなる悪臭が鼻をついた!

 確実に何かが腐っていた傷んでいた。

 腐ったイカの臭いとか、腐乱した動物の死骸とか、ワンシーズン履き続けたブーツ臭いとかが混ざり合って――なんかもう泣き出したくなった。

 床も黄土色した粘着質の液体がべちゃべちゃしてるし。

 薄暗い部屋の空気はよどみ……龍好でなくとも群青色に見えた。


 そんな中――

 

 我先にとばかりに白き賢者が細身の剣に光を灯し、「虚空脚!」己の力を見せ付ける様に臭いの元と思われる、べちゃべちゃで、ぐちょぐちょしたモンスターを消し飛ばし始めていた――

 その後を、真剣狩る☆しおん♪一行は、全員で重々しい溜め息をはいてから、付いていったのだった。


 そして――


 ただ、呼吸するだけで精神的ダメージを蓄積していく部屋の数が15を超えたところで龍好が問い掛けた。


「なあ、みらいどんな感じだ?」

「ん~。やっぱり、よく分らないわね。可能性の話だけでいいなら。本当にボスが不在な時があるんじゃないかしら。それで、それがたまたま繰り返されてしまった。それが一番安易な推測だわ」


 みらいは、龍好に言われる前からこの双子塔を調べているのだが。

 やはり、公式の情報だけでは不足だった。

 って、ゆーかもう帰りたかった。 


「刹風の方はどうだ?」

「ん~、ごめんやっぱり隠し扉とかは見付からないかな……」


 刹風は、隠し扉や、隠し通路等が隠されていないか目を凝らして見ているが……ソレらしいものはさっぱりだった。

 って、ゆーより、ごめんなさいしてログアウトしたかった。


「栞の耳はどうだ?」

「あんなぁ~。隣の塔でなにかがパチパチする音も聞こえるんやけど……壁の向こうで何かが隠れとるような音は聞こえんよ~」


 栞は、狐耳モードに切り替えて虫の足音レベルでも聞こえる様にしているが。

 それらしい音は全く拾えなかった。

 でも!

 そんな事よりも!

 今後の展開が楽しみでわくわくしていた。

 ネタ振りは、じゅうぶんな気がする。

 きっと龍好が居れば面白い展開がやってくる!

 だからこの異臭もプロローグだと思って楽しめた。


「っかしーなぁ。ぜってーなんかあるはずなんだよなぁ」


 龍好は、腕を組んで頭を捻る。

 臭いは辛いが。

 我慢出来ないレベルではなかった。

 基本的にただ、先頭をいく女性に付いて行くだけなのでゆっくりと考える時間はある。


 ボスの居ない、ダンジョンという存在が納得出来なかったのだ。


 確かに、迷宮イコール大将が存在していなければならないという決まりは無い。

 特定のモンスターからレアアイテムが低確率でドロップするとか、複数ある宝箱の中に大当たりが混じっているとかなら、じゅうぶんその価値はある。

 しかし、この双子塔にはボスを倒さなければ宝箱は出現しない設定になっている。

 それでありながら、ボスに会える確立が異常に低すぎるのだ。

 確かに、手に入るアイテムのレア度は高めだった。

 だからといって、倒せないボス、というのもふに落ちなかった。

 殴っても、魔法攻撃を駆使しても全くダメージが与えられないボスと遭遇する確立が10%で全く何も居ない確立が89%。


 倒せるボスに辿り着ける確率が残り……1%なのである。

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