7-6


 ソコには、何も無かった!?


 代りに――!


「ふにゃぎぁ~~~!!」


 完全に不意を突かれた白の賢者が脳天に短剣を突き刺して転げ回っている……

 これは、びっくり風船に引っ掛かった者が強制的にやらされる仕様。

 宴会を盛り上げるグッツならではの効果だった。

 音に反応してそちらを向いてしまったパーテーメンバーの脳天にランダムで風船に貼り付けたモノが突き刺さるのだ。

 痛みはほとんど無いが、笑いを得るために深々と突き刺さった絵図らと、笑える呻き声を披露しながら転げ回されるのだ。

 ひらひらした白いプリーツスカートの中身は大人の女性らしからぬ純白の短パンだった……

 それを見て、ごくりと固唾を飲む龍好の足にみらいの渾身の一撃。

 どしんっと踏みつける!


「ってー! なにしやがる!」

「ばか!」

(ふんっ! なによ! ちょっと綺麗だからって鼻の下のばして喜んじゃってっさ!)


 みらいは、めいっぱいむくれていた。

 確かに短パンではあるが細く綺麗な足は刹風以上に魅力的。

 年上好み。

 龍好のストライクゾーン直撃だと思った。


「あやや~。たっくんパンツやなくて残念やったね~」

「ったく! 女の下着なんて飽きるほど見てるでしょうに!」

「いやいや、それって俺が変体みたいじゃん!」

「ふん! なによ、エロ好のくせに!」


 刹風は蔑んだ目で龍好を見下していた。

 胸も自分と同等かそれ以上に大きい。

 髪型と色以外は明らかに龍好のドストライクだとお思ったからだ。  


「って! おい! なにしやがる! てめー!」


 あまりの出来事に放心していた赤の賢者が刹風につめ寄って来る!


「あ、あれはパーティーグッツなので。痛みとかは、ほとんどないですから」


 刹風は、苦笑いを浮べて頬をかく……個人的にはコイツにぶち当たれば良かったのにとか思っていたのだ。


「って、ゆーより! 奇襲仕掛けてきたんはそっちやろ!」


 栞の本気の睨みが赤の賢者を射抜く――


「こっちが、キレるんは分るけんど! そっちが文句言うんはスジ違いやないん!?」

「ぐ……」


 ちいせえくせに、とんでもねー目付きだった。

 気合だけなら、有段者並み。

 どっしりと腰を落ち着けた佇まいは確固たる自信と強さ。

 自分達と形は違っても超重量級戦士。

 レベル以上に強い何かを秘めていると感じた。


「ああ。悪かった。謝る、相方の悪い癖でな。剣を交えるのが叶って浮かれてるのさ。大目に見てやってもらえるとありがたい……」


 ここで、ごねられてパーティー解散だけは避けなければならなかったため、赤の賢者は大人しく詫びを述べた。

 そして3分ほど転げまわる醜態を晒した白い賢者が刹風の元に――

 カツンカツンと音を鳴らして、ふらふらと歩み寄る。

 これも、びっくり風船の効果によるもの。

 立ち上がってもしばらくは足に力が入らず、こければさらに笑いがもらえるという、三段仕込のお買い得品なのだ。

 それでも、倒れまいと足をがくがくさせながら踏ん張って立っている様は、かえって笑える。

 なまじ美人であるためにその破壊力は、すざまじかった。


「っっぷ! なんだよ! お前それは! あははは!」


 鞘に収めたサーベルを杖代わりにしてぷるぷるしてる姿はコントに出てくる老婆みたいである。

 相方の笑ったところなんて見たのはどれくらいぶりだろうか?

 もう1年以上見た記憶がない。

 嬉しくもあるが、それ以上に恥ずかしくもあった。


「わ、わらわにゃいれくにゃない、って、ひゃんれ!?」


 すこぶる酔っ払った人みたいにろれつが回らない綺麗な女性。

 顔がしらふなだけに皆で大爆笑だった。


 そして――


 一同は、依頼された目的地。

 双子塔と呼ばれるラビリンスに向かって街道を進んでいた。


「まさか、パーティグッツを戦闘に絡めるなんて思いもよりませんでした。それと、これ回復薬ですのでお使い下さいませ……」

「え~~! いいんですか!?」


 白の賢者が差し出してきた回復薬は、課金アイテムの方だった。

 しかも二つ。

 飲める量には限りがあれど、とっても美味しい。

 素敵アイテムなのだ。


「ええ、いきなり奇襲を仕掛けたお詫びと。いいものを見せて頂いたので、ご褒美と思って受け取って下さると嬉しいのですが、その、お嫌でしょうか?」

「あ、いえ、その課金アイテムですし、でも! はい! 頂きます!」


 刹風は美人から漂う哀愁に降伏して手を差し出すと――途端に、笑みが華やぐ。


「はい! どうぞ!」

「その、えと、ご馳走様です」

「いえいえ。こちらこそ、良いものを見せて頂きましたから♪」

「あ、いやあれは、思いつきで。その、つい……」


 刹風は、苦笑いを浮べながら頬を搔いて、栞に視線を送る。 


「それと……栞……その後で買って返すから……」


 理由は、どうであれ勝手に所有者の許可なく使ってしまったからだ。

 こればっかりは気分が悪い。


「いやぁ~! そんなもんもうええんよ~! ええもん見せてもらったんやからなぁ~。うちこそ、ごちそうさんやよ~♪」


 一方栞は、刹風の背中をぱしぱしはたいて大満足の笑みを浮かべていた。 

 煙玉の一件がもとで――かすめ盗られた時は、もう日の目を見ることは無いと思っていただけに。

 感無量だった。

 むしろ今後に備えて各自にネタアイテムを持たせる企画を思案中だった。

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