刹風と瑞穂
朝食の席にて――
比較的日常化している
本日手にしているのはアンパンだった。
それを見て、少なからず同じ寮にすむ少女達がざわめき始める。
瑞穂が食事中の刹風に向かってアンパンを思いっきりぶん投げる。
刹風と、瑞穂の距離は2メートルほどしかない。
それでも、それは涼しい顔した刹風の顔に当たることなくキャッチされてしまう。
「いつも悪いわね。ごちそうさま」
「ふんっ! また
刹風は、当たり前のようにアンパンを食べながら言う。
「ごっくん。いつも言ってるでしょ。私には、結婚とかまだ早いって」
「ホント、良いご身分よね! いつでも西守になれるチャンスがあるんですもの!」
基本的に刹風は、食堂の隅で食事するのが普通だが。
明らかに悪目立ちしていた。
西守になりさせすれば安楽な暮らしが待っていると言うのが通説だからだ。
だからこそ、刹風につっかかてくる瑞穂のように、顔や親を変えてでも西守に取り入ろうとするものは少なくなかった。
それなのに、今日も涼しい顔して食事を堪能している刹風。
その向かいに座って睨みをきかせる瑞穂は、お人形さんみたいに可愛らしく。
その他、大勢の代弁者みたいな役割も兼ねていた。
そうなれば、当然――聞き耳立てる者も多い。
「確かに、俊則君は、良い人だと思うわよ。でも、そこまで。それ以上でも以下でもないっていつも言ってるじゃない」
「だったら、私を紹介するとかしなさいよ!」
「したわよ、今日」
瑞穂だけでなく、周りも目を点にして呆けていた。
明らかに、刹風がバカな事をしたとしか受け取られなかったからだ。
「それ……ホントなの?」
「あんたに嘘ついてどうするのよ。毎日のように、こうしてパンおごってくれる人に対するささやかなお礼みたいなものよ」
「でっ! なんだって!?」
「考えてみるって」
「ほ、ホントに!?」
「だから、あんたに嘘ついて私になんかメリットとかあるわけ?」
瑞穂は、嬉しさのあまり。
急に、もじもじし始めた。
ツンツンしている瑞穂しか知らない刹風にとっては不気味な光景だった。
そして、周りから聞こえてくるやっかみ。
こんな事なら、自分達も刹風と接しておくべきだったとぼやいている。
「こ、これは、ありがとうと言うべきなのかしら?」
「だから言ったでしょ。いつもパンおごってくれてるお礼みたいなもんだって」
瑞穂からするとパンをおごってあげていると言う感覚は一切なかった。
むしろ、嫌がらせをしていたに過ぎない。
最初なんて、ケンカを売るつもりでパンを投げていたのだから。
それが、むだだと分かっても――
少しでも、無駄なカロリー与えて太らせてやろう。
そんな考えくらいしかなかった。
しかし、大きくなるのは身長と胸ばかり。
結果的に、刹風の魅力をアップさせているだけになってしまっていた。
「で、でも、もしこれで、上手く行っちゃたら……私……貴女になんて言ってお礼を言えばいいのかしら?」
「いいも悪いも、あんたがつかみ取ったものなんだから勝ち誇ってればいいんじゃないの?」
と、言うか。
偉そうに踏ん反りかえっている瑞穂しか刹風には浮かばなかった。
「そ、そうなのかな……」
頬を赤く染めて、上目づかいでものを言われるのは、どうも居心地が悪い。
何とかして、普段通りの瑞穂に戻ってもらいたかったのだが……
この日を境に、パンを投げるのではなく手渡すようになった瑞穂の顔には、敵対心みたいな物が消えていて。
むしろ、少なからず頬を染めているため――
一見すると、仲良しさんに見えるようになったのである。
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