幕間
音姫とみらい秘密の約束
みらいは、今日もオリジナル魔法の開発に取り組んでいた。
先日、奇術師に見せつけられた理論を元に高速でキーボードをカタカタ鳴らしている。
刹風は、アルバイト。
栞と、龍好は、ピー助を連れ――
ストーンゴーレムを倒してレベルを上げるんだと言っていきまいていた。
きっとあのコンビなら、問題なくレベルを上げて戻ってくるであろう。
そして――
開発が、最終段階に入り。
後は、試し打ちを待つばかりだった。
図書館を出たみらいは、龍好達に合流するか否か思案しながら街中を歩いていると――
軽快な音楽と笑い声が、耳にとまった。
今日は、急ぎの用もない。
たまには、大道芸をゆったり眺めるのも悪くないかな?
そう思って、音姫と銀水晶を眺めていた。
初めて見た時と同じで、音姫は度々間違えるし。
銀水晶も、華麗なステップを踏んでいるかと思えばコケル……
それで、周りの人が笑みを浮かべて笑っていられるのだから安いものだろう。
そんな感じで、最後まで見終わると。
彼女達には、拍手喝采がおくられていた。
みらいも、つられて拍手をおくる。
全てが終わると、ウエディングドレスをまとった音姫と銀水晶が近づいて来た。
「やっほ~。みらりん♪」
「こんばんわ~。みらりん」
みらいは、立ち上がって挨拶を返す。
「こんばんは。先日連絡を入れた通り、龍好は私達。真剣狩る☆しおん♪で元気にやっています」
「うんうん。良かったよね! たっくん来てくれて!」
「私達の所じゃなかったのは、少し複雑だけどね……」
「いーじゃん、別に。遊ぼうと思えば、いつでも一緒に遊べるんだし♪」
「それは、そうなんだけどさ。ナイトじゃなくて釣り師ってのは、さすがに意外だったかなぁ」
「なんで! 私は、面白そうでいいかなって思うけど?」
「そりゃ、私だって面白そうだとは思うわよ……でも」
銀水晶は少し言いよどみながらも――ものをいった。
「戦闘で役に立つのかなって?」
「それは、一度一緒に遊んでみれば分かると思いますよ。ちょうど今日はストーンゴーレム周回してるところですし」
「それって、私が混ざってもいいのかな?」
「いいと思いますよ」
「じゃぁ、私、ちょっと行ってくるね!」
言うが早いか、銀水晶は街の外に向けて走り出していた。
「みらりんは、一緒に行かなくてよかったの?」
「えぇ、私は私でやりたいことがあるので……時間があったら護衛のお願いしてもいいでしょうか?」
「うん、いいよ~♪ で、どこいくの?」
「新しく構築した魔法の試し打ちをしたいので、人気のない狩場にでも連れて行ってもらえると嬉しいです」
「りょうか~い!」
音姫は敬礼していた。
*
連れて来られた場所は、巨大な
さすがにウエディングドレスだったのは狩場に着くまでで。
今は銀色の鎧に身を包んでいる音姫。
「ミュージック・タガー装備! じゃあ、適当に撃っちゃって♪」
「や、適当に撃っちゃってと言われましても……あれじゃ、一匹ずつ釣るなんて無理ですよ!」
「大丈夫、大丈夫。いくらリンクしてうじゃうじゃ寄ってきても私の敵じゃないから」
余裕の笑みを浮かべている音姫が両手に持っているのは所々に穴のあいた短剣。
正直、なところ不安しかなかった。
しかし、銀十字騎士団の一人。
銀盤の音姫の実力をはかるには、丁度いいかもしれないと思い。
みらいは、オリジナル魔法を放つ覚悟をした。
それは、小さなファイヤーボールを100個連ねて発射するという物。
名前は、栞の好みに合わせて漢字。
「では、いきます!」
「うんうん。いつでもいいよ~♪」
みらいは、出来るものならやって見せてくれとの思いを込めて敵陣ど真ん中に居るヤツに向けて魔法を放つ!
「百華一輪!」
みらいの放った一撃は、見事――対象に命中し絶命させるが――
予想通り、周りに居た蜘蛛の敵意も引き付けてしまっていた。
ものすごい勢いで、みらいと同じくらいの大きさの蜘蛛が大量に迫ってくる。
「月光!」
音姫が、叫ぶと同時にゆったりとした重々しい音楽が流れ始める。
それは、穴のあいた短剣が奏でるメロディーだった。
曲調に合わせるためにわざと敵の攻撃をかわしたり、蹴とばして時間を調整しながら舞っている。
圧倒的な実力差がなければ出来ない芸当だった。
「うそでしょ……」
目の前で見せられているのに信じられない凄さだった。
だって音姫がやっているのは曲を奏でているだけ。
そのついでにモンスターを狩っているようなものなのだから――
みらいは、一発撃っただけで空っぽになったマジックポイントを回復するために。
回復薬をがぶ飲みしながら魔法を放ち続けた。
そして約5分後には――
とんでもない数いたはずの蜘蛛が一匹残らず消えていた。
「すみません。完全に実力を見誤っていました」
「いっとくけど。私の本気は、こんなものじゃないからね♪」
「はい。片鱗を見ただけですごいのは、じゅうぶん分かりましたから」
「で、どうだったかな?」
「凄かったです!」
「じゃなくて、演奏の方!」
「あ……はい、とても綺麗なメロディーでした」
「でしょう! 私、昔っからピアノさえ弾かなければ間違いないって言われてるんだよね~♪」
音姫は、笑う。
みらいの脳裏には、楽しそうに演奏している音姫が浮かんでいた。
「でも、ピアノ好きなんですよね?」
「うん! 大好き! だって将来の夢は、ピアニストになる事なんだもん♪」
『なれればいいですね』
なんて簡単には口に出来ない。
「ですが、先ほどの演奏も拝見させて頂きましたが、その……」
「うん。私、へたっぴなんだよね~♪」
「それピアニストとしては致命的ですから!」
「そかなぁ?」
「当たり前じゃないですか!」
ピアニストといったら相応の実力があって当たり前。
でなければ、その名を口にするに相応しい頂きに達することは叶わないだろう。
「んー普通は、そうなのなのかもしれないけど。でもね。私は、音楽が出来るピアニストがやりたいんだよ♪」
「はぁ……」
「だって、音楽って音を楽しむものなんだよ。私は、みんなで歌って踊れるピアニストになりたいんだもん。だから私は歌も歌うしピアノも弾くの♪」
なるほど、だった。
普通のピアニストに対する評価基準はコンクールでの入賞。
大きな会場でコンサート開けるネームバリュー。
CDの売り上げ枚数等の結果が良ければ良いほど上がる傾向にあるが。
彼女は、ソレラに全く興味がないのだ。
言い換えれば、一緒に遊んでくれる歌のおねーさんに彼女はなりたいのだろう。
大勢の観客も要らない。
広いコンサート会場も要らない。
CDなんて作る気もなければ売る気なんてさらさら無い。
卓越した技術もコンクールでの賞も無くたっていい。
純粋に音楽を楽しめるピアニストを彼女は目指しているのだから――
それは、それでいいと思った。
「そうですね、アナタの様なピアニストが、一人くらいいてもいいと思います」
「でしょう♪」
「はい」
「えへへ~。みらりんもなれるといいね♪」
みらいが彼女に自分の目標を話した記憶はない。
でも、人伝に聞いた可能性はある。
自分が炎の魔女に憧れ、無謀ながらもその頂きを目指していることを――
「そうですね」
「じゃあ競争だね♪」
「はい!」
「私がピアニストになるのが早いか、みらりんがたっくんのお嫁さんになるのが早いか♪」
「はい――――!?」
――なぜそうなる!?
「だって、みらりんの夢は、将来たっくんと結婚することでしょう?」
「な、な、な、な、な、な……」
「ナナフシは、ここにはいないよ~♪」
「なんで! そんな話になるんですか!?」
「だって、みらりんの夢は、将来たっくんと結婚することでしょう?」
「なんで、おんなじこと繰り返すんですか!?」
「そんなの、みらりんが素直になってくれないからに決まってるじゃない♪」
「だいたい、龍好には栞っていう婚約者がいるんですよ!」
「じゃぁ、なんで、結婚指輪なんてしてるの?」
「こ、これは、その……」
「例え夢の中だけでも、たっくんのお嫁さんになりたいからだよね?」
完全に見透かされていた。
上手い言い訳の言葉も浮かばない。
「仮にです! 仮に私が龍好と結婚したら栞はどうなるんですか!?」
「どうも、こうも、普通に祝福してくれるとおもうよ♪」
「なっ!」
とても、ウソを言っているようには見えなかった。
考えた事もなかった。
実際に龍好と自分が結婚したらどうなるかなんて――
「どうも、こうも、普通に祝福してくれるとおもうよ♪」
「だから、なんで、繰り返すんですか!?]
「みらりんが素直に。分かりましたって言ってくれないからに決まってるでしょ♪」
「は~~~~~~~~~」
みらいは、
「ココだけの話にしてくださいね!」
と念を押した後。
「分かりました、その勝負受けましょう」
とんでもない勝負を受けてしまったのだった。
「うんうん♪ それでこそ、みらりんだよ♪」
満面の笑みを浮かべる音姫。
みらいの中で――
オリジナル魔法が成功した喜びなんて軽くどこかに飛んで行ってしまっていた。
そして、この日を境に――
みらいと音姫は度々行動を共にするようになるのだった。
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