6-6

 ネットや、リアルの噂でも銀時計の自作自演。


 犯人は、銀時計ではないのか? 


 そんな、話があちらこちらでささやかれるようになっていた。

 龍好は、すっかり怯えてしまい。

 家に引きこもるようになってしまう。


 それでも、栞は、あいかわらずのマイペース。

 まったりした口調で、龍好に話しかけていた。

 それに腹をたてた龍好は、思わず叫んでしまう。


「うるせー化物! 元はと言えば全部てめーのせいじゃねぇか!」

「せやな、ごめんなさい」


 栞は直に頭を下げて謝罪をし、微笑んで見せる。

 音も無く溢れでた涙が頬伝って流れ落ちて行く。

 顔は、笑みを携えているのに。

 決して言ってはならぬ事を言ってしまったと気付いた時には遅すぎた。

 信じていた者に棄てられる怖さ、寂しさ、悲しさ、切なさ、裏切られた落胆がとりどめなく流れ出ている。


「あ……いや、その……」

「ええんよ、今のたっくんは、心がお疲れやからな。本心から言ってるわけやないって、よー分かってる。せやから、そないに悲しい顔せんといてーなぁ。これや、うちがいじめてるみたいやん」

「でも……」


(泣いてるのは、そっちだろ)


「ええんよ、うちはたっくんのおかげで居場所が出来た。それだけでじゅうぶん幸せや。せやからたっくんになら何を言われても、何されてもええんよ。キズつけたかったら好きなだけキズつければええ。 殴りたかったら好きなだけ殴ってええんよ」


 ――そんなのウソだ!


 だってこんなにも栞は泣いているのだから。

 無理して笑顔を作っているのは明らかだった。


「ん~、そんなら、今日のところはコレで許したる」


 栞の両手が龍好の頬を優しく押さえる。

 柔らかく伝わる手の平が温かい。

 唇から伝わる始めての温もりは震えていて、孤独に怯える子供の味がした。


 龍好は栞に何かを与えてあげたいと強く想った。

 安心出来る何かを――

 お互いが、これからも、ずっと一緒にいられると感じられる何かが欲しかった。


「ん~、まだ足りないん?」

「ああ足りない。俺に出来る事ならなんでも言ってくれ! 明日からは、きちんと学校にも行くって約束もする!」

「そかぁ、そんなら、うちともう一つ約束して欲しいんやけど」


 栞は照れていた。


「ああなんでも言ってくれ!」

「ん~、でも~、さすがにこればっかりは、ずるい気がするんよ~」

「ああ分かった、無理な事や、出来ない事だったらきっぱり断わるし、できなかったら謝るから言ってくれ」

「そんなら、言わせてもらいます!」


 ものすごい迫力にびびって体が後ろに倒れそうになる。


「お、おうっ!」

「大きくなったら、うちをお嫁さんにしてください!!」


 栞は目を閉じていた。

 耳にも、瞼があるなら閉じたかった。


「分かった」


 即答だった。


「ほんまに!?」


 真ん丸のお目目を大きく見開く栞。

 そこには驚きと満面の笑みがあった。


「ああ、それで許してもらえるなら安いもんだからな」


 形はどうであれ、それで互いがずっと一緒にいられるのなら、それでもいいと思ったから。

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