5-30
翌日――
「なかなか顔を出して下さらないので、こちらから出向いたんじゃないですか~」
そう言ってきたのは、職業案内所のお姉さんだった。
「なんで?」
首を傾げる龍好。
「ん~も~。あなたは酷い人ですね。待ってろって言ったじゃないですか!?」
龍好は、数日前の事を思い出す。
「確かに言ったが……。俺は、まだ周りが認める成果なんぞ出しちゃいねーぞ」
「ほら、言ったじゃないですか! 勇者様にとって、この程度は通過点でしかないって!」
鼻息も荒く、まるで自分の事のように胸を張って言う美晴。
「え~。でもでも~。釣り大会で飛行艇釣ったじゃないですか!」
龍好は、その場にうずくまった……
「すまん、そのネタはマジ勘弁してくれ」
お姉さんは、おめめをぱちぱちさせている。
「なぜですか? だってあれって釣り師が使うマジックハンドじゃないと釣れない仕様だったこともあって、すっごく問い合わせあるんですよ! 中には以前釣り師をバカにして悪かったって言ってわざわざ謝りにきて下さった方もいらっしゃったんです! も~、私としては、コレだけでじゅうぶんだったんですけど。それに、レベル1でゴールデンゴーレム討伐に参加していながら大活躍だったそうじゃないですか!? しかも、リトライ始まって以来めったに見られないブラックボックスまで入手しちゃって。も~! 私、鼻高々で自慢しまくりなんですから♪」
龍好は、うずくまったままあの日の記憶を確かめる。
当初のストーンゴーレムを倒したのは、刹風とみらい、主にピー助の活躍だった……
二匹目も栞かピー助が倒していた。
道中は、栞メインで進んでいた。
ボスにいたっては、ピー助がボスの頭を吹き飛ばし沈黙している間に取り巻を栞と刹風、みらいが倒していた。
ボスが復活してからも、ピー助が頑張っただけで……後は、栞が倒していた。
「すまん! それなんだが……考えてみたら俺ほとんど何もしてねぇ~」
「も~勇者様ったら~。謙遜しちゃって~。一周しただけでレベルが25まで上がっちゃってたんだから大活躍だったのは見え見えじゃないですかぁ~」
「ん~。まぁ。足は引っ張ってなかったとは思いたいが……」
「とにかくぅ。私としましては、もうじゅうぶん目標は達成したと思っちゃってるので、お礼を受け取ってほしいかなって。きゃは♪」
龍好は、引きつっていた……
「たっくん正座!」
「はい!」
栞のむくれ顔にびびった龍好は、すぐに正座した。
「ふ~ん。あんたやけに張り切ってるかと思ったらそういう事だった訳ね」
刹風が蔑んだ眼差しで睨み下ろしていた。
「なるほど。あんたは、この世界に女釣りに来てたって落ちなのね」
みらいが、旦那の浮気現場を押さえたような顔で眉間に皺を寄せ、頬をぴくぴくさせていた。
「あいや。そういうつもりじゃなくてだな……」
「黒髪のさらさらロングやよねぇ~」
栞が頬を膨らませている。
「胸も、私よりもずっと大きいしね~」
刹風が、ずっとの部分を強調して可哀想な者を見る目で見下していた。
内心、
(私だってまだまだ成長途中なだけなんだからね!)
と思ている。
「あんた好みのおねーさんタイプだしね~」
みらいも負けじと、おねーさんを強調して、いじけていた。
自分の幼い容姿では、どう転んでも太刀打ち出来ない戦力差に泣き出しそうだった。
「あらら。ホントに! なんだ、私って彼のドストライク!? や~ん♪ も~それならそーだって言ってくれればサービスしちゃったのに~♪」
「よかったなぁ。たっくん、おねーはんサービス満点でつきおうてくれるそうやよ~」
「いやいやいやいや。俺はだな、あくまで釣り師として成果をあげて地に落ちた名誉を復活させようと思ってただけでだな」
「その、成果があがったら、いいことしてもらうつもりだったんでしょ! 変態! スケベ! エロ好!」
「ふん。どうせ私みたいなお子様体型は、お呼びじゃないってことでしょ。ふんっ!」
みらいは完全に拗ねてしまって顔を背けた。
その目には、うっすらと涙が滲んでいる。
むしろ泣きたいのは龍好だった。
いわれのない言いがかりでこんなにも厳しい状況になぜ追い込まれているのだろうか?
起死回生の一手が欲しかった。
うつむいた龍好の目には、銀色に光る指輪が映っていた。
これしかないと思った。
左手を、お姉さんに向ける!
「あの! 俺、もう特定の相手が居るんで!」
「んも~。そんなこと見れば分かりますって~」
「それに、礼ならじゅうぶんうけとりましたから!」
「え……? まだ、私なにもしてないわよ?」
「なに言ってるんですか! 貴女の笑顔が最高のお礼ですよ!」
にっこりと笑みを浮かべ、きらりと光る白い歯を見せる。
「んも~、やだ~。なに恥ずかしいこと言ってくれちゃってるんですか~♪」
「それに、まだまだですから! 俺が目指す理想の釣り師は、まだまだ先にあるんです!」
「や~ん。どうしよう~。私、本気で惚れちゃいそう」
お姉さんは、両手を頬にあててくねくねしている。
「と、とにかく! お礼は、もういりません! 俺は、最強の釣り師目指して頑張りますんで心の中で応援してくれればじゅうぶんです! 以上!」
「んも~。ほんとに釣れないのね。分かったわ。そのかわり絶対最強の釣り師になってよね!」
「あぁ! 任せとけ!」
「さすが勇者様! 最高にかっこいいです!」
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