5-29
「残念ながら
「なぁおいよく見てくれよ! きちんとシャチの顔してんじゃん!」
「はい、立派なペイントアートですね」
「ヒレだってちゃんとついてるじゃん!」
「はい立派な主翼に水平尾翼。垂直尾翼もきちんとついてますね」
「さっきまで水の中泳いでたんだぜ!」
「でも、空も飛べますよね?」
そんな感じで龍好の訴えは表彰式終了まで続いていた……
しかし――当然、その訴えは認められず。
栞が欲しがっていた、まじかる☆詩音の主人公が着ているコスチュームは誰にも貰われることなく表彰式は終わりをむかえた。
とぼとぼと……
龍好は、葉巻を咥えた、いかついシャチの見張り番してる栞の元へと歩んでいく。
手ごたえを感じたときは勝ったと思っていた。
栞の満面の笑顔を手に入れたと思っていた。
しかし、受け取った物は参加賞のりんご飴と、選外通告。
「すまん、栞。飛行艇は、魚類じゃないからダメだってさ……」
「ええよ。シャチ丸君かっこええし!」
すでに栞は、この船に名前を付けていた。
「ぐ……」
龍好の顔が栞の笑顔にゆがむ。
悔しかった。
彼女の欲しがっていた物を与えてやられなかった。
やるせない気持ちにさいなまれていた。
大物賞も賛辞も要らない。
ただ、ただ……
この笑顔に白いドレスを着せてあげたかった。
「そないに、悲しそうな顔せんといてなぁ。確かに大物賞は逃したけど」
龍好の顔が一段と悔しさにゆがむ。
「連続2位の記録は更新したんよ!」
「まじか!」
それを聞いてちょっぴり元気が出てきた。
「せっちゃんと、みらいちゃんが頑張ってポイント稼いでたんよ~」
「あはははは……その、後ろから数えてなんだけどね……」
刹風が苦笑いしながら頬をかく。
「うしろ、から?」
2位といったら上から数えてだと思っていた龍好にとって、その意味は理解し難いモノだった。
「そや~。上からでも下からでも2位は2位やからね~。これで7大会連続2位やぁ~」
栞は、満面の笑みで万歳している。
「それって、もしかして……」
「もしかしなくても、ブービー賞よ。で、これが最下位一歩手前の賞品」
みらいが、先程貰ったベストを龍好に手渡す。
「あんた、これ欲しがってたから丁度良かったじゃない」
「いいのか?」
「いいも、なにも。あんた以外にだれがこんなの着るのよ」
ポケットがいくつも付いたオレンジ色のベストは、背中に赤い丸が描かれ。
その中に大漁吉日大漁屋と書かれていた。
見た目は大会運営スタッフが着ていた物と全く同じである。
「あはは……。宣伝用じゃん、これ……」
「まぁ。そのくらい諦めなさい。特別なオプション付きのアイテムなんだから損はないと思うし」
「そうなのか!?」
「ええ。商売運プラス2%だそうよ」
「また……微妙なオプションだなそれ……」
「いいんじゃない。あなたリアルで漁師になるつもりないみたいだし。いっそのことリトライで一番の漁師でも目指したら」
「それは、いいかもしれませんね~。特定の魚は飲食店が高価買取してる場合もありますし。キミ程の腕があれば活動資金に困る事もなくなるんじゃないでしょうか?」
「そんなのあるの!?」
刹風が金の匂いに食いついた。
「ええ。あなたもせっかく飲食店で働いてるのですから雇い主に交渉してみてはいかがですか? 実際にリアルでは食べれないものを、お腹いっぱい食べれるというのもリトライでの醍醐味の一つですからね~。上手くいけば活動費に困ることはなくなると思いますよ」
「よし! 釣好! 今日から一緒に釣りまくるわよ!」
びしっと、龍好を指さす刹風が見たその顔は、
「あはははは……」
苦笑いだった。
「っちょっとね~。いい加減切り替えなさいよね! あんたは、負けたの! はい! これで終わり! 終了!」
「あはは。すまんな栞。なんか俺ばっかりもらっちまって……」
龍好は、受け取ったベストを羽織ってみる。
黒いティーシャツにオレンジ色のベストはそれなりに合っていた。
背中を見せなければ、という前提条件付ではあるが。
「ええよ。うちなぁ。やっぱ、人生はネタでないとあかんと思うんよぉ~。戦闘服狙って飛行艇打ち落とすくらいやないと、うちの相方は務まらんとおもうしなぁ」
「っはははは。そうだな」
「そや。例え魚やなくとも、うちの中ではたっくんが一等賞やからなぁ~。やからこれは、うちからの大物賞やよ~。ちゅっ」
「あはは。サンキュ!」
☆パシャリ☆
シャッターを切る音がして、そのベストタイミングを奇術師が切り取る。
ソレを見た刹風は、すっごく面白くなさそうに見つめ。
みらいは、すっごく羨ましそうに見入っていた。
そして――
リトライで新たな飛行艇持ちが増えたと言う話は瞬く間に広がった。
その追い風をもろに受ける形となり。
飛行艇を釣ってしまったがために選外となって大物賞を逃した釣り師の記事がリトライ全土で広がって行く。
筆天使新聞は過去最高記録を更新する勢いで売れまくっていた。
その、記事のタイトルは!
【船外だったら、大物賞は彼のモノ?】
そこには、いかついシャチの顔をした飛行艇を背景に添えた、真剣狩る☆しおん♪のメンバーと、りんご飴を美味しそうに頬張る
少年にキスを添える無垢な笑みを浮かべた白狐が貼り付けられていた。
大会の表彰式は、時間帯の関係で全員が参列する事はできないため、午前と昼の部門は改めて明日行われるそうだ。
そのため、優勝者も準優勝者も居ない寂しい表彰式は、完全に飛行艇に食われてしまい。
すっかり形ばかりの表彰式となってしまっていた。
とんでもない大物を取り囲む様に大勢の人が押しかけ写真を撮ったり、触ったりしていた。
もともと、この世界には乗り物という物が殆ど存在しないこともあって物珍しい。
しかも、空を飛ぶ乗り物となれば特に興味がなくとも好奇心を刺激された者も少なくなかったからだ。
中には、お金払うから乗せて欲しいという者も居たが。
動かし方が分からないのだから無理な話。
そこら辺は奇術師が、なんとかするが……搭乗条件があり誰でも乗れるわけじゃない事が判明。
刹風が思いついた。
遊覧船でがっぽり稼ぐ作戦は、開始前に
しかも、永久機関ではなく。
超高級魔法鉱石を燃料としている事が判明。
そのため燃料切れを起したら最低でも500万キャッシュが必要と言われて愕然とする刹風だった。
お金を払うから売ってくれと言う富豪も居たが。
移転不可のアイテムだったため売却も物々交換も出来ない。
まさに釣った人達限定のビッグなお宝だった。
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