5-21

 奇術師と栞は、二人で仲良く並んで座り。

 ハンマー・ストライクで水中探査を始めた龍好を眺めていた。

 栞は、折り曲げた膝の上に肘を乗せ、両手で顎を支えて長期戦の構え。

 奇術師は、画面を見ながら仮想キーボードをカタカタ鳴らしている。

 本日の筆天使新聞をどの様にレイアウトするかシミュレーションしているのだ。 

 本当に鯨が釣れるのか否かは別として。

 もしそうなった時の事を考えると、ただ鯨を釣りました。

 では、つまらない。

 なにか絡めるネタが欲しいところだった。


「栞君。もしよろしかったらなのですけど、彼の事をお聞きしたいのですが、よろしいでしょうか?」

「ほえ~。たっくんのこと?」

「ええ。さしさわりない程度でかまいませんので、お願いできませんでしょうか?」

「ん~。せやなぁ」


 栞は腕を組み。

 頭を傾けて眉間に皺を寄せる。

 どこから話すか、どこまで話すか、ではなく。

 ココで笑いを取るべきか、今後に備えてネタを仕込むべきか真剣に考えていた。

 隣に座る少女が――そんな、事を考えてるなんて全く予想できずに奇術師はネタの提供をせがむ。


「やはり過去最高の大物を釣り上げるわけですからね~。ただ釣り上げました、だけでは面白くないじゃありませんか。ですから、今日に至るまでの経緯というか、武勇伝なんかがあれば嬉しいんですよね~」

「武勇伝かぁ~」


 栞は、呟いて頬を染める。

 過去の思い出が鮮明に蘇り、後悔と喜びが交じり合う。

 視線が泳いで、行き着く先は龍好の背中だった。

 どこまでも深い愛慕の表情。

 これは、ナニかあると確信し、にんまりとする奇術師。


「安心してください。プライベートに触れるようなところは載せませんし。完成原稿を確認してもらってからの販売に致しますから」

「ん~。せやなぁ。まだまだ時間かかりそうやしぃ~。うちとたっくんが出会ったところから話すよ~」


 奇術師の目に映った栞の笑みはとても温かで優しさに満ちていて。

 とても、『え!? そこからですか!』なんて本音は言えない。


 だから「では、お願い致します」に、変更したのに。


 栞は、予定通りツッコミがもらえなかったことに「む~」ちょっぴりつまらそうな顔をしてから。

 語り始めた。


「奇術師はんわぁ、ブルークリスタルって知っとる?」

「ええ。もちろん存じておりますよ。ボク自身プレイヤーの一人でしたし。バグプレイヤーに敗北した負け組みの一人でもありますからねぇ」


 過去の敗北を語るには、いまだに負けた理由が分らず、惨敗を自覚しようとしない自分を自嘲しながら両手を上に上げて見せる。

 似た様な表情を何度となく見てきた栞はしみじみと言う。


「そかぁ。奇術師はんも、被害者やったんやねぇ……」

「ええ……」


(なるほど。ブルークリスタルが彼らの出会いの切っ掛けでしたか)


 そんな奇術師の推測とは、ややズレタ角度から栞の思い出話は始まる。


「実はなぁ。たっくんの両親、そのブルークリスタルの開発がお仕事やったんよぉ」



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