5-20
釣り大会当日――
大会に参加する申請場所は釣具屋さん。
大漁屋の正面に設けられた特設入場ゲートで受付をしていた。
参加人数の多さと、なるべく多くの人に参加してもらいたいという運営の意向により一日を三分割して行われる。
第一部が早朝4時から昼12時まで。
第二部が昼12時から夜8まで。
そして龍好達が参加するのは最も参加人数が多い時間帯。
夜8時から早朝4時までだった。
参加費は5万キャッシュで、初心者用の釣り具一式が貸し出され。
イベント専用のサーバーに転送される。
透き通った良質の水を携えた湖の大きさは全長5キロ、最大幅3キロ。
くびれが殆ど無いひょうたんに近い形。
現時点での大物賞候補は昼の部で釣り上がった5メートルもあるホオジロザメだった。
それら巨体を隠すなら中央部の黒くなった深場しかありえない。
しかし、船を持たない龍好達にとってそれは遠い場所。
それなりのお金を払えば船の貸し出しもあったのだが……
すでに、全て貸し出された後だった。
それでも、事前に配られた資料を見て可能性を感じ取っていた。
100メートルを超えた辺りで一気に深くなっていているからだ。
つまり、船がなくとも100メートル以上飛ばす事が出来ればその深場にいる大物を狙う事が可能になるのだ。
天気は、晴れ。
春の雲がゆっくりと流れている。
波のない穏やかな湖。
大半が下の方で魚釣りを楽しんでいた。
その一方で、一行は、上の方に向かって歩いていた。
心地良い暖かさと、柔らかな日差し。
途中までは、彼らと同じく人の少ない場所を求めて歩くものも居たが。
今は、もういない。
釣りを楽しむため。
イベントを盛り上げるために創られた湖。
そこは、波もなければ風もなかった。
湖を囲む様に幅20メートルほどの白い砂浜が広がり。
その周りを石畳の歩道が取り囲み。
さらに、その外側を木々がおおっていた。
時折吹く風も無ければ、木々の香りも薄い。
自然らしさに乏しい擬似空間は、どこか物足りない。
似た様な景色が続く道のりも本来ならば退屈でしかないのだが。
それら不足を補って余りある勝負が始まると思うと――自然と早足となる。
一行は、約40分程かけて目的の場所へ到着した。
周りに他のプレイヤーは居ない。
ほとんどの者が下の大きな方で競技を楽しんでいるからだ。
理由は、歩くのがめんどくさいのと効率の悪さ。
それから屋台等が全く無いのでお祭り気分が楽しめないといったところだった。
そもそも、釣れる確率が下の方が高いと事前に渡された参考データにでかでかと記されているのだから、ここまで歩いてくる意味は他にある。
競技に参加する前から一発逆転を狙うという作戦が決定したからだ!
受付会場には、一部の賞品が紹介されていて。
その中に栞が欲しがっていた、まじかる☆詩音のコスチュームが展示されていたのだ。
それは、選択肢の一つでしかないのだが、現時点で5メートルのホオジロザメを釣り上げたチームがその候補にあがっていた。
狙うは大物賞のみ!
全員の思いが一瞬で決まった。
釣れる確率で言ったら確かに下の方が有利。
しかし、大物が住まう深場までの距離が遠く、岸からでは厳しい。
特に龍好が仕掛けをぶんぶん振り回して遠投する気まんまんなので、他人に迷惑を掛けたくないという理由もあった。
龍好は今日の水質を見定めようと湖に近付く。
水辺で触れた水は……リアルでつちかった感覚の補正を要求していた。
不純物どころかプランクトンすら居る気配がしない。
それなのに水質が柔らかいのだ。
リアルはリアル。
ゲームはゲームと割り切るしかないと思った。
例えどんな環境でも自然は自然と割り切って受け入れることこそ勝利への第一歩なのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます