5-18

 龍好が復活したところで、みらいは、お姫様抱っこを要求。

 従うしかない龍好は、みらいを抱っこして釣具屋さんに足を向けた。


 釣具店、大漁屋――


 外から、中の様子が良く見えるように前面ガラス張りで壁や柱なんかはない。

 さすがはゲームの中の建物と言ったところであろう。

 湖畔に面していてウッドデッキには椅子を置いて釣りを楽しんでいる人が居たり。

 手漕ぎボートや足漕ぎボートでデートを満喫しているカップルも多い。

 どー見ても狩りや戦闘と縁遠い者達がいっぱい居る。

 当然であろう、これがこのゲームの売りでもあるからだ。


 りトライ。


 もう一度挑戦するという意味。

 今まで出来なかったこと。

 やりたくても出来なかった事。

 ここは過去に出来なかったことややりたかったこと、今やりたくても出来ないこと、これからやりたくてもできないこと、それら全てが叶う場所。

 やりたくない家業を継いでしまった者。

 農業をやってみたかった者。

 商売をやってみたかった者。

 色んな思いがここで育まれている。

 この世界では、その気になりさえすればどんな役にもなれるし演じられる。

 釣り道具屋さんを経営する、金髪のお姉さんもそんな一人だった。


 そこに、本日、魔法強化糸を欲しいと言っていた龍好が可愛らしい女の子を抱いたまま現れた。 


「さきほどは、貴重な情報ありがとうございました。さっそくゴールデンゴーレム倒してきたんですけど……」


 龍好の浮かない顔にお姉さんは質問をする。


「なにか、問題でもあったのでしょうか?」

「実は、小さな黒い箱がドロップしまして……」


 その、瞬間――

 お姉さんの顔が引きつった。


「え……」

「げ……。やっぱり、なにかヤバイモンスターとか出るやつですか!?」


 目を逸らしながら、お姉さんは言う。


「はい。その可能性は否定できません。ですので、街中で開ける事を推奨しております。街中ですと最悪モンスターが出ても戦闘にはならず、ただの空箱になるだけですので」

「よかった、開けなくて~~~~」

「そうね、賢明な判断だったわ」

「って、言うか。これじゃ糸買えないじゃない!」

「せっちゃんの言うとうりや。たっくんどないしよう?」

「とりあえず、ココで開けて見てもいいですかね?」

「は、はい……どうぞ……と言いたいところですが。ここでは他のお客様の迷惑になるかもしれないので、外に出ましょう」


 そう言われては付いて行くしかない。

 外に出て、なるべく人通りの少ない所に案内される。


「ほ、本当に、戦闘とかにならないんですよね!?」

「は、はい、そのはずですので……」


 そう言いながらも、お姉さんは2歩ほど後ずさってかまえている。


「じゃぁ、みらい、開けるから降ろすぞ」

「えぇ。幸運を祈るわ」


 龍好がパカっと開けた瞬間だった。


 ☆ボンッ☆


 という音がして白い煙が辺り一面を覆っていた。


「うわ~~~~~」

「ひゃ~~~~~」

「きゃ~~~~~」

「ふぎゃ~~~~~」

「むっぴゃ~~!」


 栞以外の4人が叫んでいた。

 ピー助だけは大喜び。


「にゃはは~! 今のは、煙り玉やよ~!」

「なんてことすんのよ、このバカ!」


 ☆ゴチン☆


「い、いたひ……」


 刹風は、思わず素手で栞の頭を殴ってしまっていた。

 うずくまって、涙を浮かべている。

 お姉さんは目を回し、へたりこんでいる。

 みらいも似たような感じで。

 龍好だけが平気な顔して箱の中身を確認していた。

 栞が居る以上、コレは想定内だと思っていたからだ。

 つまり、先ほどの叫びも演技である。

 煙が晴れて、中身が見えるようになると!


 なんとそこには、キラキラした石が入っていた!


 見た目からすると大粒のダイヤモンドである。


 すっかりほうけてしまっているお姉さんに龍好はつめ寄る。


「やりました、お姉さん! 当たりです! これと糸交換して下さい!」


 しかし、我を取り戻したお姉さんは、渋い顔をする。


「ごめんなさい。うちは、そこまで高価な物を買い取るほど余裕はないので他をあたってください」

「いや、糸と交換できれば後は良いんですって!」

「そんなのダメに決まってるじゃないですか! いいですか! あまりにも不平等な取引をすると経営停止処分にされちゃうんですよ! 大漁屋を預かる者としてそんなことはできません! 猫屋さんにでも行って換金してから来てください!」

「猫屋って、どこですかそれ!?」


 ☆バシン☆


 と、ハリセンの乾いた音が龍好の頭で炸裂していた。


「たっくん、猫屋さんなら、うちらようしっとるからそないに焦らんでえぇよ~」

「まじか!?」

「ほな、お姉さん、驚かせてしもうてかんにんなぁ。また後でや~」 

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