5-17
「やたー! たっくん上手く当たったよ~!」
「あぁ、上出来だ! 今の感触を忘れるな!」
「はいなー!」
栞は、敬礼していた。
その顔は、事をなした嬉しさと、両親を悲しませる存在でしかなかった自分をちょっぴり悲しんだ顔だった。
「むっぴっ――!」
完全復活したピー助がボクを仲間外れにしないでよーと鼻息を荒くする!
「おっしゃー! ピー助やれるか!?」
「むぴむぴ!」
ぶんぶん頭を縦に振る。
再び目を輝かせ尻尾を大回転させる!
「マジックハンドに換装。キャッチ。行くぜ、ピー助!」
「むっぴ――!」
「栞! 盾を回収!」
「はいなぁ~!」
栞が盾を仕舞うのを確認すると、
「全員伏せろ!」
『え!? なんで!?』
そんな疑問を投げ掛ける暇なんて龍好は与えてくれないしココは戦場。
一瞬の迷いがゲームオーバーに直結する世界。
三人とも瞬時に指示に従う。
「うをっ――!」
「むぴぴぴぴいぴぴいぴぴい!」
敵が一体で、しかも的がでかいからこそ出来る大技。
ジャイアントスイングのごとく足を使って遠心力を稼ぐ。
言うなればハンマー投げ。
ゴールデンゴーレムがゆっくりと、でも確実に先制攻撃をしてきた龍好に向けて歩み出す。
不意打ちされた怒りからだろうか?
それとも、これが普通なのだろうか?
ぎらりと不意打ちをした龍好を睨む赤い眼光は鋭く、それだけで普通なら逃げ出しそうな凄みをたずさえていた。
それなのに、誰一人勝利を疑う者は居なかった。
ただただ、次の指示に備えている。
龍好は、リリースする事なく回り続け加速して行く。
そして――
敵が程よく近付いて来たタイミングでピー助を投げ飛ばす!
「ドラゴンヘッド・スクライド!」
「むっ~~~~ぴ~~~~~」
脳ミソが足りないのか?
はたまたそんな些細なこと気にする必要も無いほどに屈強なのか?
ゴールデンゴーレムは、またしても頭を吹っ飛ばされていた。
膝をつき動きを止めたゴールデンゴーレム。
それを確認した龍好が叫ぶ!
「栞! 全力でぶち飛ばせ!」
栞は立ち上がり、
「はいなぁ~! まじかるハンマー装備!」
今度は盾ではなく、きちんと武器を持って敵を討つ。
「一撃撲殺!」
制御不能だった能力を全開する栞。
「栞! 絶対に加減するな!! 外れてもいいから、とにかく思いっきりだ!!」
栞は、溢れそうになる思いを堪えて、ただ頷いた。
化け物でしかない破壊神を思ってくれる存在に、居場所を与えてくれた存在に。
いつだってどこだって人が見てる前では全力なんて出せなかった、出したくなかった。
だって、怖いから。
昨日まで友達だった存在が居なくなっちゃうかもしれないから。
この前は、ある意味理想的な状況だった。
だから、全身全霊で討てた。
でも、今は皆が居る。
どこかで気持ちを抑えようとしてる自分の背中を押してくれる存在が居る。
自分は決して一人じゃないと教えてくれる存在が居る。
だから、飛んだ!
「てやーーーー!!」
大地は、その衝撃を受けきれずくぼんで爆ぜる。
現在の自分が技の乗算無しで出せる全身全霊を栞は叩き込んだ。
自分の何十倍もある的――外れる気はしなかった。
吸い込まれるように大槌はゴールデンゴーレムの脇腹に命中し風穴を開けた。
すると、ゴールデンゴーレムは色を失い――
砂となって、消えて逝った。
「おっしゃ――!」
龍好の勝利の雄たけびに刹風も続き、
「か、かった――!」
「うん! 栞、よくやったね……」
みらいはちょっぴり涙目だった。
ピー助は……
「む~~~ぽぴい~~~」
復活までしばらくかかりそうだった。
そして――
霧散したゴールデンゴーレムの中央部あたりに黒い小箱が出現し大地に落下……からからと軽い音を立てていた……
(なに? これは?)
4人の考えは見事にシンクロしていた。
だれがどうみても金色ではない。
おねーさんが身振り手振りで教えてくれたゴールドボックスはこの小箱より遥かに大きかった。
道中、他のパーティーメンバーがこれ見よがしに戦利品を比べあっていた時に見た箱はもっと大きかった。
しかも、風が吹いたら舞って行きそうな程に軽そうだった。
とてとてと、栞が近付いてソレを拾い上げる……
「なぁ、たっくん……金塊ってこんなに軽いん?」
刹風は、目を逸らした。
現実逃避と言ってもいいかもしれない。
みらいは、思い当たる事があったらしく調べ物を開始した。
龍好は、一抹の不安を抱きながらも栞から黒い小箱を受け取り重さを確認する。
「かっりー!? これってぜって金塊じゃねーよ! てゆーか、こんな小箱じゃ金塊入ってたって糸買えねぇよ……」
「あやや~。まぁ、ドロップ率ええってだけで、必ず拾えるもんやないしなぁ~」
「あ、あのさっ、もしかしたら金塊じゃなくても糸くらいなら交換出来るもの入ってるかもしんないじゃない。ねっ、空けて見ようよ……」
「思いっきり、引きつった顔で勇ましいことを言った勇者を称えたいところだが……よした方がいい」
「え~なんでよ!?」
「あのなぁ仮にも黒いんだぞこれ!」
「うん、確かに黒いよね~、でもさ!」
「バカ! えげつないモンスターとか入ってたらどーすんだよ!?」
「えええええ~! そんなのあるの!?」
「あ~。そ~いえば、ブルクリでもそんなんあったなぁ~」
「ほんとに!?」
「うん、ほんまやよ~。なぁ、みらいちゃんはどう思う?」
「そうね。たぶん空けても問題はないと思うけど、万が一に備える龍好の案を受け入れるべきだと思うわ。安全を最優先するのであれば、今日の経験値と得た金品を失わないためにも明日ログインしてから空けた方が間違いないわね」
「なるほど、確かにその通りだな。まぁ、それは次案として、とりあえずおねーさんに聞いてみよう。一応情報を提供してくれたNPCだからな。何かしら知っている可能性は高い」
一同賛成となり、一行は湖の畔に在る釣具店に向かおうと言う話でまとまった。
「んじゃ、帰還するぞ!」
言うが早いか龍好が取り出した瞬間移動石は輝きだしていた。
もう止められない。
「バカ好何すんのよ!」
「たっくん! それは、あかんよ!」
「呪うからね……」
明らかに三人とも不機嫌をあらわにしていた。
ピー助だけは、何が起こるの、何が起こるのってな感じで鼻息荒く目を輝かせ尻尾を振り回していた。
そして……
「スマン……俺が全面的に悪かった……」
「いいから、今は声出さないで……頭に響くから……」
「個人的には詫びを要求したい気分だわ」
「むぴゃぴゃぴゃ!」
ピー助は楽しかったらしく もう一回もう一回とねだり回っていた。
「ぴーちゃんかんにんなぁ。もうこれっきり。最初で最後なんよ~」
栞が最初に復活する。
「あやや~。ほんまにきつかったぁ」
「って、あんたもうだいじょうぶなの?」
刹風が呟く。
「うん、うちなぁ。この世界だと瞬間最大速度マッハ2、2までだせるみたいなんよ~。せやからなぁ、このての耐性もけっこうあるんよ~」
「ほんとに化けもんだなお前は……」
「――バカ好! なにいってんにょ、あったたたた……」
「おお~。せっちゃんいいかみぐあいやねぇ。けんどなぁ。今のは凄いって意味やろ~」
「ああ、そうだ」
「せやったら全然もんだいあらへん。それになせっちゃん、こうやって言葉選びながら会話されるんもじつは、けっこうしんどいもんなんよ~。せやから、たっくんありがとなぁ」
龍好は、てれている。
「べつに、俺は、思ったままを言っただけだ」
「ふ……なるほど、誰かが口火を切らなければならない。その、汚れ役を買って出たってわけね」
「そうなんおよ~。たっくんの愛。しっかり受け取ったよ~」
「ばか……違うっていってんだろ」
「ほんと、あんたって栞には優しいわよね~」
刹風は、うらやみ拗ねている。
「せっちゃん女の焼餅は、まずいんよ~」
「では、私のまずい焼餅も龍好に食べてもらわないとね……」
みらいの声は、小さいが――刹風同様に、うらやみ拗ねていた。
街の入り口で突っ伏している龍好達を見た通行人の中には、この現象の意味を知っている者も居て。
(あぁ、初心者が、またやっちまったか……)
なんて思いながら、生温かい目で見ていたのだった。
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