5-16

 ―――瞬間!


 金色の頭が吹き飛んだ!

 ゴールデンゴーレムは膝を着き――全身を痺れさせ、その動きを止めていた。

 龍好の狙いは一時的にボスの行動を止めることだった。

 それをより確実にするために、うろうろと徒党を組んだ敵が岩場に入り込むタイミングを狙っていたのだ

 見えなくともソコに魚が居るなら釣って魅せる。

 隙間があれば通して魅せる。

 一瞬のタイミングを逃せば勝利を逃す事すらある大会で6大会連続2位を記録した腕は伊達ではない!

 敵襲を感知した取り巻きがわらわらと湧き出して襲い来る。

 その数5体。

 狙い通り岩場から這い出てくるため、それらは断続的になり。

 一気に攻め込まれる最低な状況と比べればかなりさばきやすい状況だった。

 全て龍好の読み通り。


「栞、一体目を相手に向けて弾き飛ばせ!」

「ほ~い!」


 栞が、癇癪球の連続投球で敵意を一身に受ける。

 すると取り巻きは、龍好に向いていた足を栞に向ける。

 予定通り一体目が栞の間合いに入ると大盾に向かってバカ正直に殴りだす。

 一般的なプレイヤー達ならこれでも充分に価値のある攻撃だが。

 相手は超絶怪力娘。

 しかも、先日とは比べ物にならない怪力を身に付けているのだ。


「ほな、飛ばすよ~! 一撃撲殺。ノーマル・フォルテッシモー!」


 ただの、通常攻撃――押しただけ、で弾き飛ばす。

 先程と違い、今度は、きちんと手加減されている。

 

 しかし、追従する敵には当たらず的を外れて転がっていく。


「みらい! 刹風! 止めを刺すぞ!」


 言われなくても分ってますというタイミングで、「とんずら!」既に刹風は飛び出していた。

 みらいも、呪文を唱え終わり。


「ニードル・フレアー!」


 攻撃を開始していた。

 龍好は自動巻き戻しによって帰還したピー助を取り外すと、ゴールデンゴーレムの回復具合を確認する。


「よしっ!」


 まだ時間か掛かる事を見切り次の攻撃を開始する。


「ニードルスピアに換装」


 先端の尖った、武具に換装。

 これは、相手の行動を奪う事に特化した物である。

 それに、扱いが難しく、より精度の求められる武具だった

 先端の尖った部分を敵の急所にピンポイントで当てなければ効果が得られない。

 完全な実力のみが求められる。

 龍好の目には20メートル先にある空き缶が映っていた。

 それは、手を握り潰された時にリハビリ代わりに鍛錬を重ねた記憶。

 医者も驚く自己回復は女の子を悲しませたくなかったから。

 その意地と執念が生んだ努力の精度はリトライに置いて絶大な力となる。

 刹風が相手の攻撃をひらりとかわした瞬間を狙い打つ。


「ニードル・ショット!」


 手首のスナップだけで、弾き出されたニードルスピアが茶色いストーンゴーレムの的の中心――眉間に突き刺さる。

 動きを止めた相手に対する命中率は100%に等しく、クリティカル率も急上昇する。

 結果的に攻撃力増大と同じ結果を生むのだ。

 この好機を逃すまいと刹風は岩場を蹴り上がる。

 二度三度と跳躍し刹風が天高く舞い上がる。


「斬岩剣、一の太刀!」


 刹風が舞い落ちる! 


「燕落し!」


 逆手に持った刹風の短剣が見事に敵の頭頂部を貫くと完璧なクリティカル!

 敵は、霧散して消えていった。

 重力加速を乗算したクリティカルポイントは、刹風にとって現在までの最高ポイントを叩き出していた。


「栞、次を弾き飛ばせ~!」

「次って、どれなん!?」

「適当に吹き飛ばせばいい!」

「ほ~い」


 栞が物騒な言葉を口にすると今度は二体いっぺんに転がってきた。


「ごめんなさいや~~!」

「気にするな何とかする! ニードル・ショット!」


 ヒュンヒュンと二回空を切る音がすると転がっているストーンゴーレムの眉間にニードルスピアが命中する。

 敵が動いていようと止まっていようとやる事は同じだと言わんばかりに当たり前にこなす龍好にみらいは心底感嘆していた。

 けっして簡単に出来る事ではない。

 きっと知らない人が見たら彼が数ヶ月間、利き手が使えなかった過去があるなんて信じられないだろう。

 まるで、映画か何かのフィクションを目の当たりにしている様な光景だった。


「刹風、みらい! 一体は、このまま沈黙させる。先ずは、右のヤツからだ! ボスが復活する前に、この二体は片付けるぞ!」

「「了解!」」


 二人の声が重なる。

 みらいは、直ぐに枯渇するマジックポイントを回復アイテムで補いながらとにかく。

 魔法攻撃を打ち続け。

 龍好が徹底的に敵を沈黙させ続け。

 刹風が止めを刺していく。


 うごごごごごーーーー!


 地鳴りとも怒りとも受け取れる音が大気を振るわせた。

 ボスが――ゴールデンゴーレムが回復を終え動き出したのだ。

 ゆっくりと岩場から覗かせる顔は完全回復していた。

 予定通り取り巻き3体を処理できた。

 上出来だ!


「栞! 今度は、もう少し力を入れみろ! 狙いはボスだ! いいな、消し飛ばない程度に加減するんだぞ!」

「ほ~い!」


 みらいは羨ましいと思った、本来なら来たくもないはずの世界なのに……

 ここでの自分の立ち回りをきちんと考えぬいたからこそ出来る栞に対する指示の一つ一つに。

 彼女が加減できずに人を傷つけてしまう存在だから、今度は……

 いや……もう今後は、人を傷つけなくて済む様に加減が出来るように。

 それも、楽しみながら遊びながら教えているのだ。

 本来なら父や母がなすべき事を――本当の両親が投げ出した事を龍好は代わってやっているのだ。

 そうまでして大切にしてもらえる存在が羨ましかった。


「一撃撲殺! ノーマル・フォルテッシモー!」


 やはり力の加減が上手くいかないのだろう。

 一体は、残念ながら転がりながら霧散していった。

 しかし、一体は角度スピード共に申し分ない勢いでボスに命中してから霧散していった!


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