5-15
現時点でのピー助の立ち位置……
ピー助は一個人としてパーティメンバーに存在し、かつ道具として認知されていて、それを使って敵を倒した場合は、それを使った者が倒した事になる。
つまりは、自発行動が可能なアイテムとして存在しているということになるのだ……
そんなものは、この世界に無い……
あってはならないはずなのだ。
確かに根底にある空想具現化システムを使って一時的に似たような現象を起こすことは可能だろう。
でも、それには何らかの引き換えが要求されるのだ。
例えば、みらいはピー助を召喚する際に左目の視力回路を差し出している。
だからここにピー助が存在してる。
だったら、アイテムではなく最低でも獣か魔物としてペット扱いになっていなければならないのだ。
主人同様に経験地を得て成長しなければならないのだ。
この世界では、そう決められているのだから――
しかし、現にピー助は全く経験地を得ている形跡も無ければ、ステータスすら見る事が出来ない。
召喚状態を維持するためのアイテムや魔力も不要。
考えられる結論としてもっとも可能性が高いと思われるのは……
この世界の理には嘘が眠っている。
次に、ピー助はこの世界の理を逸脱した存在である。
最後に、それ以外の何か別の要因により特例として認められている。
現時点で安易な推測から答えを導き出すのは得策とはいえない。
だから、今はこのまま受け入れよう。
このまま友と共に歩み戦って行こうと決めたみらいだった。
それはそれとして、みらいは気になった事を聞く。
「ねぇ、刹風。さっきの燕落としっていうのは、なんなのかしら?」
「あぁ、あれ。なんか盗んだ技には固有の名前付けられるみたいでさ。かっこいいと思ったけどダメだった?」
「なるほど、そういう事になってたのね。ただ、鳥獣保護団体から文句言われそうな名前だなぁって思っただけよ」
「げ……。やっぱり、まずいのかな?」
「うちは、ええと思う」
「そうね、実際に燕を打ち落としてるわけじゃないんだからいいんじゃないかしら」
「だな、刹風は変にこだわると空回りするタイプだからな。勢いで付けた名前そのままでいいと思うぜ!」
「むぴむぴ!」
「じゃぁ、このままいくから、よろしく!」
その後、刹風の強い要望で敵は一体ずつ片付けて行こう!
これが、採用される事となり。
龍好が釣り――栞が引き付けて吹き飛ばす!
実に単調な戦闘が続いていた。
何もしない者には殆ど経験地が入らないため、刹風とみらいは実質ただ付いて歩いてるだけ状態だった。
自分が出した提案だったはずなのに……
栞と同じくこの世界で思いっきり暴れまわる嬉しさを覚えてしまった刹風は、ちょっぴり……本音は、結構後悔していた。
一番最初のスリリングな戦いこそ、自分に合っていたのではないのだろうか?
そんな考えすら浮かんできた時。
渓谷が終わり。
ひらけた場所に出ると、ゴールデンゴーレムが目に入った。
ゴールデンゴーレム――金塊――お金。
その思考連鎖により、がぜんやる気がみなぎっていた。
いくつもの岩山がそびえ立っている。
その陰から時おり顔を覗かせる金色の頭。
先程から、据え膳を食わされ続けたピー助は尻尾をぶんぶん振り回し、すぴすぴ鼻息を荒くする。
今度こそ、ボクの出番だと張り切っている!
その遊びに飢えた子供の様な眼差しに耐えれる者は、このパーティに存在しなかった。
ここまでくる道中だって何度となく遊びをねだる子供をあやす様にしてやり過ごして来たのだから。
みらいもここまできたら観念するしかないと腹をくくった。
「おっし! いくそピー助!」
「むっぴーーーーー!」
その一声だけでピー助がマジックハンドに齧り付く。
「まてまてまて、それじゃヘッドアタックになんねーんだって!」
「むぴっ!?」
「いいか、こうしてお前の背中に付けねーと上手く頭から突っ込めねーんだよ」
「すぴすぴ!」
ピー助は了解したと言わんばかりに背を向けてマジックハンドを要求する
「キャッチ! セット完了!」
「むぴっ!」
目を輝かせ鼻息を荒くし本日一番の大回転をする尻尾。
わくわくが止まらないって感じが溢れまくっていた。
「おお~! ぴーちゃん勇ましいなぁ~! 期待しとるよ~!」
「むぴむぴ!」
ピー助は、栞の期待に対し、俺に任せろと言わんばかりに頭を縦に振る。
「は~もう、好きにしてって感じよね……」
「同感だわ……」
先程動物虐待発言をした刹風もココまで見せられては、止めたりしたらかえってひどいというもの。
それは、みらいも同じだった。
「よし! いくぜ! 準備はいいか!?」
龍好の掛け声に対し。
「ほ~い!」
「むぴー!」
栞とピー助は
「って、ゆーか作戦は!?」
刹風は、ボス戦に対する戦術会議を要求し。
「刹風の言う通り、ここは慎重に事を進めることを提案するわ」
みらいは、もっともな意見を後押しした。
「んじゃ、先ずはボスから行く!」
「むぴぴぴぴぴぴ!」
言うが早いか1メートル程にのばしたラインに振り回されるピー助が空中で旋回していた。
その加速力は一回転毎に加速していく。
本来なら、指に糸が食い込んで、そうとう痛いはずなのだが……それがまったくない。
「だから、トリガー使用になってるのか……」
龍好は笑みを浮かべながら、さらに少しずつラインを伸ばし遠心力を高めていく。
一撃必殺こそが、この釣り師という職業の醍醐味の一つであった。
遠距離型物理攻撃タイプにおいて最も非効率的な形でしか攻撃力が上げられない職ゆえに与えられた恩恵。
他の職の追従を許さない程に攻撃力の倍増が与えられていた。
それは、回せば回すほど、ラインを伸ばして遠心力を高めれば高める程に増大して敵を討つのだ。
もっとも、それを可能にする実力があったらの話ではあるが……
回せば回すほど、遠心力を高めれば高めるほど命中率は反比例して激減して行く。
それでも望んだ結果を得る自信と度胸。
そして何よりもリアルでの経験が必須とされる大技。
龍好から吹き出る、その迫力と真剣な眼差しに刹風もみらいも言葉を失っていた。
何度でも、いくらでも龍好は結果を見せてくれた。
だから疑うだけ損な気がしたのだ。
当初の戦闘だってそれなりになんとかなった。
ぶっつけ本番上等!
それで合わせられなければパートナー失格!
第一、既に全身全霊で龍好を信じて指示を待つ栞に対して恥ずかしかった。
金色の頭が岩山に隠れた瞬間を狙って龍好が吼える!
「ドラゴンヘッド・スクライドー!」
これは、正式な技として認知されていないのだから叫ぶ必要は全く無いのだが……なにより気分と思い込みは大事である。
「むっ~~~~ぴ~~~~~」
完全に目を回したピー助がへろへろになった声で飛んで行く先には何も無かった。
刹風も、みらいも、『外れた』と思った。
「栞! 癇癪球、連続投球の用意!」
「はいな~!」
「取り巻を引き付けてくれ!」
「りょうかいやぁ~!」
「ちょっ!?」
刹風が、何か言おうとした時!
岩場の影から金色の頭が覗く!
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