5-14

「むぴーーー!」


 それは楽しさからだろうか?

 それともやめてくれーと叫んでいるのだろうか?


「むぴぴぴぴぴぴぴ!」


 鼻音が絶叫みたいに変わるころ――


 ピー助は、


「リリース!」


 解き放たれた。

 龍好の狙い通りストーンゴーレムのどてっぱら目掛けて飛んで行く!

 ピー助の重さだろうか?

 それともドラゴンとしての戦闘能力だろうか?

 その一撃でストーンゴーレムは霧散して消えていった!


「おっしゃー!」


 ガッツポーズを決める龍好と、


「む~~~~ぴぁ~~~~~」


 目を回したのか、頭が痛かったのか、ピー助は――ぱたりと倒れて動かなくなった。


「あうあうあうあうあああああ……」


 みらいは激しく動揺していた。


「こんの~~~~、おおバカ好っ!」


 ☆バシン☆


 派手に乾いた音がする。

 刹風はツッコミ用スリッパで思いっきり龍好を叩いた!


「なにすんのよ! ピー助殺す気!?」

「あにいってんだ、ドラゴンがこんな事で死ぬ訳ねーだろーが!」

「仮にそうだったとしても動物虐待よ! 見なさい、ピー助だって……」

「むぴーーーー!」


 復活したピー助が竿の先にあるマジックハンドにかじり付き、楽しかったからもっとやってくれと龍好にねだっていた。


「見ろ! ピー助だって問題ねーっていってんじゃねーか!」

「ちょ! ピー助ほんとにまだ飛ばされたいの!?」

「すぴすぴすぴ!」


 ピー助は尻尾をぶんぶん振り回し、目を輝かせていた。

 刹風は、こめかみを押さえ言葉を捻り出す。


「はいはい、わかったからもう好きにしなさい……この、ばかばかコンビ……」

「むぴー!」


 認めてもらえたピー助は、早く早く! 

 次は次は!

 と龍好にねだる。


 そんな様を見て……みらいは震えていた。

 仮にもピー助は、この世界においてそれなりの位置に就くもののはず。

 それを、こんな形で使っていいものなのだろうか?

 たとえ召喚した自分が認めても、この世界からおもいっきり否定されそうな気がした。


「なぁ~。たっくんそろそろ、これ倒してもええ?」

「ああ、わりい、ピー助がもう一回やりたいって言ってからこっちに向かって突き飛ばしてくれ~!」

「あいあ~い! りょうかいしたよ~!」


 栞は受け取っていた、ここまで放置されていたのはネタを期待しての事だと。

 ならばこたえて魅せるが乙女の粋!

 普通に突き飛ばしたら負け。

 ならばと上空を確認する。

 そこには何もなかった。


「一撃撲殺!」


 その瞬間!

 空気が変わる!

 明らかに未知なる脅威が迫ってくる気がして刹風が叫ぶ!


「栞っ! ネタは、いらないから!」

「ノーマル・フォルテッシモー!」


 本来攻撃を受けるだけの装備品でしかない盾。

 それを懸命にがんがん叩いていたストーンゴーレムを吹き飛ばす。

 ドカーン!

 派手に金属と岩がぶつかる音が鳴り響く!

 上空に向かってはじき飛ばしたつもりのストーンゴーレムは超低空で錐揉きりもみしながら龍好達に向かって一直線!

 

 それを見た龍好は、手じかにあったモノを両手で持ち上げ迫り来るストーンゴーレム目掛けて突き出す。


「ドラゴンシールド!」


 盾にされたピー助は、


「むぴ――――!」


 高速で尻尾を振って大興奮! 

 ピー助にストーンゴーレムが当たるか当たらないか――

 ぎりぎりの所でストーンゴーレムは一瞬その形を歪ませ霧散していった。


「あいや~! ぴーちゃんお見事やなぁ!」

「むっぴー!」

「まさにドラゴンシールドやったなぁ」 

「すぴすぴ!」

「ってゆーかさ、栞!」

「なんや、せっちゃん?」

「あんたのばか力で消し飛んだから良かったものの……あの勢いで当たってたら私達が消し飛んだと思うんだけど!?」


 刹風は、ジト目で栞を睨んでいた。


「ううう~。せっちゃんいじめんといてなぁ、うち空に打ち上げよう思ったんやけど……うまく加減が出来んかっただけなんよ~」

「すぴすぴすぴ!」


 ピー助もそうだそうだと栞に加勢している。


「は~。わかったわよ」


 刹風も特殊回路を持って生まれた一人。

 加減が分らない気持ちは良く分っている。

 特に栞は、全力で生きてきた経験がないのだ……

 だからこの世界で自分がどのくらい危険な者なのか理解するために居るという点もある。

 いま自分がしていることは、まったく何も分っていない無垢な子供に八つ当たりしているだけでしかないのだから。


「よし! 一気にレベルアップしたぜ!」

「むぴぴぴ!」

「たっくんおめでとうや~!」


 ピー助と栞が賛辞をおくる中――


 みらいは、先程の戦闘内容のログをたどって確認していた。

 経験地の配分が明らかにおかしい事が気になっていた。

 確かに龍好はレベル1という最低状態。

 敵とのレベル差が大きければ大きいほど入手出来る経験地は増える。

 そう考えれば、ある程度のボーナス的なプラス数値が発生しても納得できる。 

 しかし、今回はピー助という不確定要素の活躍も否定出来ない。

 もし、ピー助が自分の使役したモノと認知されているのなら、止めを刺した者の主に対して恩恵があってしかるべきなのだ。

 でも、それらしいプラス数値は無く、代わりにその数値がごっそり龍好に与えられている。

 内容は、ともかく数値だけで判断すればレベル1の龍好が、ほぼ単独でストーンゴーレム二体を倒した事になっているのだ。

 つまり二体目が消滅したのは、栞の怪力が消し飛ばしたのではなく。

 あの一瞬、空間が歪んで見えたのは気のせいではなく、ピー助が何かした可能性が高い。


(ありえない……そんなこと……)


 だって、それでは登録した覚えのないスキルが勝手に発動したことになってしまう。

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