5-13

「ば、ば、ば、ば……」

「ババロアは無いよ~」

「バカは、あんたの方よ!」


 刹風の鋭いツッコミに対し、栞は少しむくれる。


「うう~。するーされた~」

「ちっ。しょうがねぇなぁ~。魅せてやんよ! 栞、手近な方おさえててくれ!」

「はいなぁ~。癇癪球いくよ~!」


 間近に迫るストーンゴーレムに向けて敵対心を煽る癇癪球を投げつける。

 今回の作戦で使うために、新たに購入したアイテムだ。

 玉は暴投となりストーンゴーレムの足元で炸裂するが問題は無い。

 その音に反応して投げつけた者に襲いかかるからだ。


「ビックオーガシルドー装備!」


 栞の声に反応して巨大な大盾が出現する。

 それを空中でつかんで大地に突き刺す。

 ずどんと地響きがする 先日一気にレベルが上がった超重量級戦士の腕力は飛躍的に跳ね上がっていた。

 がんがんと鉄と岩がぶつかり合う音が渓谷に木霊する。

 2メートル以上ある岩石系モンスターの攻撃力を笑顔で受けきる栞であった。


「こっちは、おっけ~や~!」

「よしっ! そのまま頼むぜ! 栞っ!」

「はいな~! おまかせあれ~!」


 バックステップを二回踏んで龍好は迫り来るストーンゴーレムとの間合いを取る。

 着地と同時に――ヒュン。

 上に向かって竿を振り上げ1メートルほどラインを伸ばしてトリガーを引く。

 そのまま竿を回し錘を旋回させて攻撃力を増大させていく。


「すぴぴぴいいぴっぴぴいい!」


 ソレを見たピー助は、興奮して負けじと自分も尻尾を振回す。

 龍好は、格上のモンスターに対してまともにやり合うつもりなどなかった。

 その目には、すでに狙った魚が映っていた。

 ピンポイントでルアーを投げ入れて獲物を釣り上げる。

 それが、龍好の選んだ戦い方だった。

 狙った位置にストーンゴーレムの足が入る。

 狙った魚を得るためのポイントと重なる。

 ココは狩場だった。


「ハンマー・ショット!」


 追加ダメージを与える攻撃が、相手の走るタイミングに合わせ台地を蹴ったばかりの左足の甲を狙い撃ち!


 放たれたスピードそのままにリールは自動で巻き戻る。

 ハンマー・ストライクが竿の先端に戻ったところで、


「マジックハンドに換装」


 龍好の掛け声に合わせて球体のハンマー・ストライクがマジックハンドに換わる。

 相手がバランスを崩しているのは、わずかな間。

 いくら渾身の一撃であったとしてもレベル1。

 3秒足止め出来れば上出来。

 そんな、中途半端なものよりも、もっと画期的な足止め方法。

 すかさず竿を前に振る。


 ヒュン――


 風きり音と共にマジックハンドがストーンゴーレムの頭にヒット。


「キャッチ!」


 全体重を乗せてストーンゴーレムを引っ張る。

 華麗な連携技で見事に格上のモンスターに膝を付かせた。


「刹風!」

「分ってるわよ!」


 何も言わずとも相手に合わせられる間柄。

 龍好の狙いに気付いた刹風はすでに走っていた。

 膝を付いたストーンゴーレムの膝を踏み台にし、胸を駆け上がって肩で跳躍。

 ゆっくりと立ち上がったストーンゴーレムの更に上から逆手に持った短剣で、渾身の一撃を脳天目掛けて打ち入れる。


「斬岩剣。一の太刀! つばめ落し!」


 格上のモンスターであっても弱点や的確な要点を突く事で動きを止める事が出来る。

 時間をかければ倒す事が出来る。

 それはこの世界のことわりを良く理解した上での戦術だった。


「みらい! 魔法連弾!」


 内心で。


(連弾は、まだ無理よ!)


 と、ツッコミながら改良した魔法攻撃を打ち込むみらい。

 この世界の炎は、主に三つの要素で出来ている。

 それは、熱、音、光。

 それらを、バランスよくブレンドしたのが一般的なファイヤーボールである。

 それを、意図的に組み替えた魔法を構築する。

 それが、みらいの最も得意とする分野であった。

 ゆえに、独創的な詠唱が生まれる。


「爆ぜる炎を弓として。熱の炎を矢に変えて。我と共に敵を打て。ニードル・フレアー」


 極限まで、熱を細く圧縮させた炎は完全に貫通力重視。

 演出効果でしかない光と音を極端に抑え、その力全てを攻撃力に上乗せする。 

 ぼんっと、手元で炎が弾けて細い炎の矢を打ち出す。

 そのスピードは、通常のファイヤーボールの数倍。

 極限まで光量を抑えた青い炎が敵を貫く。

 とはいえ、まだまだ改良中で、火力も理想には、ほど遠い。


「おしっ! 次行くぜ!」

「すぴーー!」


 鼻息を荒げ、尻尾をぶんぶん振り回し、ボクも仲間に入れてよ! 

 そんな顔したピー助が龍好の前でねだる。


「よし分った! お前ドラゴンだもんな! あんなヤツくれー楽勝だよな!」

「すぴすぴ!」


 ぶんぶん頭を縦に振って肯定するピー助だった。

 その顔は期待に溢れ尻尾は、さらに加速して回っている。

 それは、先程龍好がハンマー・ストライクを旋回させていた時よりも遥かに激しく嬉しそうに回っていた。


「おっしゃー! いくぜ! ドラゴンヘッド・スクライド!」


 ソレを見たみらいは、目が点になっていた……

 うすい緑色が龍好のマジックハンドにつかまれて空中を旋回していたからだ。

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