5-12

 龍好達はゴールデンゴーレムが住む渓谷に歩いて向かって行く。

 先頭はレベル1の釣りバカ……

 その隣を、すぴすぴピクニック気分で鼻を鳴らしているピー助が歩いている。

 仲の良い飼い主とペットの図式である。

 本来ならピー助はみらいのペット?

 なのだからみらいの隣を歩くのが筋というものなのだが……

 なぜか登場シーンより龍好にベッタリなのである。

 はたから見たらどー見ても龍好のペットにしか見えず、きっと彼は獣使い見習いか魔物使い見習いにでも見えることだろう。


 歩くこと2時間で目的の場所に着く。

 ここでみらいは一つの謎がさらに深まる事になる。

 それはピー助の存在である。

 なぜなら、この魔物は誰の登録もされていないメンバーになるからだ。

 自分は、おろか誰も登録していないペット?

 それが果たしてこの後も一緒に狩場に入れるのだろうか?

 一般的なオンラインゲームなら、特定の条件でも揃えない限りフィールドや狩場において他のプレーヤーと遭遇する事も多々ある。

 それは、このリトライも同じであり人気の狩場ともなれば大勢の者が集まってくる。

 そのため、この世界ではパーティ単位でパラレルワールドの様な領域を確保して楽しむ様になっていた。

 そうでもしなければ譲り合いとか奪い合いといった非効率的なことになってしまい。

 時間がかかった割には実入りが乏しいなんてことになってしまう。

 特に、この世界は他のオンラインゲームと違い1日にIN出来る時間に限りがあるためこういった効率化には特に力を入れていた。


 パーティメンバーで最もレベルの高い栞がゴールデンゴーレム狩りを申請すると。

 周りにいたプレイヤー達が消える、それは自分達だけの世界が構築された証拠である。


 そして――


 すぴすぴと鼻を鳴らして尻尾をふりふりするピー助も同じ空間に居た。

 パーティメンバーとしての登録はされていない。

 ペットとしての登録もされていない。

 しかし、同じパーティメンバーもしくは、誰かのペットとして認知されているとしか思えない状況。

 明らかにイレギュラーな存在だった。

 歩きながら、可能な限り調べて見たが公式には、この様な設定は見受けられない。

 唯一それでも可能性があるのは魔法使いが使役する使い魔と呼ばれる存在だった。

 しかし、それにはサイズ規定があり……ピー助は、その倍以上の大きさがある。

 たしかにピー助を召喚したのが、自分なのだという自覚はあった。

 その証拠にリアルでは見えない左目が視力を取り戻しているのだから間違いない。

 視覚回路をもつモノが居るからこそ以前同様に視覚機能がつかえるとしか思えない。

 しかも、どこかで繋がっているから――


 ソレが空間的なものなのか魔力回路によるものなのか全く検討がつかないが……


 龍好は意気揚々と先陣をきって進んでいく。

 レベル1なのに……

 そして、先日お世話になったミニチュアストーンゴーレム2体が門番の様にうろうろしているのが見えた。


 基本ヤツらは近付かないと襲って来ないタイプ。


「おっしゃー! この釣竿の威力を見せる時が来たぜ!」

「すぴぴぴー!」


 ピー助も一緒になって盛り上がっている。


 ナゼこのコンビはこんなにも息が合っているのだろうか?


 みらいだけでなく刹風も頭にクエッションマークを浮かべている。


「いいか、見てろよ!」

「おー!」

「すぴー!」

「はいはい、いいからやってみなさいよ」


 大きく期待している栞やピー助と対象的に刹風とみらいは涼やかな目で生温かく見守っていた。

『だってレベル1なんだもん』それが二人の本心。

 攻撃力期待しろって方が無理だった。

 相手は、あの岩男。

 釣竿を振り回して錘を飛ばしたところで与えるダメージがあれば儲けモノって感じだった。

 すーっと、静かに息を吐く龍好の釣竿がヒュンと風を切る。

 手首のスナップだけで飛ばした球体の錘は右側のストーンゴーレムのこめかみにクリーンヒット。

 それを見たピー助と栞が賛辞を送る。


「すぴー!」

「さすがたっくんお見事~!」


 後の二人は静かだった。

 確かに敵がリンクしないタイミングで右側のストーンゴーレムだけ釣って見せた実力はたいしたもの。

 でもそれで終わりだった。

 敵対意識をもったストーンゴーレムは、こちらに向かってどしどし走ってくる。

 先日のイヤ~な思いが顔を覗かせる。


「な! 見たろ! すげーよなこれって!」

「なにが?」

「どこが?」


 みらいと刹風は可哀想なモノを見る目で涼やかにツッコミを入れる。


「は~!? 見てなかったのかよ! いまの!」

「だからなにが?」

「は~……」


 この竿の凄さが分らなかった二人に対し、呆れてため息をはく龍好。

 ならばもう一度!


「こんどは、しっかり見てろよ!」


 もう一体のストーンゴーレムに向けて、再び龍好の釣竿が――ヒュン風を切る。

 今度は、眉間にクリーンヒット!

 二体目のストーンゴーレムもどしどしと走ってくる。


「なっなっ! すげーだろこの竿!」

「すぴぴ! すぴぴ!」


 うんうんと首を振って喜ぶピー助と。


「お~! またしてもお見事や~!」


 素直に的中率の高さを褒める栞。

 ずっと欲しかったおもちゃを手に入れた子供の様にはしゃぐ龍好に刹風から冷たい言葉が降りかかる。


「なにやってんのよバカ好!」

「なにって見てただろ!?」

「ばか! あんたの命中精度が高いのは、はなっから分ってるわよ! だからって、なんでせっかく別々にした相手をいっしょくたんにまとめちゃうのよ!」

「は~!? どこ見てんだよお前! ここだよここ!」


 龍好は、これを見ろと竿を突き出す。

 どー見ても初心者用のしょぼい釣竿だった。

 やすっぽいカラーリング以外に突出したところは見受けられなかった。


「だからなんなのよ!?」

「ばかはお前だ! なんで二回も見せたのにわかんねーんだよ!」

「だから説明しなさいって言ってんの!?」


 そうこうしている間にもストーンゴーレムは迫ってくる。

 しかし二人のいがみ合いは止まらない。


「だから! これだよ! これっ!」


 龍好は釣竿を見せ付ける。

 特にリール部分を強調して!


「だから分んないっていってんでしょうが!」

「ほんとにお前ってバカだな!」

「ばかで結構! とっとと私にも分るように説明しなさいよ!」


 刹風は近付いてくるヤツがきになって仕方なかった。


「この竿のすげーとこはリールだよリール!」

「はぁ~!? リールがどーしたのよ! 投げ竿なんて大抵セットでしょうが!」

「は~~~~、そこまで分っててなんで気付かねんだよ! いいか、このリールにはな! 自動巻き取り機能が付いてんだよ!」

「……は?」


 刹風は、それ以上言葉が続かなかった。


「……それだけ?」


 みらいも凍りついた。


「むっぴー!」

「おお~! それは便利やね~!」


 ピー助と栞は、その画期的機能を誉め称えている。


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