5-7

 そして――


 釣り師の初期装備に身を包んだ龍好は、立派な釣りバカになった。

 麦わら帽子の変わりにサンバイザーを選択。

 服は特に無いからと言われてそのまま。

 黒いティーシャツと裾の短いジーパン。

 靴は、きちんと用意されていてビーチサンダル仕様。

 ワンポイントのヤシの木が南国気分を味合わせてくれる。

 見た目は走り辛そうだが、あくまでもデジタルデータでしかないからと言われ。

 試しに走ってみるとスニーカーと全くかわらなかった。   

 武具の換装は掛け声だけで完了するお手軽仕様。

 安っぽい空色のロッドを肩に掛け龍好は本日最大の難関に挑むのであった。

 いくらなんでも、待たせすぎだ。

 どれだけ罵声を浴びせられることやら。

 まだ、これから釣具屋さんにも寄らなければいけないというのに……


 とほほほほ、な気分の龍好だった。


 そして、その油断が新たなトラブルを引き込む。

 すぴすぴと鼻息を荒げて小さな鶯色うぐいすいろが全力疾走してきた。

 二度ある事は三度ある。

 三度ある事は、


「むっぴ――!」


 四度あった……

 完全に今後の言い訳を模索する事でいっぱいいっぱいな龍好にそれを回避する術はなく。

 渾身の体当たりをモロに受け止める形となり。

 体当たりしてきたモノ共々倒れこむ。

 顔を舐められてくすぐったい。


「な、なんだお前は!?」

「むぴっ!」


 なぜか、言葉が分かるっぽく、その子犬みたいなモノは名乗ったみたいだ。

 しかし、龍好に動物の言葉は理解できない。

 しかも、よくよく見ると犬ではなく……狼に近い気がした。


「って! もしかして、お前。ドラゴンか?」

「むぴゃ!」


 かるく頷く。

 まるで、その通りだよと言っているみたいだ。


「そうか、お前、ドラゴンなんだな!」

「むぴゃっ!」


 周りを見たところ、このドラゴンの飼い主は見当たらない。

 もし、居るとすれば――さすがに何か言ってくるだろう。


「なぁ、お前の飼い主は、どこに居るんだ?」

「むぴ?」


 首を傾げているところを見ると、迷子っぽかった。


「そうか、じゃあとりあえずご主人様に会えるまでは付き合ってやるよ」

「むぴっ!」

「あと、なんて呼べばいいか分かんねぇから、とりあえずピー助って呼ぶけど、それでもいいか?」

「むぴゃ!」


 頷いて嬉しそうに尻尾をグルグルしている。

 ここリトライでは、リアルでペットが飼えない者。

 家族同様だったペットを失い。

 リトライで再会を望んだ者。

 それらも、今の龍好のように連れ添って歩く者が少なくない。

 だから、誰も龍好の事を見て不思議がる者は、いなかった。 



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