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 そんな、考えしか浮かばない龍好に対しオレンジ頭は、心の内を語り始めた。 


「私、いえ、私達。ずっと貴方の様な方を待っていました。釣り師が戦闘用の職業として正式に認められた時の嬉しさは今も忘れません。遠距離型での最大火力という魅力溢れる職でありながら、ないがしろにされる日々。予算も毎年削られて、今ではこんなプレハブ小屋に追いやられてしまいました。今も、少なからず残ってくださってる釣り師の方々も、ただ単にネーミングが気に入ったからというだけで実際に戦闘スキルを使って戦っている方は一人も居ません。そうですよね、皆さん釣りが好きで好きでたまらなっくて、夢の世界でも釣りを楽しみたい釣りバカばっかり。それが悪いとは言いません。でも、でもなんです。先程おっしゃられた貴方の言葉通り気転と発想さえあれば、それなりに戦える要素はじゅうぶんにあるんです。それなのに、皆さん『最大火力が当たらなければゴミだ』って言って辞めていっちゃって。ですから、勇者様! どうか貴方の力で、この釣り師という職業がきちんと戦闘もこなせる素晴らしい職業なのだと皆に見せ付けて下さい!」

「ん~……展開は微妙な気もするが、方向性は同じと感じた気がしないでもない」

「では! 協力して下さるのですね!」


 オレンジ頭の目は太陽の様に熱く輝いていた。 


「ああ、元々こっちが言った事だしな! よろしく頼む! それと、本来なら、ここで握手といきたいところなんだが……ダメかな?」

「あ! はいっ! そうですよね!」


 オレンジ頭は、袖を使ってごしごしと涙をぬぐうと。

 両手でぶんぶんと豪快な握手をしてくれた。


「あはははは……じゃぁ、とりあえず名前を教えてくれ。俺は、さっきも言ったが、龍好だ」


 オレンジ頭は、ようやく龍好を解放する気になったらしく、ぴょんっと元気に飛び跳ねて龍好との距離を取り。

 なぜか敬礼していた。


「はい、私は、美春みはると言います。よろしくお願いしますね。勇者様」

「なぁ、その勇者様ってのは、決定なのか?」

「はいっ! 決定ですっ!」


 やはり、デススペルからは開放されないらしい。

 リアルでも、栞に勇者様と言われる日が目に見える。

 それを聞いた刹風が大爆笑してる光景がカウントダウンしている。

 そして、それを……みらいの生温い瞳がなだめてくれていた。


「は~」


 龍好は、溜め息をはくと。

 困ったような、嬉しいような、それでいてどこか覚悟を決めた笑みを浮かべる。

 そして、改めて見た美春は、小麦色の肌に、元気な笑顔を貼り付けていた。

 向日葵も上を向き喜んでいる。

 先ほどまでは、頼りない妹みたいに感じていたが、どちらかと言うと頼れる姉といった感じだ。 


「では、釣り師になった勇者様の装備をご用意しますね~」


 美春が持ってきた装備は、ある意味とても肥大化していた。 


「あははは、なんかココまで積ると、どこまで積るか試したくなっちゃってて、こんなになっちゃいました」

「いや、ネタとしては、じゅうぶん楽しんだから。余分な脂肪を落としてくれると嬉しいかな」


 美春は、その1センチ程の厚みにまで育った埃を名残惜しげにゴミ箱に捨て払うと、


「はいはい。じゃ~ん! これが初期装備の三種の神器です~!」


 効果音付で箱の中身を披露してくれた。

 そこには、直径3センチほどの丸い玉と膨らんだ白い手袋。

 そして、先がとがった槍の頭みたいな物が入っていた。


「丸いのと、尖ったのは、なんとなく使い道が分るが……この手袋はナニ?」

「はい! この手袋はマジックハンドと言いまして。主な使い道はですね。崖に落ちたり川に落ちたりした仲間の救出や、高いところにある物をとったりするときに使えます」

「ちょ! ちょっと、待ってくれ!」

「はい、なんでしょうか?」

「高い所にある物もそうだが、崖に落ちた仲間の救出ってのはどう考えても竿が折れるか糸が切れるだろ!?」


 美春は、してやったりと鼻息を荒くする。

 龍好の質問が、つぼにはまったのもあるが。

 何よりも、こうして武具の説明をするのが嬉しかったからだ。


「確かに、普通に考えたらその通りかもしれません。でも、リトライはゲームの世界なんですよ! 魔法の世界なんです! 伊達や酔狂でマジックハンドと言うネーミングが付くと思いますか!?」

「なるほど、つまり、相応の能力があるってことか!」

「はい! その通りです! なんと! この、マジックハンドは、つかんだモノの重さを10分の1にしてしまうのです!」

「まじか!」

「はい、まじもおおまじ!」

「確かに、10分の1になればかなりの重さまで持ち上げれるぞ、すげーじゃん! 誰だよ、釣り師使えねーとかほざいたヤツ!」

「ですよね~。実際、数少ない釣り師をやってっくださってる方も、もしもの時に備えてこれだけは持ってるって言ってますし。やはり、水中に落としてしまった荷物を釣り上げるにはこれが一番ですから!」

「すまん、なんか今のは同意しかねる……なんか聞いてて痛い」

「ええ、私も言っててちょっぴり痛かったです……」


 龍好は、苦手方向に流れそうになった空気の流れを無かった事にして押し退ける。


「っとまぁ、それは置いといて、この丸いのと尖ったのはどう使うんだ?」

「はい! 丸いのは、ハンマー・ストライクと言いまして。当たって欲しいと言う願いが込められています」

「いやいや、願い込めるんじゃなくて実際に当てなきゃ意味ないだろ!」

「そんな事ないですよ~。だってこれ命中率プラス2%の補正付いてますから」

「なるほど、確かに微妙に当たりやすくなってる気がするな」

「はい! 数多く攻撃回数を重ねれば、きっとこのありがたみが伝わると信じてます!」

「んじゃ、この尖ったのは?」


 最後の一つを指さす。


「はい! この先が尖ったのは、ニードル・スピアと言いまして相手の動きを止める事に特化したモノなのです!」

「ちょっとまて!」

「はい、なんでしょうか?」

「今、相手の動きを止めるって言ったよな?」

「はい、言いましたよ」

「あのなぁ。これ使って相手の動きを止めて、ハンマー・ストライク打ち込む。これのコンボ繰り返すだけで単体ならモンスター狩れるじゃねーか!」

「ああ~、それが出来たら理想的ですけど」

「なんか、問題でもあるのか?」

「はい、実は、このニードル・スピアは扱いが難しいんです。なにせ、モンスターの急所を狙い撃ちしなければその効果は得られないんですよ……。それに補正のオマケも無いですし……。特にボスモンスターが相手の場合だとそれなりに攻撃力上げた状態じゃないとほとんど効果がないんですよ」

「ボスとやる時は、よく分からんが、ザコなら問題にならん」


 美春は、目をぱちくりさせる。


「もしかして勇者様は、動いてるモノに当てる自信が有ったりするんですか?」

「まぁ、速度と距離にもよるが……1センチ位の物を打ち抜くくらいなら出来るぞ」


 まるで宇宙人に遭遇したような目で美春は龍好を見ている。


「いっせんち、ですと……」

「一応、最高記録は、適当に投げてもらったパチンコ玉を27回連続で打ち落としたってくらいだが、まだ足りんか?」


 美春は、目を輝かせた!


「さっ、さすが勇者様です! 凄いです! もうそれって妙技の世界の話ですよね!」

「そうなのか?」


 龍好にとっては、ほぼ日課だったため、いまいち凄いという感覚が無かった。


「はい! きっと勇者様なら先程ご自身でおっしゃられたミラクルコンボを成功させると美春、信じております」

「いや、敬礼はいらないから」

「それでは、今度は竿の説明をいたしますね~。こちらは、トリガーロッドと言いましてショート、ミドル、ロングと三段階に可変し様々な戦場での活躍を約束します」


 使い慣れたスピニングリールではなくベイトリールというのは不満だったが。

 これもただ形がこうなっているだけで、初心者の敵である短所も特になく。

 バックラッシュが起こってラインが絡まることもないそうだ。

 左右どちらの手でも使える万能型で、ようするに釣り竿の形をしたゲームパッドである。

 付いているボタンは4つ。

 自動巻き取りボタンとロック&解除ボタン。

 リール側面に付いたマニュアルorオート変更ボタン。

 普段は、リールの取っ手は仕舞われているが、マニュアルモードにするとぴょんと飛び出す仕組みで、もう一度おすと引っ込むそうだ。

 この竿の名前の由来となっているリールよりも上の方に取り付けられたトリガー。

 トリガーを引いた状態が指で糸を押さえている状態と同じで、放すとおもりが的に向かって飛んでいくそうだ。

 こんな感で予定時間を大幅に過ぎながらも全ての説明を受けきり――

 初期レベルで使える技の習得及び登録も無事に終了。

 覚えた技は二つ。

 一つは、対象の動きをを3秒止める技。

 これは、ニードル・スピアを使って対象の弱点をピンポイントで突く必要があるそうだ。

 もう一つは、ハンマー・ストライクで攻撃した時に追加ダメージを与えるもの。

 基本的には、ハンマー・ストライクだけで戦うのが一般的だと言われたが……

 数少ない意見は、とりあえず置いといて、思うように使ってみることにした。   

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