5-8

 釣具店大魚屋の一角。

 そこは、明後日を大会に控えた戦場における待機所みたいになっていた。

 大勢の釣り人が集まり わいわいと自慢話に花を咲かせている。

 皆互いに互いを牽制し合うぴりぴりとした空気が張り裂けそうなほどに感じられた。


 なにせ、年に一度の一番大きい大会。


 タイトルホルダーになる事が彼らの夢であり。

 それを阻むものは、みな敵だった。

 リアルでも釣り漬けの釣りバカどもだけではない。

 趣味の一つとして釣りをたしなむ者も居ればマイホームのローン返済による生活苦から竿を置いたおっさん達。

 彼らの目には、少年の様なきらきらした輝きがある。

 昔は、よく海に出てなにを釣ったもんだとか、川の主を釣ったとか過去の栄光に尾ひれを付けて踏ん反りかえる姿は、本当楽しそうだ。


 そこに、新たな釣りバカが加わる。


「わりーなおっさんたち!」


 皆がそのバカを見る。

 ソコには両手を握り締めて脇に沿え踏ん反りかえるアホが居た。


「この大会は俺がいただく!」


 びしっと!

 親指で自分を指して自慢する!


「俺は、リアルで6大会連続2位のタイトルホルダーだ! この大会でも2位とって、てめーら、まとめてぶったおしてやんよ!」


 スルーされた……

 誰一人バカを相手にするものはなく……先程の談義を何も見なかった事にして再開していた。


「ひで~。完全無視かよ……しかも、ソコは普通1位だろっていうツッコミもねーし……つまんねーなぁ」


 龍好の思考回路は、栞に侵食されつつあった。


「まぁ、いい。後で、吠え面見せてもらうとするさ。覚えとけよ!」


 完全に悪者の捨てゼリフである。

 しかも、誰一人そのセリフに耳を傾ける者は居なかった。


 その後――


 龍好は、当初の目的。

 クジラでも釣れる糸が欲しいと店員のお姉さんにお願いしていた。


「でしたらこちらになります」


 普通に出てきた。

 しかし、見せられた商品はとても細く心元ない。


「この糸には魔法がかかっていまして、軽くてしなやかで強靭なんですよ」

「じゃぁ、それ下さい!」


 と言ってみたまではよかったが、とても手が出る値段ではなかった。

 しかし、釣り大会が開催されるのは明後日。

 地道に稼いでいたら間に合わない。

 そこで、龍好は、聞いてみた。


「画期的で効率の良いクエスト又は、高価なアイテムをゲットできるモンスターっていませんかね?」

「でしたらゴールデンゴーレムを狩るのがいいでしょう。ゴールドボックスという名の宝箱を高確率で落としまして、その中身も金塊なんですよ!」

「まじっすか!」


 まさにゴールデンである。


「はい! マジもおおマジです! しかも、魔法強化糸と同じくらいの値段での買い取りとなりますので、お客様が望まれる鯨釣りが可能になるかと」


 それを聞いた龍好は、ルンルン気分で店を後にしたのだった。



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