5-4
一般教養試験をそれなりの成績で通過し、職業選別もつつがなく……否。
微妙に手間取りながらも終了した龍好は、指定された場所に足を向けていた。
その顔は期待や不安が入り混じったというよりは不可解な問題を抱えてしまったかのように変な顔をしていた。
原因は、職業適性検査にて釣り師という職業がベストマッチしたからである。
約10分ほど前――
職業案内所にて――
「あなたのベストマッチ職業は……釣り師……ですね……」
それを言い渡されたとき龍好は、
「おっしゃー!」
ガッツポーズで感激していた。
所定のプレートにエッグをかざした時点で分かっていたこととはいえ。
改めて言われると嬉しさ倍増。
思わず不気味な小躍りまで披露していた。
出会い頭のつまづきで、くじけそうになっていた心が、このサプライズで一気に復活!
周りの目を忘れ、吼えてしまったとしても仕方がない。
龍好は正に大興奮だった。
しかし……
対照的に、それを言い渡したおねーさんの顔が引きつっていた。
そして、とても可哀想な者を見るような目で、
「申し訳ありませんが現在こちらの職業は大変人気がなく世間から生温い目で見られる傾向がありまして……特に問題がなければ二番目にマッチングしている戦士系をお勧めしますがいかがでしょうか?」
こう言った。
そして、
「なんでっすか? もしかして釣り師って戦闘できないんすか?」
龍好の言った。
この、ごくごく普通の質問に対し、更にその可愛らしい顔を引きつらせる。
「え~~~~~と、ですね……戦えなくはないのですが……その、攻撃が当たらないというか、やるだけ無駄というか……ただ魚釣りをしたいだけなら、適当に戦士系統の職業を選択してお茶を濁すというのが一般的でして……」
「俺、職業差別って良くないと思います!」
この、あまりにも隙のない正論に、おねーさんは悲しい顔を浮かべて最後通告を始めた。
「こほん。それでしたら、私もしっかりとお仕事をさせていただきます!」
「って、あんたいままで遊んでたんかよ! こっちは真面目に話してるっつーのに!」
「は~。そういう意味ではないのですが……」
「じゃぁーなんなんだよ!」
「いいから、よ~~~~く、聞いて判断してくださいね!」
急に真剣な顔つきになったおねーさんにびびった龍好は、
「お、おうっ!」
おとなしく返事をした。
「まず、釣り師になっても、まともな戦闘能力は期待しないで下さい! 以前、最大攻撃力の高さ故に転職希望者や新規登録者にもてはやされた事もありますが! 実際は、当たりもしない
「んじゃ、釣り師でいいっす」
白い歯をきらりと光らせて、満面の笑顔で即答した龍好に対し、おねーさんは固まっていた。
そして、おも~~い。
おも~~~い。
溜め息をはくと……とても悲しげな顔で呟いた。
「では、転職の手続きについて、ご説明させて頂きます……」
「あんで、就職する前に転職の手続き教えられんだよ!」
龍好の強烈なツッコミに対し、おねーさんは涙で反撃した!
「だって……来るもん。絶対来るんだもん。みんな、みんなそうやって私を虐めてたんだもん。ぐすん……てめーが、へんな職業推薦したからいけねーんだ! とっとと転職の手続きしやがれって。よってたかっていじめるんだもん。こっちは、言われた通りお仕事してただけなんだもん。ぐすん……わたし、わるくないんだもん……」
おねーさんはすっかり拗ねてしまった。
なだめるのは大変そうだ。
「いやいや、ちょっ、ちょっと泣かなくたっていいじゃん!」
時として、うっすら涙の浮かんだ女性は色っぽさが増す時がある。
おねーさんは、魅惑という名のスキルを発動した。
「じゃあ、戦士系で登録してもいい?」
それは、相手の視界にソフトフォーカス効果を発生させ、セリフにエコーをかける。
状況次第で一撃必殺となる落とし業。
その、上目使いで懇願してくるおねーさんの攻撃力は龍好の予想を遥かに超えていた。
黒髪ロングさらさらストレート。
まったとりとした優しい顔立ち。
おおきな胸。
自分より少し年上。
全てが龍好の好みど真ん中だった。
おねーさんの最終兵器は、龍好に対し完全無欠のクリティカル。
瀕死――いや、既に殺されているのかもしれない。
戦意は吹き飛び、その申し出に頷く事しか考えられない。
「は……ぐ……」
それでも、龍好は、はい……と言うのを無理やり飲み込む。
一瞬脳裏を過ぎった。
みらいのジト目、栞のむくれ顔、刹風のさげすんだ瞳が、奈落の底に落ちる最後の一歩を踏み止まらせたのだ。
そして、無理やりでも、おねーさんを元気付けたくて、やぶれかぶれで言い切った!
「まってろ!」
「はい? なにが、ですか?」
「俺が、釣り師のダメなイメージぶっ飛ばしてやる! そして、おねーさんが推薦したのは間違いじゃなかった! てめーらの腕がナマクラだっただけだって! 証明してやる!」
おねーさんは、あまりの衝撃に、目をぱちぱち繰り返していた。
「な、だから泣くなよ。せっかくの可愛い顔が台無しだぜ!」
絶対に、刹風にだけは聞かれたくないキザなセリフ。
どんな暴言でからかわれるか分ったもんじゃない。
内心、たのむからこれで誤魔化されてくれ~~~!
と、願っていた。
「ほ、ほんとうに?」
おねーさんが、復活の兆しを見せた。
これは、脈ありと踏んだ龍好はたたみかける!
「ああっ! まかせとけっ! 証明してやる! 釣り師も、やれば出来る子だってな! そして誰もが認める立派な釣り師になってやる! だから、それまで待ってろ!」
「はい……ぽっ」
さっきまで泣いてたカラスはなんとやら。
頬を染めたおねーさんは、笑顔で龍好の登録を済ませると、
「いってらっしゃ~い、期待裏切ったら泣いちゃうんだからね~」
大きく手を振って送り出してくれたのだった。
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